※写真はイメージです photo by TheoRivierenlaan  via pixabay(CCO PublicDomain)

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 観光業で成長が著しい業界として豪華客船によるクルージングがある。日本だけでも、2017年の訪日クルーズ旅客数は前年比27.2%増の253.3万人、クルーズ船の寄港回数は前年比37.1%増の2765回と過去最高を記録している。2016年に世界でクルージングを利用した観光者は2400万人だという。

 豪華客船によるクルージングといえば、かつては定年者が対象とされていたが、最近は若者が利用客として加わりつつあるのも、成長の一因であるという。(参照:「El Pais」、「El Confidencial」)

 世界のクルージングが盛んな地域は<カリブ海とバハマ諸島(33.7%)、地中海(18.7%)、地中海を含まないヨーロッパ(11.7%)>の3つの地域で、世界の64%のシェアーを占めている。(参照:「El Confidencial」)

◆規制の緩いタックスヘイブン船籍の船が多い

 世界のクルージングのビッグスリーは「カーニバル・コーポレーション(Carnival Corporation)」、「ロイヤル・カリビアン・インターナショナル(Royal Caribbean International)」、「ノルウェージャン・クルーズ・ライン(Norwegian Cruse Line)」である。この3社で世界のクルージングの82%のシェアーを持ち、それぞれ本社は米国にある。

 クルーズライン国際協会(CLIA)に加盟しているクルージングの主要船会社は58社あるという。水、食品、医療、下水設備、乗客安全などの守るべき規定がCLIAで定められている。

 現在、世界で運行しているクルージング411船の内の70%はバハマ、パナマ、バミューダ諸島、マルタの4カ国の国籍になっているそうだ。これらの国では環境規制が緩く、タックスヘイヴンの国でもある。また客船の耐久性への規制は緩く、20年以上運行しているクルーズが結構あるという。(参照:「El Pais」)

◆ブラックな労働環境、汚物の海洋投棄

 前述のクルージング最大手3社は米国に本社を構える船会社であるが、乗組員は季節労働者のようなもので労働契約条件はその船が登録してある国籍の基準に従うことになっているそうだ。乗組員の契約は最高9カ月で、週労70時間、休暇はなく、家族と離れての生活で、しかも通勤があるわけではなく、同じ船内での寝泊まりとなる。乗客の目には見えない乗組員のこのような厳しい勤務事情がある。

 更に、環境保護という面において、3000人の乗客が1週間乗船している客船の場合の人的廃棄物は7万5000リットル、浴室トイレそして食器洗浄に使用する水量は37万リットル。加えて、洗濯などに使用される水も必要である。それに廃棄されるゴミの処理も必要となっている。これらの汚水そして汚物は海に捨てられるわけである。地球の環境保全という面において客船は必ずしも綺麗な観光業ではないのである。(参照:「El Pais」)

 港に停泊している間もエンジンは作動しており、その間も汚水・汚物は海に流れ、大気中にCO2を放出しているわけである。シンフォニー・オブ・ザ・シーズの6つの発電機は1時間に14.9トンの燃料を消費しており、この量は5655台の車が約50kmの距離を移動するのに必要なのに匹敵するという。(参照:「El Diario」)

◆乗船後の行方不明者も少なくない

 また、日本でも寄港地周辺における万引きやポイ捨てなどの迷惑行為が目立つため、商店街の中には、「クルーズ船客お断り」の貼り紙を掲示する店もあるという。(参照:読売新聞)

 日本以上にクルーズ船が寄るスペインのマジョルカ島では、普段の人口は111万5999人であるが、昨年8月は客船の入港で人口が一挙に207万8276人に膨れ上がったそうだ。同島の人口がひと月でほぼ2倍近くになったのである。その結果、地元市民にとって生活に不自由を感じるようになったのである。しかも、クルージングに乗船しての観光客は上陸して思い出になる商品を僅かに買って、記念写真を撮るだけというパターンが大半で地元の富の蓄積にはならないとしている。(参照:「El Diario」)

 そのため、シンフォニー・オブ・ザ・シーズの各寄港地では環境汚染や地元市民の生活を脅かすことになるとして市民から寄港反対の声が上がっているほどだ。

 さらなる問題もある。それはなんと、「乗客が消息不明になる」問題である。

 クルージング犠牲者協会(Cruise Victims Association)によると、2000年から現在まで200人が乗船したあと行方不明になっているという。大型客船はあたかも海上に浮かぶ小さな町といった感じだが、しかもそこには警察はいない(厳密に言えば船長などは警察と同様の権限を持つが)。乗船した後、酔ぱらって海に落ちたり、殺害されたり、盗難やセクハラに合ったりで、乗客の安全という面においては些か問題ありなのである。(参照:「El Confidencial」)

<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。