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●夢を追う男、阪根 信一

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ 代表取締役社長の阪根 信一氏。世界初を謳う全自動衣類折りたたみ機「Laundroid(ランドロイド)」を開発中の男だ。2015年910月にプロトタイプを公開した時から話題をさらった同製品だが、2017年度中の出荷開始がずれ込み、現在は2018年度の出荷開始を予定している。

2015年に存在が明かされてから2年強、出荷が順調に行ったとしても消費者の手元に届くまでおよそ3年の月日がかかる。これがクラウドファンディングによる資金調達であれば、昨年11月に出荷延期を発表した段階で"返金祭り"になってもおかしくない状況だろう。

しかし、ランドロイドのバックにはパナソニックと大和ハウス工業という大手事業会社、そしてSBIインベストメントなどのファンドがいる。2005年頃から温め続けてきたアイデアを世に放つまで、干支1周分以上の歳月がかかったが、それでもなお、2大事業会社が出荷延期に首を縦に振ってでも実現したいランドロイドとは何なのか。

○出荷遅延も、完成度を高く

出荷が遅れた理由として阪根氏は、パナソニックと大和ハウス工業と議論する中で、「この(ハードウェア)スペックで出荷し、その後はソフトウェアのアップデートで対応していこう」という意見があったことを明かす。しかし、メカ機構を必要とするランドロイドは、スマートフォンのように「劇的に性能が向上する」という保証はない。

「ベンチャーとして、出荷時期を優先という話もあったが、逆に、世の中に初めて登場する製品で『この基準でなければならない』という答えがなかったのも事実。だったら、その価値判断の基準をここまで引き上げましょう、ということでスケジュールし直しました」(阪根氏)

ランドロイドは、予定価格で185万円の代物。アップデートが難しいハードウェアを中途半端に妥協しては、その後の製品展開に長期的な影響を及ぼす。それであれば、最初から万全を期すというのが阪根氏らの考えなのだろう。

○10年以上かけてランドロイドという夢を実現したワケ

2005年に阪根氏がアイデアを夢想したとき、アイデアを実現できる要素はまだまだ足りなかった。

「ここに至るまで、さまざまな『反対意見』との戦いを繰り返してきました。社内の技術者が『やりたくない』と言い出し、『完成するわけがない』と会社を辞められた。間にはリーマンショックもあり、既存事業を切り詰めているのに、『なぜランドロイドを続けるんですか?』と経理部長から詰められた。さらに言えば、さまざまなVCから『出資したくない』とも言われましたね」(阪根氏)

ベンチャー企業というイメージがあるセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズだが、もともと同氏の父・勇氏が滋賀で「I.S.T」という会社を立ち上げており、阪根氏も一時期社長を継いでいた。日本らしいB2Bのモノづくりテクノロジー企業として、先端複合材料などを開発。阪根氏自身も、I.S.Tで新規事業開発に着手し、成功を収めていた。

「既存事業を伸ばしつつ、新しい事業を、と考えた時に、個人的な目標との乖離にぶつかりました。2030年までに売上高3500億円、経常利益20%を叩き出す、研究開発型モノづくりを極めたいと思った。そのためには、B2Bのコンポーネント事業だけでは難しい。B2C完成品をやって、それで初めてその規模まで行ける、と」(阪根氏)

B2C製品を、という想いから2005年にランドロイド、2007年にも鼻腔挿入デバイス「ナステント」を着想した。B2B事業では10%〜30%という年率の成長は見込める。だが、50%〜100%という成長は難しい。ひいては2030年の3500億円という目標にはたどり着けない。

○アメリカでは"ボツ"も、パナ、大和ハウスらが救いの手

B2C事業をやるからには、成長に耐えうるだけの資本の増強、ブランディングやマーケティング部隊を必要とする。テクノロジーはもともとの得意領域、2008年に素材メーカーのスーパーレジン工業を買収したほか、子会社も設立した。当初は2015年頃を目処に製品開発を進めていたことから、製品化がランドロイドより容易だったナステントを売り出そうとしていた。しかしそこで、一つの壁があった。

「父に、B2C事業を進めるために、そろそろ外部資本を取り入れて、IPOも視野に入れたいんですと伝えたんです。そうしたら『B2Cは良いけど、外部資本入れるのはやめてくれ』と言われた。それまで、I.S.Tで自由に事業をやらせてもらっていただけに、内心『えっ』と思った。ただ、I.S.Tは父が作った会社。僕が変えるわけにもいかず、姉にI.S.Tを引き継ぎました。セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズは、B2C事業を進めるために作った、スピンアウトベンチャーとして再出発したんです」(阪根氏)

紆余曲折を経てスタートしたセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズだが、前述のように増資の引受先がなかなか見つからなかった。スタートアップならアメリカだ、とアメリカ留学の経験を生かして渡米してVCを回ったが「ナステントとランドロイド、カーボンゴルフシャフトという3つの事業を提案したんですが『やることがバラバラ過ぎる』として受け入れてもらえなかった」(阪根氏)。

結果として、技術をわかる、社会を変えるという意義を認めてくれたのは、ホームグラウンドの日本だった。パナソニックは家電メーカーとして、ある種のミッシングピースを埋めるため、大和ハウス工業も住環境の価値向上を目指すという目的があっての提携・資本参加だったのだろう。「最近になって、完成が近づいて実現性が高まるとアメリカから『出したい』と言われています(笑)」(阪根氏)というが、ある意味で日本らしさが溢れた出資案件と言えるだろう。

○技術的ハードルが高いからこそ、アドバンテージに

10年以上の歳月をかけたランドロイド。それだけ先行投資してきたからこそ「ライバルはどこかにいるだろうとかなり探したんですが、本当にどこにもいない」(阪根氏)。実現できると思う人がいなかったんだろうと阪根氏は笑うが、開発過程ではさまざまな壁があったという。

一例では、衣類の山から一枚一枚認識してピックアップする技術。昨今は画像認識技術の発達によって簡単に認識できるのでは?とも思うが、そこからアームを伸ばしてピックアップする行為が繊細であり、「未だにプレイヤーはいないと思う」(阪根氏)。衣類を畳むという行動は米UCバークレー校のロボットベンチャーなど一部しかないという。

今年のCESでは「FoldiMate」という折りたたみ機がコンセプトで発表されているが、もともと2018年販売を想定していたものが2019年にずれ込んでおり、いちいち自分で洗濯物をセッティングしなければならない。折りたたみ領域だけでも、技術的ハードルが高いことがわかる。

一方のランドロイドは、タオルやTシャツなどの分類別、お父さんや子供といった家族別の自動仕分けも実装する。ある意味「お手伝いさんが勝手にやってくれる」という環境を実現するのだ。もちろん、FoldiMateは格安(数十万円程度の想定)というアドバンテージがあるが、画像認識や複雑なアームによる技術開発は、派生製品など、より長期的な製品開発の可能性を見据えている。

「昨今のIoT製品の広がりを見ると、時流に乗っている部分があるなと思います。(アイデアが出た)2005年とは全く違う。技術的にもそうですが、マーケティング的にラッキーなんですよ。例えば、AIやロボティクスが徐々に人々に受け入れられていますし、実際に私たちもそのテクノロジーを取り入れています」(阪根氏)

●目指すはソニーと「松下幸之助」

阪根氏は、目指す"企業"としては「ソニー」、経営哲学の理想像は「松下幸之助」と話す。売上高の成長曲線は、ソニーをイメージし、「意外に長くない30年」(阪根氏)という期間の中で、1兆円という自己目標を見据えつつも、3500億円の売上高目標を掲げた。

なぜ、日本のB2C二大メーカーを志すのか。理由はモノづくりの大切さだ。昨今は金融、IT領域が大きく伸長する。これらの領域は業種横断的に「プラットフォーム化」を目指す稼ぎ方だ。だが阪根氏からすれば「やはりモノづくり、それが一番スケールする」。

実際、世界一の時価総額はアップルであり、日本一もトヨタだ。アップルはファブレス企業ではあるものの、誰もが手に取るiPhoneで時代を席巻する。

「大学院に居た時は『教授になりたい』と思って論文と同時に、経営哲学の本も読み漁った。その中で感じたことは、ビジネスの場は大学とは異なり、『戦争』の世界。勝つためには競争を排除しなければならない。ITの世界は競争が多く残るが、モノづくりは技術でぶっちぎれば競争のない世界になる」(阪根氏)

ランドロイドは、さまざまな要素技術を組み合わせており、一つ一つで見れば"オンリーワン"は少ないかもしれない。だが、全自動衣類折りたたみ機を作るための研究開発で培った技術は、時間と金がかかる。実際、阪根氏が歩んできた10年という歳月がそれを物語っている。

○製品はバラバラでも「合理的」

我が子を自慢するかのようにランドロイドを説明する阪根氏

かつて、モノづくりで世界をリードした日本だが、中国や韓国の台頭によって"没落"の危機に瀕している。だが阪根氏は、「日本人は集団行動に適しているし、モノづくりに必要なものはそれ。国として『新しいものを作り出す力がない』という人もいるが、電機に限らず独創的な製品はこれまでも出てきている」と話す。

阪根氏が指摘するのは「人がやらないことに挑戦するマインド」が欠けていること。小さく、中国に比べれば人も少ない。それでも、これからも「日本はまだまだやれるんだと強く示したい」と自身の思いを話す。その意思に対して、エンジニア60名のうち、40名がいわゆる一流メーカーから転職してきたという。「彼らは、優秀で個性的。この国はやっぱり凄いんだと感じる」(阪根氏)。

この技術者陣で作り出す商品は、ランドロイドを含む既製品3つに加えて4つ目、5つ目がある。「4つ目は粛々とプロジェクトを進めていて、5つ目は構想を練っているところ。どちらも楽しい」(阪根氏)。6つ目も検討をスタートさせているところだが、ブレスト段階にあり、「人々の生活を豊かにする、技術的ハードルが高いモノ」(阪根氏)。

これまでも、これからも、一つひとつの商品は関係性の薄い別々のセグメントで攻めていく。それは「それぞれの領域でイノベーションを起こせれば、これまでになかった情報価値が生まれるから」だという。ニーズからテーマを見つけてチャレンジする。シーズやソースを無視して新たなことに挑戦することが、ビジネスモデルとして合理的だと阪根氏は笑う。

「既成概念を崩していくことがかっこいいし、そう思われたい。『この会社は次に、何をやるんだろう』というワクワクした気持ちを持ってもらえる会社にしていきたい。3500億円、1兆円という目標は、逆算して『今何をしないと到達できないのか』と考えて粛々と進めるだけ。目標が高いとトラブルはつきものだが、色んなパンチを繰り出して、一つ一つ倒すだけ。心と身体が健康であれば、出来るものだと思っている」(阪根氏)