ブランドによるマーケティング機能の内製化が進んでおり、エージェンシーはそれに適応するしかなくなっている。

プロクター・アンド・ギャンブル(The Procter & Gamble:以下、P&G)、ユニリーバ(Unilever)、ユナイテッド航空(United Airlines)などのブランドが、社内でできることの拡充を進め、ほかのブランドもこれに続いている。P&Gのマーケティング責任者のマーク・プリチャード氏は先日、「いまは我々がコントロールを取り戻しているのだ」と強調した。この変化によって、エージェンシーは収益が大きく損なわれる可能性がある。現に、WPPグループの株価は、年頭から14%下落している。

順応性が生き残りを左右



「こうした戦術に対応し、いま求められている形で組織運営する態勢ができていないエージェンシーが多いため、外部エージェンシーのパイは縮小していくだろう」と語ったのは、ブランディングとデザインのエージェンシーであるファイン(Fine)でマネージングディレクターを務めるジョシュ・ケリー氏だ。

しかし、デジタルの興隆と同様に、エージェンシーのビジネスがすぐに消えてなくなるわけではない。コントロールがクライアントに移るこのトレンドは、結局、大きなエージェンシーより機動力のあるところに、お抱え契約よりプロジェクトの仕事にプラスに働くだろう。いつものように、順応性が生き残りを左右する。

「前向きなものと捉えて適応していく必要がある」と、あるエージェンシー幹部は語った。

勝ち組をひとつあげると、プロジェクトベースの仕事に適応できる体制のエージェンシーだ。すでにエージェンシーでは、短期間の専門的なプロジェクトを中心に依頼が急増している。事業開発企業のRSW/USが1月に発表した調査では、回答したエージェンシー115社のうち35%が、仕事の過半数がプロジェクトベースになったと答えた。80%以上がプロジェクトベースだとする回答も16%あった。

プロジェクトベースの仕事



エージェンシーたちによると、長期的なキャンペーンと違い、プロジェクトベースの仕事はより短期間で実施でき、多くの場合、リソースが少なくて済む。それでいて、長期の関係性と遜色ない収益が得られる可能性があるという。

大手エージェンシーのある幹部は、クライアントがリソースを社内に移したことで指定エージェンシーになるチャンスは減少したものの、プロジェクトベースの仕事の採用は増えていると語った。この変化による収益の低下はないという。このエージェンシーは現在、収益の半分がプロジェクトベースの仕事で、残り半分が従来型の長期関係の仕事だ。数年前は、1回限りのプロジェクトが収益の20%で、指定エージェンシーの収益が80%だった。プロジェクトベースの仕事が増えたため、このエージェンシーは、チームを小さくしてクライアントにマンツーマンで対応させるなどの調整を社内で実施した。長期的にはエージェンシーの資金節約につながるかもしれないが、この幹部も「答えが見つかった」わけではないと認めており、ほかのエージェンシーも同様なのだという。

「人数を減らした経験豊かな人員でこうしたコンサルティングタイプのプロジェクトにあたる、特化を進めたモデルを検討した」と、この幹部。「我々のチームが小さくなり、こうした仕事をより短期間でこなせるようになった」と同氏は語った。以前なら完了まで3〜4カ月かかっていたようなものを、いまではクライアントや各エージェンシーパートナーとの2〜3日のセッションにとどめているという。

難しさ極める価格設定



この幹部によると、難しいかもしれないのは、こうしたセッションのクライアントに対する価格設定だ。というのも、クライアントはより短期間で同じサービスを受けることになるだろうからだ。

それでも、エージェンシーはなんとか工夫したいところだ。「エージェンシーが提供する同一条件サービスの価格設定に現在、圧力がかかっているのは、インソーシングが出てきているからという理由だけではない。クライアントの好みが変わっているからという理由もある」と、調査会社ピボタル・リサーチ(Pivotal Research)のシニアアナリスト、ブライアン・ウィーザー氏は語る。

マーケターたちは、この内製化の動きでも一番得をするのは、すでに個別の仕事で成長している特化型のブティックエージェンシーだと考えている。「自社の技術を本当に理解し、深い専門知識を持っているニッチのエージェンシーに、ブランドが目を向けるようになるだろう」と、ムービング・イメージ&コンテント(Moving Image & Content)を設立したクィン・マイ氏は語った。

そうでないところは、プロジェクト仕事が増えて指定エージェンシーの仕事が減ることで、お金をかけた詳細なピッチが減ることになるかもしれない。そうしたピッチは不当に消耗させる、時間とお金の無駄だとマーケターたちが見るようになっているのだ。あるエージェンシー幹部(匿名を希望している)によると、彼のエージェンシーがピッチに5万〜10万ドル(約500万〜1000万円)を使っても、クライアント候補からは、ピッチ10回に1回、2万〜3万ドル(約200万〜300万円)しか得られないという。それも、ピッチが最終ラウンドに残った場合だけだ。さらには、ピッチの過程でアイデアが盗まれる可能性もある。

激化するピッチの競争



「ときどきだが、エージェンシーがピッチで実施するスペックワークは自社が所有するという文言を(秘密保持契約に)入れてくるクライアントがいる」と、この幹部は語る。「賢いエージェンシーは大半が署名しない。我々はいつも突き返している」。

別のエージェンシー幹部は、「アイデアを気に入ったのに我々を選ばないクライアントがいた。数カ月後、そのアイデアをヨソで実現しているのを目にした」と、匿名で語ってくれた。

あるエージェンシー幹部によると、ピッチの競争が激化していることから、すでに完成したキャンペーンを準備しているエージェンシーもいる。しかし、クライアントがピッチの必要性を指摘することは多いし、エージェンシーを迎え入れてからクライアントが変更することも少なくない。結果、作業時間や資金は無駄になり、汗や涙が無駄に流れる。上述したエージェンシーにとって、プロジェクトとはいわゆる「チャーター式のエンゲージメント」に同意する機会だ。この間、エージェンシーはクライアントの真の機会を探す仕事に取り組むことができる。

エージェンシーの真価



一方で、社内チームを作ったクライアントが、必要なものについ認識を深め、結果、エージェンシーに対してプロジェクトを売り込むようになるという希望もある。

「ブランドは、どのような結果が必要なのか下調べをすることなく、仕事の割り当てをはじめがちだ」と語るのは、エージェンシーのバークレー(Barkley)でブランドリーダーシップのSVPを務めるステファニー・パーカー氏だ。「社内で引き受ける部分が拡大すれば、エージェンシーのリソースを最大限に活用する方法をじっくり考えることが必要になる」。

別のエージェンシー幹部は、「クライアント自身が関与するようになるだろう」と語った。

クリエイティブスタジオのスティンク・ スタジオズ(Stink Studios)でマネージングディレクターを務めるクリス・メレ氏は、ブランドが社内エージェンシーを作れば、クリエイティブの過程全体や、必要な才能、人材を見つけて維持することの難しさなどについてブランドの知識が深まると語る。そうすれば、そもそものエージェンシーの必要性にブランドが気づくかもしれない。埋めるべき社内ポジションは募集が困難だとわかって、ヘッドハンティングの仕事をエージェンシーに依頼するブランドもすでに出てきている。

「コストや範囲を見渡すと、エージェンシーのプロジェクト見積もりに尻込みしがちだ」と、メレ氏は語る。「しかし、20人や40人のインハウスチームを2四半期も動かしてみたら、お金で得られる見返りに対する認識が変わるだろう」。

Ilyse Liffreing (原文 / 訳:ガリレオ)
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