2018年中にスマホ決済、100万店構想をブチ上げたLINE、勝算はあるのか?(撮影:尾形文繁)

国内でほかのメッセンジャーアプリを寄せつけない地位を確立したLINE。同社は最近、アプリのタブに「ウォレット」を加えた。この中には"お財布”機能として、スマートフォン決済サービスの「LINEペイ」やユーザー間送金サービスなどがまとめられている。狙いはどこにあるのか、同社の出澤剛社長に聞いた。

「M&Aを加速させる」

――最近、さまざまな新サービスを投入しています。

柱の広告事業が引き続き好調なのに加え、ここ1年ほどはネット通販(EC)の「LINEショッピング」、出前の「LINEデリマ」など、大型の新サービスをいくつか投入している。中でも大きいのがAI(人工知能)関連だ。音声アシスタントの「クローバ」を搭載した独自のスピーカー端末を世に出すことができた。

2017年の後半からは、投資サービスを開発する「フォリオ」、動画広告プラットフォームを運営する「ファイブ」、シェア自転車事業を手掛ける「モバイク・ジャパン」など、M&A(企業の合併・買収)や出資も積極化させている。若くて勢いのある会社とチームを築けるのは非常にうれしいことだ。

――M&Aや出資の相手選びは、どのような基準で行っていますか?


出澤剛(いでざわ たけし)/1973年生まれ。1996年早稲田大学卒業後、朝日生命保険に入社。2002年にオン・ザ・エッヂ(現ライブドア)入社。2012年にLINEのウェブサービス本部長を経て、2015年4月より社長兼CEO(撮影:梅谷秀司)

1つはファイブのように、LINEのコアである広告事業の強化につながるものであること。もう1つは会社として戦略的に大きく張っていく分野であるということで、フィンテック領域のフォリオがそうだ。

2016年の上場前に比べると、成長のために使える手段やおカネは増えた。M&Aも非常に有効なツール。これを活用しながら全体の成長を加速させていきたい。

――フォリオはまだベータ版サービスしか提供していない段階ですが、出資に踏み切った理由は何でしょうか?

経営陣の考え方がわれわれととても似ていると感じた。LINEアプリは毎日のコミュニケーションのあり方を変革してきた。フォリオも証券、株式投資の領域で今あるプロセスを踏襲するのではなく、利用者からどんなものが求められているかを徹底的に見つめて、新しいサービスを作っている。

アプリ上の細かな使い勝手やデザインの面についても、経営陣がしっかり意思を持ってコミットしている。プロダクトや、それを生み出す人、組織のカルチャーを知る中で、一緒にサービスを作ったら面白いはずだと考えるようになり、出資に至った。

「2018年はさらに大きな変化の年になる」

――2018年は注力分野であるAI、フィンテックの事業開発に300億円を投じると宣言しています。昨年から続くAIに、フィンテックが加わりました。

フィンテックやブロックチェーンの登場は、インターネットやスマートフォンの登場にも匹敵するインパクトがある。スマホ決済サービスの「LINEペイ」は、開始からすでに3年半以上になる。2017年はクローバの展開が始まるタイミングであり、AIにフォーカスして話をすることが多かったが、フィンテックもLINEにとって、従前から重要な位置づけにあった。


LINEはQRコードの決済に乗り出している(撮影:今井康一)

2018年は、さらに大きな変化の年になりそうだ。日本はキャッシュレス化が遅いといわれてきたが、訪日外国人観光客(インバウンド)の需要に対応するため、ドラッグストアなどでQRコード決済を導入する店が増えてきた。

システム側でも参入企業が増え、割引やポイント付与のメリットを打ち出すことで、国内のユーザーの関心も高まっている。やっと場が温まってきた感がある。

LINEとしては、これまで支払いのできる店舗や連携金融機関を増やし、ユーザー数を増やし、着々と準備を進めてきた。公共料金の「請求書払い」など、LINEペイ自体の機能もどんどん拡張している。こういったアドバンテージを生かせるときが来たと考えている。

――スマホ決済が爆発的に広がった中国では、配車アプリ「滴滴(ディディ)」のような、スマホ決済を基本とする新興サービスが人気を博したことが普及のきっかけとなりました。日本でも、決済インフラだけ整えても、普及させるのは難しいのでは?

確かに、すべてが中国と同じように進むと楽観視してはいけない。日本の利用者にマッチした、キラーコンテンツを出すことも必要だ。ただやはり、実際に使ってみると、財布を持たなくても簡単に支払いや割り勘ができるのは便利だし、進化した形であるのは間違いない。われわれにできるのは、まず使える場所を増やしてユーザーの利便性を上げること。2018年はLINEペイを国内100万店に導入することが最大のミッションだ。

もう1つ、送金の機能はLINEならではの利点だ。ユーザーにインタビューをしてみると、特に若者の間でこの送金機能を使っている人が増えており、ニーズが高いとわかってきた。われわれはLINEアプリの中にウォレット機能を作ったので、別アプリを取得する手間がない。友人や家族など本当に親しい人とつながるアプリだからこそ、送金も自然な流れで、便利に使ってもらえるはずだ。

――100万店への導入というのは、高いハードルという印象を受けます。

日本人が日常的な買い物で利用している"決済の場所”は、大体全国で300万カ所くらいであると推計している。その3分の1くらいはカバーしたいという目標だ。これは単純に(有人の)店舗だけでなく、自動販売機のようなものも含めて考えている。100万カ所あれば、「結構使えるな」という印象になるはずだ。

今、いろいろな大手小売りチェーンとの提携を進めているほか、小売店を束ねているような事業者、たとえばPOS(販売時点情報管理)システムを開発している会社、決済代行会社などとも提携して加盟店を増やしていく。あとは「LINE@」を利用している約30万店のパートナーにも、簡単に導入できる点を訴求するなど、あらゆる手を打っている。

成長のカギは「リアルな場にある」

――中国では「芝麻(ジーマ)信用」など、決済や行動の履歴を与信に応用するサービスも出ています。

3月にウォレットのタブを新設したことにより、LINEペイへの加入が増え、アクティブ化も進んでいる。今後はここを入り口に、決済だけでなく、ローンや投資、仮想通貨など、ほかの金融サービスをシームレスに提供していきたい。1月に設立した「LINEフィナンシャル」で開発を主導し、年内に、具体的にいくつか新サービスを出せればと計画している。

LINEの中ではユーザーが日々、コミュニケーション、購買、動画・音楽の視聴など、いろいろな活動をしている。こういったデータを何らかの形でスコア化して、通常の金融サービスと違った付加価値を提供できるのではないかと考えている。データは当社の最大の強み。これを有効活用しなければ、われわれが金融をやる意味がない。

――フィンテック分野のサービスを拡大することは、中長期的な成長にどう寄与するのでしょうか。

LINEがコミュニケーションツールとして定着する中で、当初はゲーム、漫画、音楽といったコンテンツ領域から付加サービスを増やしていったが、だんだん日常生活の「リアルの場」にも進出していった。決済や金融も日々の生活に欠かせない機能であり、ここに踏み込むのはLINEの発展において自然な流れといえる。

今、重要な経営指標として、月間利用者数に占める1日当たり利用者数の割合(2017年12月末で84%)を見ている。引き続きユーザー数そのものを増やすことにも価値はあるが、今後はLINE上のサービスにおける"可処分時間”や流通総額を増やすことが重要になる。これを高めるエンジンの1つが金融サービスだ。

――スマホ上のコミュニケーションで完結していたLINEが、リアルの場も含め日常生活で必須のツールになっていくということでしょうか。

すでに日本人の多くがスマホを肌身離さず持っているし、その多くにはLINE(のアプリ)が入っている。小売りなどのパートナー企業からは、「LINEは店舗施策にとても使いやすい」と言われている。オンライン、オフラインの垣根を越えるのがこれからの本流だ。

その点において、LINEには圧倒的な先行の利がある。これからシェア自転車をはじめいろいろなシェアリングサービスが出てくる中でも、実際の"現場”との接点としてますます役に立てるだろう。

ソフトバンクとはシナジーを発揮できる

――他社から回線を借りて営むMVNO(仮想移動体通信事業者)の「LINEモバイル」は3月にソフトバンクグループ傘下に入りました。今後LINEとしては、LINEモバイルの経営やサービス作りにどうかかわりますか。

基本、ソフトバンクはわれわれが築いてきたLINEモバイルのコンセプトに共感してくれており、それを加速させるためのサポートをしてくれるという立ち位置だ。具体的な内容はまだ明かせないが、店舗網の活用や端末のラインナップ拡充など、さまざまなシナジーを発揮できると考えている。

――現行のLINEモバイルのサービスには課題も多かったのでしょうか。

外部の調査を含め、市場シェアなどの各種指標から、利用者に満足して使っていただいていることは見て取れる。ただ、競争環境が刻々と変容している中で、この先さらに伸ばすにはどうすればいいかを考えた結果の判断だ。今回の資本提携で、より成長に対する投資もできるようになるし、勝負をかけられる状態になった。

――LINE単独では、勝負をかける投資に踏み切るのは難しかった?

特にこの領域は、時間との戦い。今順調に伸びているから「それでいいよね」、ということではなく、この伸びをさらに加速させていくにはどうすべきかを考えなければならない。これはMVNOに限ったことではなく、外部と提携することで利用者向けのマーケティングを強化できるケースはたくさんある。組織の形にこだわらず、つねにベストな選択肢を模索していく。