4月11日の衆院予算委で加計学園問題をめぐって審議が紛糾、理事のやりとりを見つめる安倍首相(写真:共同)

口裏合わせ、隠蔽、備忘録…。新年度に入って相次いで発覚した「公文書スキャンダル」の連鎖が、安倍晋三政権を激しく揺さぶっている。

森友学園への国有地売却交渉での「口裏合わせ」と、自衛隊イラク日報での「隠蔽工作」を、それぞれ財務省と防衛省が渋々認めた直後に発覚したのが、加計学園問題での首相秘書官の「首相案件」発言を記した愛媛県職員の備忘録で、県知事も県の文書であることを明言した。

いずれも4月初めから複数の新聞・テレビが相次いで「特ダネ」として報道し、当事者の政府当局者や県知事が追認するというパターンで、それぞれが、一連の問題での首相や関係閣僚らの「国会答弁」などを否定、もしくは矛盾を露呈させるという展開になっている。

この「もり・かけ」に「イラク日報」の真相をあぶり出すような公文書は、1年余にわたる国会での野党などの追及に対し、政府が内容や存在を否定していたものばかり。まさに「天網恢恢疎にして漏らさず」の故事を地で行くような政府の失態に、野党は「官邸の地獄の(釜の)ふたが開いた」(辻元清美・立憲民主党国対委員長)などとして、安倍政権打倒へ勢いづく。防戦一方の首相や関係閣僚も陳謝の連続で、内閣支持率も続落する中、与党内からも「このままでは政権が持たない」との悲鳴が聞こえてくる。

「報道→追認」の悪循環で八方塞がりに

一連の公文書問題はいずれも報道が先行し、政府側が渋々認めるという「悪循環の繰り返し」(自民国対)で、国民の失望と怒りを増幅させるばかりだ。首相が大号令をかけた働き方関連法案など後半国会の重要法案処理も成立のメドが立たなくなり、日本の進路にも直結する4月中旬の日米首脳会談から始まる一連の「安倍首脳外交」への影響も避けられそうもない。9月の自民党総裁選で3選を狙う首相にとって現在の八方塞がりの状態は、「第2次政権発足以来最大の危機」(自民幹部)となりつつある。

4月9日夜のNHKの報道をきっかけに、朝日新聞、東京新聞両紙が10日付け朝刊の1面トップで報じたのが、学校法人・加計学園の愛媛県今治市での獣医学部新設計画の問題で、2015年4月2日午後に首相官邸などを訪れた愛媛県と今治市の担当職員に加計学園事務局長を加えた陳情団一行と、当時の首相秘書官や内閣府担当次長との面会記録だ。朝日はその記事の中で、「柳瀬(唯夫)首相秘書官の主な発言(総理官邸)15:00」との標題で書かれた文書の一部を写真も含めて掲載した。また東京は、この陳情団が同2日昼前に面会した藤原豊内閣府地方創生推進室次長の発言内容も詳しく報じた。

朝日、東京両紙の報道のポイントは、柳瀬秘書官(現経済産業審議官)が陳情団に対し「本件は首相案件となっており、内閣府藤原(豊)次長の公式ヒアリングを受けるという形で進めていただきたい」などと発言したとの文書記録の存在(朝日)と、これに先立つ藤原氏(現経済産業省貿易経済協力局審議官)の「要請の内容は首相官邸から聞いている」(東京)などの発言(東京)だ。

これらの発言内容が事実なら、首相の「腹心の友」の加計孝太郎氏が運営する加計学園の獣医学部新設(2018年4月に開学)について、申請前の段階から首相官邸や内閣府が後押していたことになり、「すべては一点の曇りもないプロセスで進んだ」という首相らの国会答弁に疑問符がつくからだ。

県知事「全面的に信頼」、首相秘書官「記憶にない」

この報道について、中村時広愛媛県知事は10日夕に記者会見し、「県職員が作成した備忘録だ」と県の文書であることを公式に認めた。同知事はさらに「職員が文書をいじる必然性はまったくない。全面的に信頼している」と記述の真実性も力説した。他方、柳瀬氏は10日午前にコメントを発表し、「記憶たどっても、愛媛県や今治市の人と会ったことはない」「私が『首相案件』など具体的に発言することはあり得ない」などと否定した。

この陳情会見問題は、昨年夏に野党側が国会の閉会中審査などで繰り返し追及し、参考人として呼ばれた柳瀬氏が、今回同様「会った記憶がない」などと事実関係を認めなかった経緯がある。しかも、首相はその後、国会で「加計学園の獣医学部新設計画を知ったのは2017年の1月20日」との答弁を繰り返してきた。それより2年近く前に首相秘書官が愛媛県などに対し「首相案件」と発言していたとすれば、首相の答弁が「内閣総辞職に値する虚偽答弁」(民進党)にもなりかねないだけに、首相は11日の衆院予算委員会集中審議で「柳瀬秘書官のコメントを信じる」と繰り返した。

ただ、首相も含め政府側が一様に「コメントを控える」とした愛媛県の文書は、官邸に派遣された県職員が「報告のために忘れないように書いたもの」(中村知事)とされるだけに、内容の信ぴょう性は高い。このため、野党側はすぐさま、柳瀬、藤原氏や当該県職員らの証人喚問を要求した。柳瀬、藤原両氏の証人喚問については与党側にも容認論があり、今後の与野党折衝次第では柳瀬氏らの国会招致が実現する公算が強まっている。

柳瀬氏は2008年から2009年にかけて現在の麻生太郎財務相が首相時代に首相秘書官を務め、2012年12月の第2次安倍内閣発足時に再び首相秘書官に就任、2015年8月に経済産業省経済産業政策局長に転じた。柳瀬氏は通商政策の専門家で早くから次官候補とされた超エリートで、秘書官退任後も首相との親密な関係を維持している。このため、与党内では仮に証人喚問が決まっても「記憶にない」の一点張りで佐川宣寿前国税庁長官と同様に事実上の証言拒否に徹するとの見方が広がる。

この「首相案件」と記載した備忘録文書に先行して、メディアの報道によって問題化したのが森友学園問題でのごみ撤去費をめぐる「口裏合わせ」と、自衛隊イラク派遣時の日報の隠蔽疑惑だ。

ごみ撤去費をめぐって財務省理財局が学園側に口裏合わせを要請していたとの報道については、太田充理財局長が9日の参院決算委員会で、理財局職員が2017年2月20日に森友学園側の弁護士に電話で地下埋設物の撤去について「費用に関して相当かかった気がする」「トラック何千台も走った気がする」といった言い方をするよう求めていたことを認めた。その上で太田氏は、「森友学園側に事実と異なる説明を求めるという対応は間違いなく誤った対応だ。大変恥ずかしいことで、大変申しわけない。深くおわび申し上げる」と平謝りした。

この問題ではさらにメデイアが「ゴミ撤去に関する学園の認識をまとめた文書を、理財局が近畿財務局に依頼して作成し、学園側に示した」と報道した点についても、太田氏は11日の衆院予算委集中審議で「好ましくない対応だった」と陳謝した。こうして次々と発覚する森友学園との土地取引に関する財務省に失態ついて、与党内からも「底なし沼のようだ」(公明党幹部)と嘆き節が聞こえてくる。

「イラク日報」問題で文民統制欠如の危機も

一方、防衛省も4月上旬に、それまで国会で「不存在」と説明していた陸上自衛隊のイラク派遣時の日報が多くの部署で見つかるという失態を露呈した。防衛相による日報探索の指示をないがしろにするような防衛省内部の対応は、大原則の文民統制(シビリアンコントロール)」の欠如にもつながる問題で、政府・与党内にも危機感が広がる。

菅義偉官房長官は記者会見で「1週間に3回も大臣が国民におわびする事態となったことを防衛省職員一人一人が重く受け止め、再発防止に向け真摯(しんし)に取り組む必要がある」と危機感をあらわにした。公明党の井上義久幹事長も会見で「文民統制上の観点で極めて深刻な問題だ。速やかに調査結果を公表すべきだ」と求めた。

このイラク日報の隠蔽疑惑が広がるという事態も、安倍政権にとっては極めて深刻だ。首相が「在任中の実現」を目指す憲法改正の最大のポイントは憲法9条への自衛隊明記だからだ。すでに自民党は3月下旬の定期党大会で「9条1、2項を維持しての自衛隊明記」を軸とする改憲条文の「たたき台」を確認している。しかし、なお党内での異論も根強いだけに、「実力組織の自衛隊」が起こした日報隠蔽問題は、今後の改憲論議進展の大きな障害になることは確実だ。首相も11日の集中審議で「シビリアンコントロールが問題になる」と苦悩を隠せなかった。

一連の公文書スキャンダルが政権を直撃していることで、政局も一段と不透明感を増した。そうした中、永田町に波紋を広げたのが、政府と自民党の大黒柱として政権を支える麻生財務相と二階俊博幹事長の10日夜の会談だ。両氏は党内第2派閥の麻生派と第5派閥の二階派の領袖で、政局運営のキーマンでもあるからだ。

都内の料理店で両派幹部も交えて会談した両氏は、「もり・かけ」や「イラク日報」問題で安倍政権が動揺している現状について「力を合わせて難局を乗り切る」ことを確認した。両氏はこれまで、9月の党総裁選での首相の3選を支持する立場を明確にしており、その点でも突っ込んだ意見を交換したとみられている。

ただ、党内では両氏について「状況次第で、いつでも対応を変える」(岸田派幹部)との声も少なくない。特に二階氏は「政界の絶滅危惧種」(自民長老)とも呼ばれる寝業師として知られるだけに、「今は首相に恩を売ろうとしているが、3選が困難になればさっさと変身する」(同)との見方も多く、10日の会談でも双方の思惑が異なるままでの「協力確認」とみられている。

政権危機の指標ともなる内閣支持率もここにきて続落している。大手メデイアが実施した最新の世論調査ではそろって「支持」と「不支持」が逆転し、「不支持」が上回っている。特に不支持の理由では「首相が信頼できない」が圧倒的多数で、一連の文書スキャンダルなどで国民が首相自身への不信感を強めていることがわかる。首相周辺も「支持率が3割を切って危険水域に入ると、政権危機が深刻化する」(政府筋)と眉をひそめる。

「黒い霧」の歴史踏まえた解散断行論も

そうした中、党内の一部からは「衆院解散で一気に態勢を立て直すべきだ」との物騒な声も出始めている。佐藤栄作政権時代の1966年のいわゆる「黒い霧解散」で当時の佐藤首相が政権危機を脱した歴史があるからだ。首相周辺では「野党がバラバラの現状で解散すれば、自民党の議席は微減にとどまる」との強気の読みも出ている。しかし、「死なばもろとも」(自民幹部)ともみえる解散断行論には「二階幹事長や菅官房長官が、首相を羽交い絞めしてでも止めるはず」(同)との声も多い。

首相は11日の集中審議での野党側の厳しい追及に、時折興奮する場面もあったが、ほとんどは「答弁メモ」を読み続けることでじっと耐えた。野党の質問が報道を引用した繰り返しばかりで、首相の固いガードを崩せなかったことも審議が盛り上がらなかった原因だ。

与党内からは真相解明のための、「森友・加計問題等特別委員会」や国会での「特別調査委員会」の設置を求める声も上がっている。ただ、過去の例をみても「時間稼ぎにしかならない」のも事実。手練手管で真相解明を先送りにすれば政権への国民の不信は拡大し、結果的に第1次安倍政権の崩壊という11年前の悪夢の再現ともなりかねない。