茂木健一郎『脳リミットのはずし方』(河出書房新社)

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「どうしても自信が持てない」と悩み、完璧な自分を求めるあまりに、マイナスのことばかりが頭に浮かんでドツボにハマっていませんか? 脳科学者の茂木健一郎氏は「心のよりどころとなる『安全基地』を作ることが大切。安全基地があるからこそ、チャレンジできるのです」と語ります。そしてその「安全」とは、学歴や肩書などの「安定」とは違うといいます――。

※本稿は、『脳のリミットのはずし方』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

■安心してチャレンジできる、脳の「安全基地」をつくろう

私の公式ブログ「脳なんでも相談室」では、皆さんからのさまざまな悩みについてお答えしています。

そのなかで、次のような相談を受けました。

「どうしても自分に自信が持てません。どうしたらよいでしょうか?」

たしかに、このような悩みを抱える人は少なくないでしょう。

ではなぜ、多くの人が自分に自信が持てないのか。それは、ほぼ例外なく「完璧な自分」を想定して「ここが足りない」、「あれが足りない」というマイナスのチェックリストをつくり出してしまっているからです。

マイナス要因が一切ない、百点満点の人間にならなくてはいけない――。

そんなふうに考えてしまう人にも、脳リミットをはずして、自信を持ってチャレンジしてもらえるように私が提案したいのが、脳の「安全基地」をつくるということです。

■「安全基地」があると、子どもは好奇心が強くなる

安全基地とは、元々アメリカの心理学者であるメアリー・エインスワースが1982年に提唱した、「人間の愛着行動」に関する概念です。

エインスワースによっておこなわれた、愛着理論に基づく「ストレンジシチュエーション法」というものがあります。

ストレンジシチュエーション法とは、子どもと母親の愛着の度合いや、乳児の発達を明らかにするための実験観察法です。

まず、見知らぬ場所であるプレイルームで母親と一緒にいる子どもがどのような行動をとるかを観察し、記録します。

次に、母親がその場所から退出し、見知らぬ人がやってきたときに子どもがどのような行動をとるかを観察し、記録します。

最後に、見知らぬ人がその場から退出し、再び母親が戻ってきたときに子どもがどのような行動をとるか、観察し、記録します。

その結果、見知らぬ場所でも、子どもは母親がいれば安心して遊び、母親が退出して見知らぬ人が入ってきたときには不安を示しますが、母親が戻ってくるとすぐにまた安心して再び積極的に遊びだします。

このように、子どもは母親を「安全基地」として「よりどころ」とすることを通して探索活動に熱中できるようになるということを究明したのです。

■「安全基地」があれば、あなたも積極的にチャレンジできる

こうした安全基地の研究は、児童の愛着行動のみならず、人間のパーソナリティーの発達を説明する重要な概念としても注目されています。

つまり、安全基地というのは、積極的にチャレンジするために必要な一段目のロケットのような役割を担うと考えていただければいいと思います。

ところが、最近の親御さんは子どもをマイナスで捉えてしまう人も多く、「これができない」、「あれができない」さらには、「他の子はここまでできたのに、うちの子はできていない」といった比較をしてしまいがちです。

そうなってしまうと、親御さんは子どもにとっての安全基地ではなくなってしまい、チャレンジできない子どもになってしまう危険性があるので注意が必要なのです。

親という字は「立って木を見る」と書きます。まさに、立って木の成長を見るのが親だということ。そのような態度が子どもにとっての安全基地となるのです。

では、ここからが本題です。

私たち大人にとって、安全基地となり得るものは何でしょうか。

それは、スキルや経験や人脈といったものです。あるいは、個々の自信や価値観などが安全基地になり得るといえます。

私たちの脳は、自分のなかでスキルや経験、価値観などの揺るぎない安全基地があるからこそ、臆することなく不確実性に向き合え、どんなことにもチャレンジできるようになるのです。

■あなたのチャレンジ強度は?

では皆さんが自分のなかに安全基地を持っているのかいないのか?

それを簡単に判別できるテストがあります。

「あなたは、自分の人生で起こる不確実なことが不安ですか? それとも楽しみですか?」

この問いに対する答えで、あなたのチャレンジ強度がわかります。

これからの人生で起こる不確実性が楽しみだという人は、自分のなかに安全基地があり、チャレンジ精神が旺盛な人です。

不安だという人は、これからお話ししていくことを参考にして、ぜひチャレンジ精神を強化してほしいと思います。

私たちの脳は、もともと何が起きるかわからないということを楽しみとして捉えているものです。

例えば、子どもの頃、遠足に行く前の日は、ワクワクしてなかなか寝付けなかった。そんな経験が誰にでもあるはずです。

その理由は、遠足に行ってどんな経験が待っているかわからない。その不確実性が脳を刺激して、眠れないほど興奮するからです。

ところが、大人になるとどうでしょうか。大抵のことは経験してしまい、世渡り上手になって、不確実なことや新しいことが苦手な人が多くなるのです。

■「安定」と「安全」は違う。学歴や肩書は安全基地にならない

すると、大人は何を求めているのでしょうか? そうです、「安定」です。

私たち大人が安全基地とよく勘違いするのが、「安定こそ安全基地である」という考え方です。

では、安定と聞いて、何を連想するでしょうか。

例えば、学歴や組織での肩書といったもの。これらを安全基地だと考える人が比較的多いのです。

社会を生き抜く私たち大人にとって、一見すれば安心のもととなってきたこれらの属性は、果たして安全基地になり得るのでしょうか。

私は、そうは思いません。

学歴が高い、一流企業に勤めている、肩書があるといった心のよりどころには、むしろ個々の脳リミットを決めつけてしまい、チャレンジ精神の障害となり、成長を停滞させてしまう危険すら潜んでいるというのが私の考えです。

なぜなら、学歴だけで「自分には実力がある」と勘違いしたり、肩書があるだけで「自分は偉い」と勘違いしてしまう。やがて、そうした地位を守ることだけに必死になっていくからです。そうなると、自分の限界を超えてチャレンジできることが限られてしまいます。

もちろん、必ずしも一流大学卒や一流企業の社員であることがいけないといっているわけではありません。

これまで必死に努力をして手に入れた学歴や肩書と同じように、自分のなかに蓄積してきた知識やスキルを安全基地にすれば、新しいチャレンジをすることができ、さらなる高みへと到達することができるはずなのです。

■小さな「成功体験」を積み重ねる

では、どのようにして安全基地をつくり出せばいいのでしょうか。

「小さな成功体験から始めてみる」ということを、私はおすすめしています。

あまりに大きな成功を見据えてしまうと、プレッシャーに押しつぶされたり、尻込みしてしまうときもあるでしょう。そこで、たとえ小さな成功でもいいので、「サクセスケース(成功体験)」を積み重ねていくというのが、安全基地をつくり出す重要なポイントになってくるのです。

もし、いきなり仕事でやるのが難しかったら、まずは日常の中で小さな成功体験を味わってみてはいかがでしょうか。

自分の自由時間のなかで、何か小さなプロジェクトを立ち上げ、自分で計画して、それを実行することの喜びを経験するというところから始めるのがいいでしょう。

デートや旅行の計画などは、小さな成功体験を積み重ねるうえで、最高の教材になるのではないでしょうか。

そのような喜びの経験が安全基地となることで、自分の創造性の可能性がどんどん広がっていき、脳リミットをはずして新しいことにチャレンジできるようになっていくのです。

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茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者。1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『すべての悩みは脳がつくり出す』(ワニブックスPLUS新書)など著書多数。新著『脳リミットのはずし方』。

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(脳科学者 茂木 健一郎 写真=iStock.com)