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なぜあなたは忙しいのか。それはムダな行動で時間を浪費しているからかもしれない。今回、「プレジデント」では5つのムダについて、5人の識者に解決法を聞いた。第1回は「悩むだけムダ」――。(全5回)

※本稿は「プレジデント」(2018年1月29日号)の特集「24時間の使い方」の掲載記事を再編集したものです。

■今こそ「時間泥棒」を見つけ出し退治せよ

「メトカーフの法則」という理論がある。ネットワークの価値は接続される端末の数のおよそ2乗に比例するというものだ。ファクシミリが1台だけでは役立たないが、2台になると2通りの通信が可能になり、4台なら12通りの通信……とその価値がどんどん高まっていく。

しかし、コンサルティング企業ベイン・アンド・カンパニーの著作『タイム・タレント・エナジー』では、その弊害も指摘している。コミュニケーションのコストが下がると、やり取りの回数が急増し、そのために時間も奪われていくのだ。対面や郵便が中心だった1970年代、役員1人の年間コミュニケーション量は約5000件だった。80年代にはボイスメールの普及で約1万件。各種ツールが発達した現在は、約5万件まで跳ね上がっているという。

時間泥棒が潜むのは、職場だけではない。日常生活の中でもぼんやり考えごとをしたり、スマホをいじったり、貴重な時間があっという間に流れ、我に返ってがく然とすることも多いだろう。

もし仕事と生活を充実させたいのであれば、何が「ムダな時間」かを見極め、意識して排除していく必要がある。

■悩んでもしかたないことを悩むのは時間の浪費

悩むのは時間のムダ。そうわかっていながら悩んでしまうのは、脳のしくみに原因がある。私たちが不安や怒りを感じるのは、脳の大脳辺縁系という動物としての本能を司る部分だ。それらの感情は普段、脳の前頭葉という部分が抑制しているが、不安や怒りが大きいと対応できないこともある。割り切れない気持ちになるのは、「コントロールが難しい脳活動の問題なのだから、仕方ない」とまずは気楽に構えたほうがよい。

ビジネスマンに多い悩みの典型例は、「他人の思惑に振り回される」ではないだろうか。上司が何を考えているか、周囲が自分をどう評価しているか、あれこれ気を回さずにはいられない。

そんなときは、さっさと結論を出すべきだ。「たぶんこうだろう」と仮定して、それに沿って今できることをするか、もしくは何も考えずに放っておく。私が勧めたいのは、後者である。何もせずに、言われたことだけを淡々とこなし、時間とともにだんだんと全貌がわかってきたら、その時点で動けばいい。上司にどうすればいいか聞いても、考えが固まっていない場合が多いし、同僚に相談すれば、曲解された内容を関係者に漏らされるかもしれない。ヘタに思索したり行動したりしないのが一番である。

同様に、他人と自分を比較して一喜一憂するのも時間のムダだ。面白いもので、1学年でも年上の人が自分より仕事ができるのは気にならないが、同期や2〜3年下の人間が優秀だと、内心穏やかではいられない。しかし気にしただけで自分の実力が向上することや他人の評価が変わることはないのだから、これもあれこれ考えないほうがいい。

心を穏やかにするには、「自分は全体のなかでどの程度か」をなるべく客観的に把握し、順位を自覚することだ。出身大学や語学力、折衝能力などを鑑みれば、自分がどのあたりに位置するかという見当はつく。身のほどをわきまえてしまえば、「自分は今、20人中12位にいる。1位の同期には敵わないが、11位の後輩なら何とか追い抜けるかもしれない」と冷静に考えられるようになる。プライドや向上心を捨てるわけではないし、同僚の活躍にいちいち心を乱されることもない。さらによいことに、このように「悟った」人間は、周囲からは自信ありげでクールに見えるので、かえって評価が上がるのだ。

もし、「自分は今、考えてもムダなことを考えているな」と気がついたら、すぐにその場を離れて違うことをするといい。たとえば外の空気を吸う、散歩に行く、運動する。特に運動をすると憂鬱な気分が改善されることは医学的にも証明されている。それでもダメなら、悩んでいることを紙に書いて整理してみるといい。小さな努力を続けていくうちに、「切り替えスイッチ」のようなものができてきて、一瞬で悩みの堂々巡りから抜け出せるようになるはずだ。

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×:上司が何を考えているか、思惑を想像し、悶々とする
○:上司の思惑を勝手に仮定しつつ、何も考えずに放っておく

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柿木 隆介(かきぎ・りゅうすけ)
自然科学研究機構生理学研究所教授・日本神経学会専門医
九州大学医学部卒業。ロンドン大学医学部などを経て、現職。著書に『脳にいいこと 悪いこと大全』(文響社)など。

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(自然科学研究機構生理学研究所教授・日本神経学会専門医 柿木 隆介 構成=長山清子 写真=iStock.com)