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2000年代なかば、間接部門を子会社に統合する「シェアード・サービス」という経営手法が大流行した。だが現在は死語になりつつある。成功例がほとんどないからだ。なぜ試みは失敗したのか。同志社大学の加登豊教授は「最大の問題はグループ経営の視点の欠落だ」と指摘する――。

■数多くの企業が横並びで設立

今回の一穴:グループ会社の中にシェアード・サービス会社がある。

前回に続き、子会社について検討してみたい。取り上げるのは、シェアード・サービス会社である。

経営に関する「流行り言葉(buzzwords)」の大部分は1年もしないうちに忘れ去られる。しかし、言葉は死語になっても、経営の実態に、その死語が生み出した痕跡が残ることがある。有用でない言葉は、忘れた方が良い。しかし、その時には、痕跡も合わせて消し去ってしまわないといけない。企業には、このような痕跡がたくさん残っており、それが経営の大きな足かせとなっている。

その典型例の一つが、シェアード・サービス会社(この言葉が何を表しているかがわからない読者も多いだろう。すでに死語だから仕方がないが)である。子会社のうちでも、特に大きな問題をかかえているのは、2000年初頭に数多くの企業が横並び的に設立したシェアード・サービス会社である。

シェアード・サービスは、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が経理部門の合理化をはかるために導入したと言われているが、わが国では、長引く不況による業績低迷、連結会計制度への移行等も影響して、グループ企業のそれぞれが有する間接部門を統合し、経費削減を図るとともに、業務効率化を達成し、グループ連結経営を強化する等を目的として、採用された。

その際、経理、情報システムおよび情報セキュリティ、人事部の中の教育研修機能、総務、法務などの業務が、子会社であるシェアード・サービス会社に移行した。

狙いは、グループ企業内に分散している間接業務要員を子会社に集結させ、専門性をさらに高め、グループ企業以外の顧客を獲得して収益を上げ連結経営に寄与することにあった。また、間接部門要員を子会社に出向・転籍させることで、親会社の人件費負担を軽減できるというメリットもあると考えられた。

■効率化も進まず、外部顧客も獲得できず

しかし、シェアード・サービス化で効果を上げている企業は少ないばかりか、新たな多くの問題を生むことになったのが現実である。

まず、親会社の人件費負担については、親会社と子会社の支払い給与の差額のみを出向者に対して親会社が負担するので、確かに効果があるように思える。しかし、企業グループ全体としては、支払い給与総額は変化しない。そもそも、親会社の人件費軽減という発想そのものに、グループ経営の視点が欠落していることを知らなくてはならない。

グループ会社といっても、会社ごとに業務の進め方等について独自の考え方やシステムがあったため、同一業務を担当する人員を集結させても、すぐに業務が円滑に進んだわけではない。業務の統一化に向けて、多くの時間と調整を行っても、相違はなかなかに埋まらなかった。つまり狙い通りには専門性は高まらなかったのである。シェアード・サービス会社設立時に、グループ各社の担当者全員を移籍するという「配慮」が働いたため、必要以上の人員を各シェアード・サービス会社が抱え込むことにもなった。

また、グループ外企業との取引を実現するためには、営業活動が不可欠であるが、それは容易でなかった。当然ながら、コンタクト先の企業には、売り込もうとする業務を担当する間接部門が存在しているし、同種業務を行うシェアード・サービス会社を設立していたからである。いくら優れたサービス、安価なサービス提供を訴えても、新規顧客の獲得は困難を極めることになる。

間接業務担当者の中には、かつて、営業の経験がある者がいたとしても、営業の専門職ではない。このような人たちに、他社への営業は荷が重かった。そのため、営業活動は、出身母体であるグループ会社に向けられることになる。そもそも、企業内の間接部門は多くの場合コストセンターであるから、間接業務の価格設定をどのように行い、いくらに価格を決定するかも判断できなかったのである。連結最適ではなく部分最適を求めてしまった結果、シェアードサービスの価格が、外部のサービスより高くなり、かえってコスト高を招くこともあった。

結果は悲惨を極めているにも関わらず、その深刻さが認識されているとはいえない。グループ全体で見れば、シェアード・サービス会社運営のための費用が増大し、連結売上や連結利益へのシェアード・サービス会社の貢献は、微々たるものだからである。また、本体企業から出向・転籍となった人々のモチベーションは低い。

つまり、シェアード・サービス化は、親会社の単体発想に基づいた、合理化や経費節減でしかない。単体レベルに見れば、親会社では間接要員は大幅に縮減され、人件費も大幅に圧縮されている。これは公務員数の削減を迫られた政府が、数多くの独立行政法人や大学法人の設立を通じて、公務員や国立大学の教職員数を減少させた方策と酷似している。

■親会社に専門家がいなくなった

加えて、シェアード・サービス化してはいけなかった業務まで子会社に移管したことの代償は大きい。

まず、シェアード・サービス会社に各種間接業務の専門家を移籍させた結果、親会社に当該業務の専門家の層が薄くなってしまった。特に、会計・ファイナンスについて深い知識を持つ者が少ないことは、企業経営に関する判断や意思決定に支障が生じることにつながる。現時点では、問題はないだろうが、あと10年もすれば、会計・ファイナンスに疎い経営陣が、陣頭指揮をとるという極めて危険な事態に直面することになるだろう。

情報システムについても、同様のことが言える。また、人事部から、教育・研修業務を抜き出してシェアード・サービス化した企業も少なくないが、人材育成が企業にとって極めて重要であるという事実からすると納得がいかない。企業における人材育成は、異動、OJT、自己研鑽と並んで教育研修の四つを巧みに組み合わせることで、成果を上げることができるのであるが、教育研修業務を切り離してしまえば、円滑な人材育成に支障が生じるからである。

「経験学習」の研究によれば、「6:3:1の法則」があるという。6割が自分自身の経験、3割が上司・同僚・部下の経験、そして1が研修教育による経験から構成されているという。ただ、それぞれの経験を獲得するために費やされる時間を考えれば、研修教育から得られる時間当たりの知見のウエートは極めて高くなる。このような重要な教育・研修の機能を子会社とはいえ、別会社に委ねることには問題があるだろう。

■問題克服のための二つの方策

以上のことから、間接業務をシェアード・サービス会社に移管するという決定は、期待された効果をほとんど生むことがなかったばかりか、企業に大きなダメージを与え続けているのである。それでは、この問題をどのように克服すればいいのだろうか。

方策は二つある。一つは、シェアード・サービス会社がグループ会社に頼らない経営に大きくかじを取り、高収益を実現できる企業へと変身することである。そのためには、提供するサービスの質を向上させ、他社に対する営業を強化し、社員数を大幅に削減し少数精鋭組織となることが不可欠である。

もう一つは、連結会計に貢献が少ないすべてのシェアード・サービス会社を解散し、再び、間接要員を親会社を含むグループ会社に再配置することである。現状を維持するというのは、「何もしない」という意思決定を行うことであるが、これは最悪の意思決定である。何もしなければ、企業力は静かにそして確実に弱っていくことになるだろう。

シェアード・サービス会社設立に限らず、「失われた20年」と呼ばれている時期に企業がとった施策を一度すべて棚卸しする必要があるだろう。なぜなら、純粋持ち株会社の解禁やコーポレート・ガバナンスの強化など、バブル経済崩壊からの脱出のための方策の大部分が、低迷をさらに長期化させたからである。経験から学ぶことの重要性は「経験学習」の研究からも明らかである。ただ、経験・体験することだけでは意味がない。経験・体験を深く洞察し、内省を得ることが極めて大切である。「内省なき経験」は百害あって一利なしであることを確認してほしい。

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加登 豊(かと・ゆたか)
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
神戸大学名誉教授、博士(経営学)。1953年8月兵庫県生まれ、78年神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了(経営学修士)、99年神戸大学大学院経営学研究科教授、2008年同大学院経営学研究科研究科長(経営学部長)を経て12年から現職。専門は管理会計、コストマネジメント、管理システム。ノースカロライナ大学、コロラド大学、オックスフォード大学など海外の多くの大学にて客員研究員として研究に従事。

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(同志社大学大学院ビジネス研究科教授 加登 豊 写真=iStock.com)