米国のトランプ大統領がCIA(中央情報局)の次期長官に任命した初の女性候補者に対して、米国議会で反対の声が出始めた。この女性はCIA職員として長年、秘密工作に関わり、副長官にまで昇進した。豊富な実績があるこの人物に一体どんな問題があるのか。

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ベールに包まれていたハスペル氏の経歴

 トランプ大統領は3月中旬、次期CIA長官にジーナ・ハスペル副長官を任命した。CIA長官だったマイク・ポンぺオ氏が国務長官に抜擢されたため、ハスペル氏がその後任として任命された。

 CIA長官の人事には議会上院の審議と承認が必要となる。もし承認された場合、米国史上初めての女性のCIA長官が誕生する。CIAの生え抜きの職員が長官となるのも極めて稀だという。

 ハスペル氏は長年、米国政府のインテリジェンス活動の秘密工作部門に所属していた。そのため肩書きや職務内容、経歴などはこれまで一切、明らかにされていなかった。

 ハスペル氏が次期長官に任命された後、CIA当局は初めて同氏の簡単な略歴を発表した。その略歴によると、ハスペル氏は現在61歳。1985年にCIAに加わり、一貫して秘密活動部門に所属して、海外の諸拠点とワシントン郊外のCIA本部との勤務を交互に続けてきた。対テロ対策などで実績をあげて大統領表彰、CIA長官表彰などを受け、海外数カ国でのCIA支局長を務めた。近年ではCIA本部の数カ所の秘密工作部門の責任者を歴任した。

 また、米国メディアの報道によると、ハスペル氏はケンタッキー州出身。米空軍士官の父の家庭に育ち、大学卒業の数年後にCIAに入った。離婚歴があり現在は独身である。CIAではトルコ、エチオピア、中央アジア諸国などに勤務し、ロンドン支局長としても活動した。特筆すべき活動としては、2001年9月に9.11同時多発テロを引き起こしたイスラム過激派テロ組織「アルカーイダ」の追及がある。

違法と知りながら水責めの実施を命令?

 こんな経歴を持つハスペル氏について、CIA長官への就任を審議する議会上院の一部から、その資格を疑う声が現われている。

 ハスペル氏の何が問題なのか。最大の要因は、ハスペル氏がテロ容疑者の取り調べにおける過剰な尋問に関わっていたのではないか、という疑惑である。

 米国政府にとってもCIAにとっても、9.11同時多発テロの直後の最大の使命はアルカーイダを摘発して壊滅させることだった。アルカイーダの指導者で同時多発テロの首謀者であるオサマ・ビンラーデンの身柄確保、アルカーイダのさらなるテロ計画の解明も緊急責務だった。

 その対応の中でCIAは2002年、タイ領内にテロ重大容疑者の収容所を秘密裡に開設した。CIAはこの収容所に容疑者たちを拘束して尋問を重ねた。このタイの秘密収容所の責任者がハスペル氏だった。

 ハスペル氏には、同収容所で容疑者たちに対して行われた違法ぎりぎりの「水責め」拷問に関与したのではないかという疑惑がかけられている。水責めは被疑者を殺したり、ひどく傷つけることこそないが、溺死寸前の苦しみと恐怖を与える苛酷な尋問方法だった。拷問だという批判もある。

 2002年当時、「強化尋問」とも呼ばれた水責めは、米国政府部内でも合法性が曖昧となっていたが、その後、オバマ大統領の判断で「違法」とされ禁止された。

 だが、ハズベル氏は水責めを違法と知りながら実施命令を出し、しかもその後に証拠の隠滅を図ったのではないか、という疑惑が沸き起こっている。

 上院軍事委員長のジョン・マケイン議員(共和党)は、CIA長官任命が決まったハスペル氏に書簡を送り、4月中に上院で始まる同氏の任命審議までに、水責めなどへの関わりを詳細に報告するよう求めた。

 また、ハスペル氏の任命の是非を最初に審議する上院情報委員会のメンバーのダイアン・ファインシュタイン議員(民主党)は、「ハスペル氏の拷問に近い苛酷な尋問への関与は確実だ。CIA長官への就任には問題が多い」との慎重論を表明した。

 9.11テロは現在の米国の情報活動になおも深い傷を残しているということだろう。

筆者:古森 義久