今年1月から走り始めたJR東日本千葉支社のサイクルトレイン「B.B.BASE」。千葉県内4方面へサイクリストを乗せて走る(写真:ぺいさま / PIXTA)

今年1月、サイクルトレイン「B.B.BASE(BOSO BICYCLE BASE)」がデビューした。JR東日本千葉支社が投入したもので、自転車専用のサイクルラックを車内に常設。“幻のホーム”とも呼ばれる両国駅の3番ホームから出発し、週替わりで千葉県内4方面(内房・外房・銚子・佐原)を目指す旅行商品対象の専用列車だ。

房総半島は、1年を通して温暖な気候や平坦な地形もあってサイクリストからの人気が高い地域。都心部からの近さもあって、これまでも多くのサイクリストが足を運んできた。「B.B.BASE」投入以前も、千葉県内の鉄道は輪行バッグで自転車を持ち込むサイクリストの利用が目立ったという。

自転車で房総半島を活性化

今回の「B.B.BASE」は、千葉県や県内の自治体が積極的に進めているサイクルツーリズム事業にあわせ、サイクリング客の取り込みを図ったものだ。

JR東日本千葉支社の担当者は言う。「週末を中心に輪行バッグで列車をご利用いただくお客様は多く、増加傾向が見られます。また、これまでも千葉支社ではトライアスロン大会やサイクリングイベントにあわせて自転車を解体せずに利用できるサイクルトレインの運行を行ってきました。こうした実績を踏まえ、千葉県内の地域活性化を目的として、千葉の食・スポーツなどのツールを活用した『コトづくり』の一環として『B.B.BASE』を投入しました」。

千葉県は2012年からサイクルツーリズム推進事業に力を入れており、県内のサイクリング環境整備を支援してきた。こうした中で千葉支社でも2013年以降たびたびサイクルトレインを運行。さらに自転車関係団体や関係自治体との情報交換を重ね、「B.B.BASE」の投入に至ったというわけだ。

「出発駅である両国駅をはじめ、『B.B.BASE』の到着各駅では階段やエレベーターを使わず直接ホームへの出入りができるよう改装しています。サイクリストの方々にとって、車内の自転車を乗せるために折り畳む作業や階段などの段差がわずらわしさのひとつ。それを最小限に抑えることで、快適に目的地までご利用いただける点が大きな特徴です」(同支社担当者)

「もっと一般的になるとうれしい」

本格的なサイクルトレインの登場について、あるアウトドアライターは「もっと一般的になってくれるとうれしい」と話す。

「外国では自転車専用ラックが普通の列車にもあるなど、折り畳んだりバラしたりせずに気軽に自転車を持ち込めるところも少なくありません。自転車はエコですし体を動かすので健康にもいい。サイクルトレインがもっと普及すれば、手軽なスポーツとしてのサイクリングもより広まるのではないかと期待しています」

ただ、一方で今回の「B.B.BASE」に対してはある懸念も示す。

「びゅうプラザなどで事前に旅行商品として購入しなければ乗車できないんですよね。つまり、たとえば『週末、朝起きたら天気が良くてサイクリングにでも行くか……』という気軽さがない。もちろん事前に予定してサイクリングを楽しむなら最高の列車なのですが、気ままさを優先しているサイクリストにとってはちょっと使いにくいのも事実ですね」

旅行商品としての発売に限られているのは、事前に自転車の型式などを確認する必要があるためだという。もちろんその事情は理解できるし、混乱を招かないためにも必要なこと。理想を言えば、一般の列車にも気軽に自転車を持ち込めるといいのだろうが、通常の客との関係もあってそれはなかなか難しい。その点では、本格的な“サイクルトレイン”の嚆矢(こうし)として「B.B.BASE」への期待は高い。

さらに、サイクルトレインにはスポーツとしてのそれ以外にも期待を寄せる向きもある。“二次交通”としての役割だ。

利用者減少に歯止めがかからない地方の鉄道にとって、大きな課題のひとつは“二次交通”。自宅から駅まで、または駅から勤務先や学校などの目的地までの交通手段をどのように確保するか。その点で、マイカーやバスなどの競争相手に後れを取っているケースも少なくない。ただ、自転車をそのまま持ち込めるサイクルトレインならば、駅から自転車で目的地まで行くことができるため、この問題が解消されるというわけだ。

「ママチャリ」でどうぞ

実際、これまでも多くの地方鉄道でサイクルトレインが導入されてきた。たとえば、埼玉県内を走る秩父鉄道では、事前の試験運行を経て2010年から時間や区間を限定したサイクルトレインの運行を続けている。


秩父鉄道では時間と区間を限定し、車内に自転車をそのまま持ち込めるサイクルトレインを運行している(くまちゃん / PIXTA)

「きっかけはサイクルツーリズム推進にあわせて、サイクルトレインの運行はできないかという埼玉県側からの相談でした。現時点では、平日に波久礼(はぐれ)―三峰口、土休日に御花畑―三峰口でそれぞれ日中に限って自転車を持ち込むことができます。専用ラックなどはないので、先頭車両に優先スペースを設けることで対応しています」(秩父鉄道担当者)

つまり、専用ラックを設けている千葉の「B.B.BASE」とは異なり、通常の列車の車内にそのまま自転車を持ち込めるというわけだ。一般の乗客とも混在することになるが、今まで目立ったトラブルなどは起きていないという。

「きっかけがサイクルツーリズムですから、もちろんサイクリストの方々の利用が中心です。ただ、できれば今後は買い物などを含めた一般の人にも積極的に利用していただければと考えています。どうしても家から駅まで距離があったりすることで、日中の外出では鉄道ではなくマイカーを使ってしまう方が多い。サイクルトレインでは、スポーツタイプの自転車だけでなく普通の”ママチャリ”でももちろん乗せられますから、ぜひそういう方も積極的に使っていただければ」(同社担当者)

実際、群馬・栃木両県を結んで走る上毛電気鉄道では、毎年4万人ほどのサイクルトレイン利用者がいるという。サイクリストだけでなく、日常の買い物などにも積極的に利用する人が多く、鉄道の利用減少に歯止めをかける役割を果たしているのだ。

ただ、課題が少なくないのも事実。秩父鉄道では、土休日は観光客で混雑することも多いためサイクルトレイン運行区間が短くなっているし、駅施設の関係から利用できない(乗降できない)駅も多い。軽量化されているスポーツタイプの自転車であればともかく、通常のママチャリを担いで階段を昇り降りするのは現実的ではないだろう。サイクルトレイン利用の拡大には、こうしたハード面の課題もクリアしなければならない。もちろん、自転車の持ち込みが増えた際の一般乗客とのトラブルなどへの対策も必要だ。

地方鉄道を救うツールになるか

実は、今春に廃止されたJR三江線でもかつて自転車の持ち込みを可能にする提案がされたことがあった。2009年、沿線自治体による三江線改良利用促進期成同盟会が自転車の持ち込み制限緩和を要望したが、JRサイドからは「臨時便なら対応できる」との返答だったという。

小さいディーゼルカー1両で運転されていた三江線だからやむをえない面もあるし、当時はまだサイクルトレインへの理解は進んでいなかった時代だから、JR側の対応も当然だろう。とは言え、”二次交通”という弱点を抱えている鉄道にとって、サイクルトレインが持つ可能性は小さくないはずだ。

サイクリストたちが集まるきっかけとなり、さらに地元住民たちも日常の買い物などで積極的に自転車を列車に持ち込んで利用する――。さまざまな課題はあるにせよ、もしかするとサイクルトレインは、地方鉄道を救うひとつのツールになるかもしれない。「B.B.BASE」の活躍が、こうした議論のきっかけになることを期待したい。