ジョブズリサーチセンター長の宇佐川邦子氏(写真:家老芳美)

写真拡大

 日本の産業の喫緊の課題となっている「人手不足」。少子高齢化に伴う人材枯渇は企業の成長戦略を阻害する要因になっており、人件費の上昇などが経営状況を圧迫している。

 人材獲得競争が激化するなか、特に厳しいとされるのが保育や介護、あるいはコンビニエンスストアや飲食店といった業界だ。これらの業種が直面している問題は何か。今後、生き残る産業と廃れる産業との違いはどこにあるのか。リクルートジョブズでジョブズリサーチセンター長を務める宇佐川邦子氏に聞いた。

●上昇基調の時給…アルバイト・パートは1021円

――今、「アルバイト・パートの採用が難しい」と聞きますが、時給の全国的なトレンドはどうなっているのでしょうか。

宇佐川邦子氏(以下、宇佐川) 2006年からアルバイト・パート募集時平均時給調査を行っていますが、平均時給は13年2月から上昇基調にあります。特定の業種だけでなく全業種で伸びており、地域的にも首都圏や関西圏をはじめ、東海圏など全般的に伸びています。業種や地域の偏在がなく伸張していることで、アルバイト・パートについては全体の賃上げにつながっていると思います。アルバイト・パートの3大都市圏の平均時給(18年2月度)は、前年同月より20円増加の1021円となりました。

――街中を歩くと、コンビニと飲食店はいつも従業員を募集しているような印象があります。

宇佐川 日本の産業構造が変化して第3次産業にシフトしていくなかで、小売業・飲食業・介護業ではアルバイトの比率が増えていますが、これらの業種ではもともと人材が不足していました。一方、近年は他業種でも人材不足が顕在化しています。そのため、コンビニや飲食店は24時間営業の強みを生かして、賃金を上げるだけではなく短時間の勤務も可能にするなど、柔軟な就労環境を整備しているところもあります。

――資格が必要な保育や介護などの業界、あるいは物流関係のドライバーの不足が目立ちます。

宇佐川 免許や資格が必要な職種で人材が不足しているのは、資格を持っていながらも、それを生かして働いていない人がいるからです。「その仕事が嫌で辞めた」という人ばかりではなく、労働環境や条件が合わなくて退職せざるを得ない人も多いのが現実です。そのため、今後は資格保有者の掘り起こしが必要であり、そういった人たちが働きやすいように就労環境を整備することが大切です。

――また、事務職は人手が足りているイメージがあります。

宇佐川 事務職は定義が広いです。旧来のように、来客の受付を行いお茶出しをする……という庶務的な仕事はほとんどなくなっており、コールセンターで顧客からの問い合わせや要望を受けてデータ入力する、受発注業務を行う、などのイメージです。

 事務職は希望者が多く、他職種と比べて奪い合いが激しいのですが、ミスマッチも多いです。たとえば、経理の業務は今やパソコンの会計ソフトに取って代わられており、アウトソーシングしている中小企業も多いです。そういった会社も募集してはいますが、そこではIPO(新規株式公開)対策や月次決算などの事務能力が求められます。

――ドラマの『ショムニ』(フジテレビ系)のような仕事は、ほとんどないのですね。

宇佐川 中小企業では、やや年齢が高めで経理から営業アシスタントまでなんでもこなせる女性社員を求めるケースがあり、応募があればすぐに採用が決まります。一方で、そのためアルバイト・パート、派遣スタッフの募集は少なくなっています。

●生き残りが厳しい産業の共通点

――特に人手不足が深刻化している業種はなんでしょうか。

宇佐川 人材不足の問題には2種類あります。資格が必要な保育や介護などと、多くの従業員を求めるコンビニや飲食店とでは、問題の種類が違います。

 前者には、ドライバーが必要な物流や建築・土木も含まれます。雇用の数こそ多くはありませんが、従事するには免許や資格が必要であるため、育成に時間がかかる。しかし、そもそも対象者が少ないため、育成に時間をかけられない。

 そうなると、20代のうちに施工管理技士などの資格を取得して、即戦力になってもらう必要があります。しかし、今はベースとなる20代が少なくなっているため、人材の供給が追いついていない。そのため、人材不足がなかなか解決しないのです。さらに、新卒で就職する若者も、現場より事務職志向が強い。ここに、資格が必要な職種での人材不足の問題点があります。

 後者の場合は、資格は必要ありませんが多くの雇用が必要です。さらに、10年前と比較してコンビニも飲食店も1店舗当たりの営業時間は長くなっており、いくら採用しても足りない構造になっています。

――物流や建築・土木は高齢化が著しいです。今後、産業としてさらに厳しい状況に追い込まれるのではないでしょうか。

宇佐川 「今後、産業として生き残るか」という観点からいえば、男性主体で正社員が多く、資格や免許が必要で、さらに高齢化している産業は厳しいといわざるを得ません。こうした産業の多くは、これまで人材育成に力を入れてこなかったため、今働いている人たちが貴重な戦力です。その人たちが働いてくれているうちはいいですが、後を継ぐ世代がいないのが問題です。

――今、施工管理技士の派遣がはやっており、ゼネコンが現場で多く活用しています。ゼネコンも、もはや自社の社員だけでは現場を回すことができないのです。

宇佐川 ひとつの会社で回すよりも、複数の会社で動くほうが効率よく仕事が回るでしょう。建設業界に限らず、今後はそういう働き方が増えていくのではないでしょうか。

●「コンシェルジュ化」するタクシー運転手

――全業種を見わたして、何か近年の変化はありますか。

宇佐川 どの業種も「サービス業化」し始めています。たとえば、以前ならタクシー運転手は、ある地点から別の時点まで効率よく乗客を送り届けるのが仕事でした。しかし、今は高齢者が増えているため、乗客が不安を感じないスピードで走ったり、乗降する際にそっと手を添えたり、雨が降っていたら濡れないところまで送ったり……といったホスピタリティの精神が重要になっています。訪日外国人も増加しているため、日本人とは文化や常識が違う乗客への対応も必要です。いわば、ホテルのコンシェルジュに近い役割になってきています。

 人口、特に若年層の減少が著しいなかで企業や産業が生き残るために重要なのは、若者の確保です。若者が「働きたい」「成長を実感できる」「社会で貢献できる」といった価値を見いだすことができる企業や産業であることが大切です。

 ロボット化やAI(人工知能)の活用も進んでいますが、今後はどの業種もサービス業化が進むとともに、一方では、人が介在することによって付加価値が生まれる業態になっていくのではないでしょうか。

――ありがとうございました。

 後編では、働き方や雇用形態の変化を踏まえて、「年功助力」「プチ勤務」といったキーワードについて、さらに宇佐川氏の話をお伝えする。
(構成=長井雄一朗/ライター)