飲食店のドタキャンが実はかなりヤバイ理由
キャンセルに困っています(写真: Graphs / PIXTA)
こんにちは、弁護士の宮川舞です。「なんとなくアリかナシかはわかるんだけど、実際のところ法的にはどうなの?」という話題を取り上げていくこのシリーズ。新入社員歓迎会など、宴会・飲み会の手配をすることが増えるこの季節にちなんで、今回は、「飲食店のキャンセル」です。
飲食店経営の方から、「キャンセルが重なるとかなり(経営的に)苦しいです。どう対応したらよいですかね」と聞かれることがあります。
日常的なことなのであまり意識をすることはありませんが、「飲食店に予約をして、その予約が完了する」というのは、れっきとした「契約の成立」です。「予約日時での、飲食店におけるサービス提供の契約の申し込み」と、「飲食店がその申し込みを承諾する」という2つの行為によって、契約書を作ったり印鑑を押したりしなくても、「サービス提供契約」が成立していることになるのです。
そして、契約というものは、解約に関する合意をしていない限り、原則として解約はできません。キャンセルというのは、「サービス提供契約が成立した後に、予約をしたほうから一方的に契約の解約申し入れをすること」ですから、法的には、そのキャンセルにより飲食店に損害が生じた場合、予約した人はその損害を賠償する義務を負う、ということになります。ただし、飲食店がキャンセルを承諾し賠償も免除してくれた場合は別です。
「キャンセルによる損害」って、どれくらい?
「飲み会の予約キャンセルで損害賠償義務……? なんか思っていたよりも重たい話だな」と思われたでしょうか。また、「キャンセルで損害といったって、結果的にほかのお客さんが入れば損害なんてないんじゃないの? 損害ってどれくらいのものなの?」といった疑問もあるかもしれませんね。
「キャンセルによる損害」の考え方は、2通りあります。
1つ目は「サービス提供契約において、キャンセルによる損害額についての約束をした場合」で、その約束の金額が損害となります。
ホテル宿泊予約の際、「予約日時の前日以降のキャンセルはキャンセル料として宿泊料全額を頂きます」などキャンセル料が発生するケースが書いてあり、それに承諾したうえで予約をしますよね。飲食店においてもこのようなキャンセル料、つまりキャンセルによる損害額についての承諾をしたうえで予約をした場合には、同じ形となります(ただし、この約束の金額が損害額としてあまりに高い場合には、消費者契約法違反として認められない場合もあります)。
2つ目は「キャンセルにより、その飲食店に具体的に発生した損害の金額」です。この具体的に発生した損害の金額は、飲食店側が主張するだけでなく、その主張の裏付作業も行う必要があるのですが、予約用の食材をほかのお客さんに使った場合や、冷凍保存が可能だった場合には、食材費の損害は減る可能性が高いです。
また、飲食店では、予約日時直前でのキャンセル連絡(いわゆるドタキャン)だけでなく、キャンセルの連絡自体をしない無断キャンセルも多いようです。無断キャンセルの場合は、飲食店側としてはそのお客さんが来るのか来ないのかわからないため、予約席や予約用の食材をほかのお客さんに使えない可能性が高くなります。そのため、ドタキャンによる損害よりも無断キャンセルによる損害のほうが、金額は高くなる可能性が高いです。
電話番号だけで「損害賠償請求」できる?
ただ、飲食店がキャンセルをした人または会社に対して損害賠償請求をしたという話はあまり聞きませんよね。
何十人、何百人といった規模の予約なら別でしょうが、数人規模の予約の場合、損害があったとしても、飲食店が予約をした人の情報として持っているのは「携帯電話番号」だけということがほとんど。予約した人の携帯電話番号から予約した人の氏名住所を調査して、文書で請求をして、支払ってもらえない場合に裁判をして……といった手順を踏むのは大変、という事情があるからだと思われます。
ですが、飲食店店主が、40人の宴会予約を無断キャンセルした人に対して13万9200円の損害賠償請求の裁判を起こし、3月9日、東京簡易裁判所がこの請求を認める判決を出しました(もっとも、被告は出席せず内容を争うこともしなかったようですが……)。
上記の裁判の事案では、飲食店店主より依頼を受けた弁護士が、弁護士法上の照会制度を使って、携帯電話会社から予約をした人の個人情報を取得しています。「弁護士会照会」とは、弁護士が依頼を受けた事件について事実関係の調査、証拠の収集などをするための方法の1つで、弁護士が所属する弁護士会に照会申出をして、弁護士会が審査を行ったうえで弁護士会が照会先に照会をするという制度です。
たいていの飲食店は、予約をした人の氏名と電話番号をきちんと保存しています。また、予約をした人とキャンセル料(キャンセルによる損害額)についての約束を、メールなりサイトを通じてするようにしている飲食店も増えているようなので、今後は、上記のような裁判が増えてくる可能性があります。
もし急な体調不良やトラブルなどでキャンセルせざるを得ない場合に早めにキャンセル連絡をすることは、モラルの点だけでなく法的に見た場合でも、飲食店・予約キャンセルをした人どちらにとっても傷が少ない、ということになりますね。
なお、予約のキャンセルは飲食店側からすれば腹が立つものだと思いますが、キャンセルをした人のフェイスブックやツイッターのアカウントを突き止め、そこに「この人がうちの店で無断キャンセルをしたひどい人です」といった書き込みをすることは、名誉毀損に問われたり、個人情報保護法違反に問われたりする可能性もあるので、やめておきましょう。