『売れる化』(本多利範著・プレジデント社刊)

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ファミリーマートで大ヒットした「育てるサラダ」。買ってから食べるまで1カ月もかかる異色の商品だ。これまでの業界の常識をひっくり返してしまうような、まったく新しいコンセプトの商品はどうやって生まれるのだろうか。その開発秘話に迫る――。

※本稿は、本多利範『売れる化』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■まだ見ぬ新商品、発想転換の新商品

新しい商品を開発する際、考えるべき可能性は2つあります。

ひとつは、これまで店で扱ったことがないまったく新しい商品です。これまでもさまざまな商品やサービスがコンビニに登場してきました。コンビニにはマルチプリンターや、銀行ATMがあります。宅配便や郵便局の一部機能も備えてあります。

これらは単純な小売業として存在していた頃のコンビニの姿からは考えられないサービスです。お客さまが「こんな商品がコンビニに置いてあるといいのに」と考えているような商品もあれば、誰もが思いもしない、けれども登場したとたん「これを待っていた!」と膝を打つような商品がまだあるはずで、それを探さなくてはなりません。

2つ目は、かつてやってみたけれどあまり売れなかった商品です。時期尚早だったり、売り方が間違っていたせいで当時は売れなかった商品も、こちらのやり方を再検討したり、世の中の嗜好が変化することで、再度ニーズが出てくるものもあります。その2つのケースを満たすものとしては、コンビニとドラッグストアの一体型店舗が挙げられます。実は「コンビニで薬を売ってほしい」という要望は、かなり以前からありました。急に頭やおなかが痛み始めたり、目薬をちょっと買いたい時など、近所のコンビニに置いてあれば便利なのに、という気持ちはとても理解できます。

実際に2009年に薬事法が改正されたことで、ネットやコンビニでも一部の薬を売れるようになり、私たちも参入したことがあります。しかし、これにはなかなか難しい課題もありました。コンビニで薬を販売する許可が国からおりたとはいえ、そこには条件があります。コンビニは24時間営業です。

24時間店を開け、24時間いつでも薬を売れるようにしたいならば、24時間常に薬剤師か一般用医薬品を販売できる登録販売者を置かなければなりません。しかし全国にあるコンビニ全店に足る薬剤師や登録販売者を確保することは不可能で、事業拡大につながらなかったのです。

いったん諦めかけた薬の販売ですが、その後、ドラッグストアとの一体型店舗という形を模索し、ついに実現しました。実はドラッグストアチェーンの中にも、コンビニのような商品をそろえたいと試行錯誤しているところがあったのです。

■情報を取って仮説を立てることが大事

しかし物流や商品開発の面で難しく頓挫しているところにこの話が持ち上がったのです。薬を置きたいコンビニと、コンビニ商品を置きたいドラッグストアとが一体型店舗をつくることで、両者の売り上げはグンとアップしました。

ドラッグストアには行ってもコンビニはほとんど利用していなかった女性年配層と、コンビニには来てもドラッグストアには行かなかった男性層などが、店舗が一体化したことでそれぞれの商品をも試してみるようになったのです。

そうやってオープンした一体型店舗の中には、周囲のコンビニを閉鎖に追い込むなどの“コンビニキラー”として話題になった店舗もあったほどです。

そのほかにも農協との一体型店舗などいくつかの店舗があります。これらは先に述べた2つのニーズを一緒に満たす好例ではないでしょうか。

これまで見たことのない店舗を実現させつつ、中身はすでに見知った商品群を扱っているのです。「売れる化」には、「売れる商品」をつくる必要があるほか、「売れる販売方法」「売れるパッケージ」「売れるサービス」など、いくつもの要因が絡んできます。自分の頭でまず「売れるのではないか」という商品なりサービスを思いついたら、情報を取って仮説を立て、実施してみることです。

失敗しても大丈夫。その失敗は必ず次の成功の糧となります。どんどんチャレンジしていくことが大切なのです。

■時短サラダと、育てるサラダ

いま、日本中でサラダが売れています。サラダバーを用意している飲食店は大人気で、サラダの専門店も次々にオープンしています。コンビニでは弁当コーナーのサラダだけでなく、家で自在に利用してもらえるようなカット野菜も好評です。

例えばサラダ用のカット野菜としては、オニオンサラダや、レタスミックスサラダにキャベツミックスサラダなどがありますが、そのほかにも野菜炒め用や鍋物用、チャーハン用にそれぞれ野菜をカットして袋詰めにした商品を提供しています。以前の項でも述べましたが、単身者や高齢者、共働き世帯の増加で、自宅で一から調理する家庭が減ってきている中、野菜を丸々一個買わない家庭も増えているのです。

キャベツ一個、レタス一個の大きさは、複数人が数回に分けて食さなければ、食べ切る前に悪くなってしまうこともあります。2人暮らしや単身者の場合、これらの野菜をスーパーで買い込んでも食べ切れない場合も多いのです。また、時間的な問題もあります。

忙しい日々の中で、そもそも野菜を洗ってむいて切って、という時間すら惜しいという家庭も多いのではないでしょうか。

そのためスーパーやコンビニでも、半分にカットしたレタスやキャベツを販売するなど工夫してきましたが、そのうちにあらかじめカットして袋詰めにした商品が出回るようになりました。袋を開けてそのまま皿に出せば即座にサラダになる、これは究極の「時短」野菜と言えるでしょう。

その一方で、「時短」とは異なる時間の流れを体験できる商品も売れています。私が2016年に発売した「育てるサラダ」に代表される「ガーデン」シリーズは、「時短」の真逆を行く商品で、なんとサラダ用リーフを自宅で栽培するキットです。カット野菜が帰宅から1分で食べられる商品だとすれば、「育てるサラダ」は実際に食べるまでは、最短でも1カ月はかかります。これが売れています。

当初は若い女性をメインターゲットに想定して発売したのですが、ふたを開けてみたら50代、60代の男性もよく買われていて、これは予想外のうれしい現象でした。商品としての“モノ”を提供することが多いコンビニですが、自宅で楽しめる体験型の“コト”を提案して成功したのが、このシリーズの特徴でした。

■ヒットにはネーミングセンスが問われる

これはかつて園芸会社で働いていた経歴を持つ社員が発案したものです。実は私も自宅でベランダ栽培などをした経験があるのですが、「緑のある生活をしてみたい」と思っても、実際に自分で鉢を買い、土や苗を買って栽培するのは手間がかかるものです。肥料なども種類がたくさんあり、その植物に何が合うのかわからなかったり、いざ虫がついた時に気軽に相談できる人が身近にいなかったりするのも問題です。園芸店は郊外にあることも多く、都心に住む人にはアクセスしにくい現状もあります。そこに目をつけての商品でした。庭やじゅうぶんなベランダを持たない都心に住む人々の中にも、植物を育てる癒やしの時間を持ちたいと考える人は多くいます。

もしコンビニでその願いが簡単にかなえられたら、きっとうれしいのではないかと考えての商品化でした。商品化にあたってはサカタのタネさんと住友化学園芸さんという植物のプロの二社に協力してもらい、水を入れると膨らむ人工土にあらかじめ種をセットし、必要な肥料もすべて添えた商品が生まれました。

これならば園芸に詳しくない人でも、特別な手間をかけずに緑が元気に育っていくのを楽しむことができます。「売れる化」に関しては、商品のネーミングも大切です。当初これは「サラダ」限定で発案された商品でしたが、それでは将来的に商品としての広がりがありません。そこで商品名は「育てるサラダ」としながらも、カテゴリー名は広く「ガーデンシリーズ」とすることにしました。そうすれば将来的に、サラダ以外の植物に広げることもできるからです。

ベビーリーフやバジルなどが育てられる「育てるサラダ」、青しそ、パクチーなどの「育てるヤクミ」、さらにケイトウやミニヒマワリなどの「育てるブーケ」などに加え、今後はベランダガーデニング用品の充実につながっていくでしょう。

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本多利範(ほんだ・としのり)
本多コンサルティング代表
1949年生まれ。大和証券を経て、1977年セブン‐イレブン・ジャパン入社。同社の最年少取締役に就任。後に渡韓し、ロッテグループ専務として韓国セブン‐イレブンの再建に従事。帰国後、スギ薬局専務、ラオックス社長、エーエム・ピーエム・ジャパン社長を経て、2010年よりファミリーマート常務。2015年より取締役専務執行役員・商品本部長として、おにぎりや弁当など多くの商品の全面改革に取り組む。2018年、株式会社本多コンサルティングを設立。著書に『おにぎりの本多さん とっても美味しい「市場創造」物語』(プレジデント社)がある。

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(本多コンサルティング代表 本多 利範 写真=iStock.com)