「テレビや新聞を見ても、『サムスン』の記事がない日はない。韓国経済にこんなに貢献しているのに、ほとんどが“悪役”扱いで、いたたまれない」

 最近会ったサムスングループ幹部はこう嘆く。そんななかで、仰天事件まで飛び出した。

 2018年4月6日。サムスン電子は午前中に、2018年1〜3月期の決算(暫定集計)を発表した。営業利益は15兆6000億ウォン(1円=10ウォン)。空前の「半導体好況」のおかげで前年同期比58%増と、四半期としては過去最高になった。

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最高益だが、市場はそれどころでは…

 同社は昨年、年間決算で5兆円を超える記録的な営業利益となったが、さらに勢いが止まらない状態だ。

 本来ならば、「サムスン電子最高益」は証券市場の格好の好材料のはずだった。ところが、この日、決算発表があった頃、証券市場は別の「サムスン」のせいで大騒ぎが始まっていた。

 この日、サムスン証券は、配当金の支払い手続きをしていた。1株あたり1000ウォン。株主総会で決めたとおり、株主に配当金が行き渡るはずだった。

 ところが、サムスン証券の担当者が、社員株主に配当金を入金する際、1000ウォンを誤って「1000株」と入力してしまった。

 サムスン証券の社員のうち、約2000人が発行済み株式の3%にあたる283万1620株を保有していた。本当なら28億ウォンを支払うはずが、「28億株」の配当になってしまった。

配当金は100兆ウォン?

 サムスン証券の株価は4万ウォン弱だった。1000株を割り当てたため、配当額は100兆ウォンを超える天文学的な金額になってしまった。

 そもそも、サムスン証券の発行済み株式数は9000万株弱で、数字上、一気に28億株も配当してしまったことになる。

 問題は、これに気づいた「社員株主」のうち、16人が、「やった!」とばかり何と、配当された株をすぐに売却してしまったのだ。

 その規模は501万株。取引価格で1760億ウォンに達してしまった。

 証券市場は大混乱した。それはそうだ。何の理由か分からないまま、「売り爆弾」が落ちたのだ。サムスン証券の株価は、一時11%も急落してしまった。

 「配当」といっても、株式は実際にはない。「空売り」のようになり、サムスン証券は、株式の手当てと代金確保に追われた。

1人で100万株売った社員

 この事件が明らかになると、「誤りを知りながら株主を売却した」サムスン証券社員に対して批判が沸き上がった。「1人で100万株売った社員もいた」と伝わり、世論の怒りを増幅した。

 サムスン証券は、法的問題をクリアにしたうえで「厳正に社内処分をする」というが、「サムスン」のイメージに打撃となったことは間違いない。

史上初の裁判生中継

 午後には、史上初の「判決生中継」があった。

 被告は、朴槿恵(パク・クネ=1952年生)前大統領。本人は病気を理由に判決日にも法定に姿を見せなかったが、一連の収賄や国家機密漏洩などの裁判で「懲役24年、罰金180億ウォン」という1審判決だった。

 この裁判でも最大の争点の1つが、「サムスン」だ。

 サムスングループが朴槿恵氏の長年の知人である崔順実(チェ・スンシル=1956年生)氏の娘である乗馬選手に提供した馬や練習施設などへの支援、さらに、崔順実氏が設立にかかわった財団に拠出した資金が「李在鎔(イ・ジェヨン=1968年生)サムスン電子副会長へのグループ経営権継承を支援するための対価であるワイロ」かどうかだった。

 2017年8月の李在鎔氏に対する1審判決はこれを一部認めて実刑判決を出したが、2018年2月の2審判決は「経営権継承作業はなかった」としてこれを認めず、李在鎔副会長は執行猶予付き判決を受けた。

経営権継承の対価だったのか

 この日の朴槿惠氏への1審判決でも、「経営権継承の対価」という判断はせず、サムスングループから提供された資金などについては一部だけを「ワイロ」とした。

 経営権継承の対価とみるだけの根拠に乏しいということだった。

 だが、検察側は、「経営権継承の対価」だと強く主張し、李在鎔氏の上告審で争うほか、朴槿恵氏に対する1審判決にも不服で控訴する方針で「経営権継承」は今後も裁判の最大の争点の1つとして残った。

朴槿恵氏も李明博氏も、みんな「サムスン」

 週明けの4月9日、別の「サムスン」のニュースがあった。今度は、ソウル中央地検が李明博(イ・ミョンパク=1941年生)元大統領を賄賂罪や脱税などで起訴した。

 ここでも「準主役」でサムスンが登場する。

 2009年に、李明博氏が事実上のオーナーだと検察が見る自動車部品メーカー、ダスが米国で起こした民事訴訟などの米国での弁護士費用585万ドル(68億ウォン)をサムスンが支払った。

 これは、李健熙(イ・ゴンヒ=1942年生)サムスングループ会長に対する特赦の請託の対価だったというのが検察の起訴内容だ。

 李明博氏側は、ダスのオーナーは実兄であって自分ではないとこれを否定。特赦と、弁護士費用の負担問題も無関係だと主張している。

 だが、当時のサムスングループ幹部は、検察の主張を概ね認めてると言われ、ここでもサムスンは「悪役」だ。

 検察は、賄賂を渡すことを決めたのは李健熙会長自身だと主張している。李健熙会長は病床で起訴される可能性はほとんどないが、こちらの裁判もサムスンにとって厄介ではある。

 朴槿恵氏に次いで、李明博氏も起訴されたことで、「前職大統領」に対する断罪作業がまずます進んでいる。いずれも場合も、「サムスン」が「不正な資金の出し手」として登場する。

 サムスンから見れば、「強要された被害者」と言いたいのだろうが、そうだとばかり言えない内容も多い。

労組結成妨害も?

 このダス関連の捜査の過程で、サムスングループが組織ぐるみで「労組結成を妨害してきた」ことを示す社内文書も出てきた。

 サムスングループの企業は、長年「労組がない」ことで有名だった。創業者の「労組嫌い」のためで、労組結成の動きがあると、察知してこれを防いできたと言われる。

 具体的に組織ぐるみでこうした動きをしてきたことを示す文書が出てきたことは、かなり以前のこととはいえ、面倒なことではある。

 さらに最近は、雇用労働部が、工場の安全環境問題改善のためという名目で、サムスン電子に半導体工場の詳細なデータを公開するように求めて論議を呼んでいる。

 時代は本当に変わった。つい10年前まで、韓国の大手新聞やテレビで、「サムスン」を批判する内容はほとんど見かけなかった。

 それが、一部進歩系メディアに批判記事が載るようになり、今はほぼ毎日のように「サムスンたたき」の記事や番組がある。

 2018年3月22日、サムスングループは創業80周年を迎えた。韓国で最大最強の財閥に成長した記念日だったが、特段の行事はなかった。

 オーナーである李健熙会長は意識がないまま病床にあり、いま、李明博元大統領の犯罪に係留した。

 長男である李在鎔副会長は、「執行猶予」の身で上告審を控えている。

 次々と出るスキャンダルや批判、ハプニングや圧迫も加わり、韓国経済最大の牽引役であるサムスンは韓国ではもみくちゃになっている。

筆者:玉置 直司