戸塚隆将(とつか・たかまさ)  1974年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ゴールドマン・サックス勤務後、ハーバード経営大学院(HBS)でMBA取得。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2007年、シーネクスト・パートナーズを設立、代表取締役に就任。同社にて企業のグローバル事業開発およびグローバル人材開発を支援するほか、HBSのケーススタディ教材を活用した短期集中型実践ビジネス英語プログラム「ベリタスイングリッシュ」を主宰。グローバル人材を輩出し続けている。著書に『世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか?』(2013年、朝日新聞出版)があり、本書は20万部のベストセラーになった。

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 スタートの春。「今年こそ英語をマスターするぞ」と意気込んでいる人も多いでしょう。

 しかし、「どこから手をつければいいかわからない」「何度か英語にチャレンジしたけどうまくいかなかった」……そんな思いで尻込みしている人も多くいることと思います。実は英語が上達しない人には多くの共通点があり、そこをクリアすれば誰でも英語は身につけられます。

 そこで、英語経験者から高い評価を受け、早くも増刷が決定した『世界で活躍する日本人エリートのシンプル英語勉強法』(戸塚隆将)から、内容の一部を特別公開しましょう。

英語ペラペラになる必要はない

 英語はなぜ必要なのか? 改めて考えたことはあるでしょうか。

 英語は、当たり前ですが、「メッセージを伝える」ためにあります。伝えることがいちばん大切であるにもかかわらず、日本人はついつい「カッコよく話したい」「恥をかきたくない」といった思いを優先しがちです。これが英語の習得を妨げている原因だと私は考えています。「コンプレックス」や「自分がどう思われるか」以上に「伝える」ということが大切だということを忘れてはいけません。

 よって、ペラペラな英語を目指す必要はありません。シンプルに「伝える」英語を身につけましょう。私は、ゴールドマンサックスやマッキンゼーなどで働いてきましたが、仕事ができる人、結果を出す人ほど「ペラペラ」ではなく「シンプル」な英語を話していました。

 では、「シンプルに伝える英語」とは具体的にどういうものか。いくつか例を見ていきましょう。

カルロス・ゴーンのシンプルな英語

 まずは、カルロス・ゴーン氏の英語です。日産自動車および仏ルノーの会長を務め、私たち日本人にとって、グローバルに活躍するビジネスリーダーの代表といえる人物でしょう。

 ゴーン氏の英語は、フランス語アクセントが残り、あきらかに英語のネイティブスピーカーではないことがわかります。それでも同氏の英語は、切れ味が鋭く説得力にあふれています。そして、その伝え方はシンプルそのもの。まさに「シンプルに伝える英語」の良い例と言えるでしょう。

会場からの質問
How different are the corporate cultures at Nissan and Renault?
(日産とルノーの社風はどのくらい違いますか?)

ゴーン氏
I would say, between Nissan and Renault, the differences are very big. Very big.
(私の意見では、日産とルノーの違いは、極めて大きいです。極めて、大きい。)

I mean, there is absolutely no similarity between the two corporate cultures.
(つまり、この2社の社風には共通点がまったくありません。)

 上記のやりとりは、ゴーン氏が講演で日産とルノーの企業文化の違いを聞かれたときのものです。
ゴーン氏は、聞き手の質問が終わると同時に答えを提示します。その結論は「very big(極めて大きい)」です。さらに結論を明確にするために「very big(極めて大きい)」を繰り返します。そして、その結論をさらに別の表現で言い直します。それは、「no similarity(まったく共通点がない)」です。これであればゴーン氏の結論が何であるのか、どんな相手にもしっかりと伝わるでしょう。

スティーブ・ジョブズの明快な英語

 スティーブ・ジョブズ氏によるスタンフォード大学卒業式での有名なスピーチも「シンプルな英語」の好例です。約15分のスピーチは、シンプルなメッセージ、論理、表現で構成されています。

Today I want to tell you three stories from my life. That’s it. No big deal. Just three stories.
(今日は、私の人生から3つの話をしたいと思います。ただ、それだけです。大げさなことではありません。わずか3つの話をするだけです。)
〈中略〉
The first story is about connecting the dots.
(最初の話は、点のつながりについてです。)
〈中略〉
My second story is about love and loss.
(2つ目の話は、愛と喪失についてです。)
〈中略〉
My third story is about death.
(3つ目の話は、死についてです。)

 まずジョブズ氏は冒頭で「人生の学びを3つ伝えることが本日の目的である」と伝えています。これが「明確な結論」です。本来は、どのような3つの学びなのかを冒頭で伝えることが結論の明確さを生み出しますが、ここではあえて聴き手を引き込むために具体的な内容を伝えていません。それでも「今日の目的は3つの話をすることだ」という言葉から始めることで、わかりやすさが生まれます。

 同時にその話が3部構成であることを伝えています。ここでも、論理構成が明確に提示されています。そして、その後のスピーチの中で、論理構成を理解するための助けとして、各部の冒頭に「first(第一に)」「second(第二に)」「third(第三に)」と目印となる言葉を加えています。これにより論理構成が一層わかりやすくなっています。

 そこで使われている英単語は「connecting the dots(点のつながり)」「love and loss(愛と喪失)」「death(死)」という簡単なものです。

 ジョブズ氏のスピーチには、ゴーン氏の受け答えとの共通点があります。つまり、(1)結論が明確にあり、(2)論理構成がストレートで、(3)簡単な言葉を使っている、ということです。

 卒業式という晴れの場で、15分のスピーチを聴く側は、じっとしていられないものです。だからこそ、「シンプルに伝える英語」が徹底されているともいえるでしょう。そして、これらが、私たちノンネイティブスピーカーが目指すべき英語のゴールなのです。

ジャック・ウェルチの英語は「表現」が簡単

 もうひとり、米ゼネラル・エレクトリック社の元会長であり、名経営者として知られるジャック・ウェルチ氏の英語を取り上げましょう。以下は、CNNのインタビューで中国の台頭について聴かれた際の受け答えです。

CNN質問者
Do they scare you or excite you, the Chinese?
(中国人に対して、恐れを感じますか、それとも、気持ちが高ぶりますか?)

ジャック・ウェルチ氏
Excite me!
(気持ちが高ぶりますよ!)

They’re huge! A billion, 300 million people.
(巨大ですね! 人口が13億人です。)

All I see are consumers. All I see here is opportunity.
(彼らは皆、消費者です。チャンスだらけです。)

 ウェルチ氏は中国について聞かれて、即座に「Excite me!(気持ちが高ぶりますよ!)」と答えます。質問が終わる前に、聞き手をさえぎるような間髪入れない受け答えです。そして、その理由として「huge(巨大)」と述べています。

 さらに、巨大な市場を支える具体例として、13億人の人口が存在しそれらの人々がすべて消費者だ、と持論を展開しています。

 そして最後に、再度自分の結論である「excite me(気持ちが高ぶる)を「opportunity(機会)」という語で言い換え、結論、根拠、結論というサンドイッチ構造で端的に答えています。

 際立っているのは、やはり結論の明確さです。scare you(恐れを感じさせる)か、excite you(気持ちを高ぶらせる)か。別の言い方をすれば、threat(脅威)かopportunity(機会)かと言えば、opportunity(機会)という明確な意見です。

 そして、シンプルな論理を展開していきます。「なぜかといえば、市場が大きいから」「具体的には、巨大な人口を有しているから」。さらに、ここで使っている英単語は、excite、huge、consumers、opportunityだけです。なんと簡単な英語でしょう。

 まず、「伝えるべき結論、メッセージは何か」、次に「それを支える根拠は何か」「結論と根拠を伝えるのに適した簡単な単語は何か」の順で考えましょう。

シンプルな英語を構成する5つの要素

 私が提唱する「シンプルな英語」とはなにか。ここでまとめてみましょう。

 これまでの事例で見てきたように「シンプルに伝える英語」には、以下の5つの要素があります。

(1)結論が明確で、短く、わかりやすい
(2)論理が明確で、ストレート
(3)簡単でわかりやすい語彙
(4)堂々と存在感がある
(5)高いリスニング力を備えている

 まずは、英語力以前に伝える「中身」が大切ということ。

 次に、その発言の中身を「結論と根拠が明確」な論理構成で伝えること。

 さらに、簡単な英語表現を用いた作文力です。ここでは「日本語で思いついた内容をそのまま英語に翻訳する」という発想から脱却する必要があります。私たちが日常的に使う日本語には複雑な語彙や表現が多いからです。

 この発想の転換は「小学生に何かを説明する」ところをイメージするといいでしょう。小学生に説明しようとすると、日本語の語彙レベルを相手の小学生に合わせて簡単なものに変えていくはずです。

 これらの要素を備えた「シンプルに伝える英語」は、どのように身につけていけばいいのか。それはひとことで言えば「基本」を大切にするということです。英語コミュニケーション力の向上は、「基本」を疎かにしては不可能です。楽な方法を探そうとすると、結果的に遠回りになります。「基本」をしっかり身につけ、最短最速で「シンプルに伝える英語」を習得する。それが大切なのです。