八幡浜名物がぎっしりつまった港弁「はもひつまぶし弁当」。魚の形の弁当箱がかわいらしい(撮影:坪内政美)

4月10日は「駅弁の日」。列車に揺られながらすばらしい景色を眺めつつ、おいしい駅弁を食べる。私にとって、鉄道旅の最大の醍醐味だ。

実はそれが船でもできることがわかった。「港弁」(みなとべん)をご存じだろうか。鉄道旅には「駅弁」、空の旅には「空弁」、船の旅には「港弁」。

「あけぼの丸」や「あかつき丸」など、寝台特急のような名前のフェリーを運航している愛媛県八幡浜市の宇和島運輸(東洋経済オンライン2018年4月1日付記事「寝台特急っぽい名前のフェリーに乗ってみた」参照)の本社があるビルの3階に、「レストランマリン」というレストランが入っている。どうやらこちらで「港弁」が買えるらしい。

ちゃんぽんを食べたレストランで…


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実はレストランマリンには3年前に1度訪れたことがあった。雑誌のルポ取材の行程で、松山に1泊、翌朝、八幡浜港から船で別府に渡るというスケジュールだった。

その際、松山在住の漫画家・和田ラヂヲさんに声をかけ、特別ゲストでご飯を一緒に食べるシーンで雑誌に出ていただいた。翌日に八幡浜港から船に乗ることを伝えると、私が麺好きなのを知ってか、「八幡浜はちゃんぽんが有名だよ」と教えてくれた。

しかし八幡浜駅に到着してから船に乗るまで、あまり時間に余裕がない。「港のビルのレストランが、確か朝早くから開いてたよ。そこにもちゃんぽんあったよ」。

これはぜひとも食べねばなるまい。

はたして、レストランマリンは朝8時20分からオープンしていた。早速ちゃんぽんを注文し、周りを見渡すと「八幡浜ちゃんぽんマップ」というチラシが置かれてある。どうやら町をあげて、ソウルフードのちゃんぽんを押しているらしい。見たところ、40軒以上の店でちゃんぽんを出しているようだ。これはこれで、また食べ歩きに来たい。

と、チラシを眺めている間にちゃんぽんが来た。


銀座にあるインド料理店「ナイルレストラン」のカレー粉が使われたカレー味のちゃんぽんもある(撮影:坪内政美)

具材は野菜、魚介類、豚肉……と、ここまでは一般的なちゃんぽんと同じだが、八幡浜名物のかまぼこやじゃこ天なども乗っている。麺は太めで、長崎のちゃんぽんと違いスープは白濁しておらず、透明感がある。鰹や昆布、鶏ガラなどで取ったダシはあっさりしており、毎日食べても飽きない味だ。これはなかなかにおいしい。

後から知ったが、八幡浜は魚肉ソーセージ発祥の地でもあった。

幕の内から「じゃこ天弁当」まで

さて、「港弁」だ。

今回、ひょんなことからこのレストランマリンでお弁当を作っていることを知った。ホームページなどに情報が載っていなかったので、直接電話して聞いてみた。豪華な仕出し弁当から焼肉弁当、さらには「じゃこ天弁当」なんてのもあり、20種類ほどのお弁当があった。通常の幕の内弁当であれば、八幡浜港を出港する船に数個ずつ積んでいるらしいが、確実に買うためには予約したほうがいいという。

なので、今回はその幕の内弁当と、港弁として推している「はもひつまぶし弁当」を注文しておいた。受け取りは、乗船する船を伝えれば、船室に積んでおいてくれるらしい。前回乗船したのはあけぼの丸だったが、今回乗るのはあかつき丸だ。

船には売店があり、なるほどいくつかの幕の内弁当が積まれていた。見ると、レトルトのスープやおみそ汁も売られているようだ。もちろんお湯はもらえる。


海を見ながら弁当を開ける。さしずめここは寝台特急「サンライズ」でいうところのラウンジ風だ(撮影:坪内政美)

そのうえ、ポリ容器のお茶まで売っていることに気がついた。この組み合わせは駅弁そのもの……いや、今回は港弁なのだが。

さっそく受け取った「はもひつまぶし弁当」をいただいてみる。しっかりと味の付いたはもに、ちくわ、かまぼこ、じゃこ天、なると巻き、ちりめんじゃこに、ピンク色の削りかまぼこ。デザートには、きよみ一口ゼリー。これらは全部、八幡浜の名物だ。

ご当地のものがこれだけ入って900円とはありがたい。駅弁を食べるように、窓の外の景色を眺めつつ港弁を食べ、ポリ容器のお茶を飲みながら、船旅を楽しんだ。

「はもひつまぶし弁当」について、レストランマリンの方にお話を聞いてみた。

――「はもひつまぶし弁当」は、いつから販売を始めたんですか?

「8年程前でしょうか。掛け紙は10年くらい前に時刻表の表紙のデザインとして作ったものをそのまま印刷しました。幕の内弁当など、弁当類はすべて同じ掛け紙です」

――この「はもひつまぶし弁当」が港弁、と呼ばれるものですね?


ポリ容器のお茶と組み合わせると、まさに駅弁(撮影:坪内政美)

「はい、当時、市役所から『港弁』の企画が出て、何かできないかと。それで自分たちで中身やパッケージを考えて作りました」

――ハモは今の時期でも獲れるんでしょうか?

「ハモは夏場がメインですが、うちでは年中、なんとか手に入れています。入らないときもあるので3日前くらいまでには連絡いただきたいです」

――じゃあ冷凍ではない、ということですね?

「そうなんです。魚屋さんに調達してもらい、板前さんがすべて調理しています。ちゃんと骨切りもしてあって、手間がかかったお弁当なんですよ」

調べたところ、港弁とは「港弁全国化プロジェクト」として2010年から八幡浜港みなとまちづくり協議会が主導して始めたものらしい。第1弾として、八幡浜港のレストランマリンが全国トップクラスの水揚げ量を誇るハモを使用し、「はもひつまぶし弁当」を作った。

「港弁」は八幡浜港ほか、別府港、苫小牧港など、いくつかの港にあるようだ。ぜひ全国に広まってくれることを願う。

船の内装にも鉄道との縁が

今回乗船したあかつき丸についてもちょっと説明しておこう。


重厚感のある、あかつき丸のロビー(撮影:坪内政美)

あかつき丸は2014年に就航した船で、内装デザインはなんと、JR東日本が八戸線で走らせているレストラン列車「東北エモーション」の内装を手掛けた方が担当しているそう。木目調や金属を随所に使用し、古き良き客船のイメージを保ちつつ、モダンに仕上げたデザインとなっている。

あかつき丸もあけぼの丸と同じように2等から特等まで各種の客室があるが、ノビノビシートなどの設定はない。お弁当はどの船でも注文して受け取ることができる。決定的に違うのは、あかつき丸ではカレーやうどんが食べられる、というところである。

しかも、あかつき丸で食べられるカレーは、東京・銀座にあるインド料理店「ナイルレストラン」のカレー(ただしレトルト)なのだ。


船内で食べられるナイルレストランのカレーはビーフ、ポーク、チキンの3種類(撮影:坪内政美)

銀座にあるナイルレストランは、日本でいちばん古いインド料理専門店だ。ナイルレストランのカレーは、カレー屋がまだ街じゅうにはなかった20代の頃、よく食べに行っていた。行くと「ムルギーランチ、おいしいよ!」と店主のナイルさんに強く勧められ、勢いに負けていつもついそれにしてしまった。なので、何度か行っていたのに「ムルギーランチ」以外のものを食べたことがない。

そんなわけでレトルトとはいえ、初めてナイルレストランのビーフカレーを食べた。結構スパイスが効いており、辛いのが好きな私には好みの味だ。

なぜ、あかつき丸でナイルレストランのレトルトカレーを出しているのかというと、宇和島運輸の社長さんが学生時代からナイルレストランに通っていて、店主のナイルさんと親しいからとのこと。その味を船内でも、というわけであかつき丸の売店で提供しているそうである。ちなみに船内でレトルトカレーやカレー粉も売っている。

鉄道と共通点の多い船旅

鉄道と船、景色もシチュエーションも違うが、楽しみ方は限りなく近い。そして船の良いところは、歩き回れるところだ。列車では基本、座席に座りっぱなしだが、船の空間は自由。天気の良い日はデッキでお弁当を食べるのもいいだろう。


売店前にはいすとテーブルもある。ここが食堂車といったところか(撮影:坪内政美)

今回は港弁とカレーで手いっぱい(腹いっぱい)だったが、次回はうどんも試してみたい。ちなみにうどんコーナーに掛けられている「のれん」は、観光列車「伊予灘ものがたり」の車内で使用されているのれんと同じ会社が作っているそう。

鉄道旅との共通点も多い船の旅。4月10日は駅弁の日とされているが、機会があれば港弁も試していただきたいと思う。