中国の太陽光発電プロジェクトでは、生態系や既存の産業と調和する電力開発に取り組んでいる(写真:アップル)

アップルのiPhone 8は、iPhone 6から基本的なデザインは大きく変わっていない。しかしめざましく進化した部分がある。それは、環境負荷の大幅低減。製造する際に排出する二酸化炭素の量が驚くほど少なくなっているのだ。

アップルによると、iPhone 7を製造する際に排出される二酸化炭素の量は、iPhone 6に比べて60%減った。iPhone 8はアルミニウムパーツが減ったことから、iPhone 7に比べてさらに30%の二酸化炭素排出量が削減されたのだ。

世界規模でビジネスを進めるアップルが、かねてより積極的に取り組んでいるのが気候変動への対処であり、そのことこそがイノベーションだと強調もしている。

「再生可能エネルギー100%」を達成

そんなアップルは、米国時間4月9日、世界43カ国にまたがる全ての拠点において再生可能エネルギー100%での運営の達成を発表した。また新たに9社を加え、合計で23のサプライヤーがアップル向けの製造プロセスを100%再生可能エネルギーに転換したという。

世界で最もブランド価値が高く、また誰もが知っているiPhoneという製品を持つ企業が、地球環境問題、気候変動の問題に対して最も積極的に取り組む姿勢を強調することは、米国において大きな意味を持つことになる。

この発表について、アップル環境・政策・ソーシャルイニシアティブ担当バイスプレジデントを務めるリサ・ジャクソン氏に話を聞いた。


リサ・ジャクソン氏(写真:アップル)

アップルという巨大企業を運営する上では、いうまでもなく電力が必須だ。オフィスや直営店に加えて、データセンターでも膨大な電力を消費する。アップルは2011年から取り組みを始め、2014年に米国や中国で100%を達成し、これまでのところ「グローバルでは96%」と進捗状況を伝えてきた。

今回の100%達成発表についてリサ・ジャクソン氏は、「非常に喜ばしいマイルストーン」と語った。その理由は、彼女のキャリアにも関係している。

ジャクソン氏は化学エンジニアの学位を修め、米国環境保護庁でキャリアをスタートした女性科学者。2008年から2013年までのオバマ政権時代には、同庁の長官として米国の環境政策、気候変動の問題に対処する対策を主導してきた人物である。

その後2013年にアップルに転じて現職を務めるが、そのことについて「夢の仕事だ」と表現する。

これまで米国1カ国に関する取り組みを進めてきたが、アップルは世界中に拠点があり、世界中の人々が製品を使っている。より大きなスケール、まさに地球規模で気候変動に取り組む舞台に立ったからだ。

アップルに入社する際、ティム・クックCEOからはこんな言葉をかけられたという。「アップルの製品を使い人々が暮らすことと、地球を守ることは同義であるべきだ」。

「クローズドループ・サプライチェーン」を目指す

アップルは環境対策として、再生可能エネルギーへの転換や有害物質を使わないこと、またカーボンフットプリントの削減に取り組んでいる。またiPhoneなどのアップル製品の回収と資源のリサイクルを進めており、将来、リサイクル資源100%で新たな製品を作りだすことを本当に目指している。このことを「クローズドループ・サプライチェーン」と呼んでいる。

こうした数々の取り組みの中で、今回の再生可能エネルギーへの転換の完了は、一つのプロジェクトの終わりでもあり、また始まりとなった。

今回の発表で、米国、中国、英国、インド、そして日本を含むあらゆる国でのオペレーションが、100%再生可能エネルギーで賄われるようになった。その方法も、排出権取引のように消費した分の電力を再生可能エネルギーを購入するのではない。

「アップルの取り組み方は、施設がある同じグリッド内にクリーンエネルギーの電力開発を行う形で、消費する電力を再生可能エネルギーに転換しています。電力開発には、太陽光や風力など、複数の方法で取り組んでいます。またこうした再生可能エネルギーをその地域のコミュニティで活用しやすくするオプションを提供するプロジェクトを、世界で展開しています」

そのため、米国国内だけで世界中のクリーンエネルギー使用分を購入すれば良いわけではなく、各国でのクリーンエネルギー電力開発の取り組みを進めていかなければならないことを意味している。

2017年に供用を開始した新しい本社、「Apple Park」はその象徴的な存在。巨大な円盤状の建物の屋根には17MWのソーラー発電設備を備えており、加えて4MWのバイオガス燃料電池と蓄電設備が備わっている。施設内での使用量が低い場合は、周辺地域のグリッドに電力供給をする。

また米国内では、データセンターが設置されるアイオワ州、オレゴン州、ネバダ州で、200〜320MWのクリーンエネルギープロジェクトが進行中だ。

中国では6省にわたる485MW以上の発電量を誇る風力と太陽光の発電プロジェクトが行われたほか、デンマークにある2つの新しいデータセンターも、初日から100%再生可能エネルギーで稼働している。

日本でのクリーンエネルギーの確保は難しかった

世界各国で再生可能エネルギーへの転換が同時進行する中、日本でのクリーンエネルギーの確保は難しかったという。国土が狭く、米国や中国のような巨大な発電所の設置余地が乏しいためだ。そこで同じように国土が狭いシンガポールと同様の手法を採用した。


国土の狭いシンガポールや日本では、ビルの屋上をソーラーパネルで敷き詰めて再生可能エネルギーを確保するアイディアが用いられている。写真はシンガポールでの事例(写真:アップル)

昨2017年、「第二電力」とのパートナーシップによる300ものビルの屋上への太陽光発電パネル設置によって、年間18000MWhのクリーンエネルギー電力を確保。これによって、日本での企業活動の100%再生可能エネルギー転換を実現できた。

アップルの次なるゴールは、iPhoneをはじめとする製品を100%再生可能エネルギーで製造することだ。これによって、アップルのカーボンフットプリントの7割以上がなくなる計算となる。ジャクソン氏は新たに9つのサプライヤーがこの輪に加わったと発表した。

昨今はiPhoneに使用するレザーケースが充実しているが、その皮革製品を供給するECCO Leatherも、再生可能エネルギーで製造される。またiPhone XのFace IDやAnimojiなどを実現するためのセンサーを製造しており、アップルが米国の先端製造業向けファンドで投資したFinisarもまた、クリーンエネルギーでの製造を実現している。


日本のサプライヤー、イビデンの水上太陽光発電。アップル向けの製造に使われる以上の電力を発電している(写真:アップル)

日本のサプライヤーでは、チップのパッケージなどの製造を手がけるイビデンが、アップル向けの製造に関して100%再生可能エネルギーへの転換を実現している。水上太陽光発電などを活用し、12MWのエネルギーを作り出している。

今回のリリースでは新たに、プリント基板を絶縁しながら保護するソルダーマスクのサプライヤー、太陽インキ製造も、アップル向けの製造に関して100%再生可能エネルギーへの転換を実現した。

ジャクソン氏は「埼玉県に1MWのソーラー発電施設を設置しましたが、アップルや他のサプライヤーの取り組みから刺激を受けてこの取り組みを始めている。世界中のサプライヤーに、この輪が広がって行くことを期待しています」と述べた。

未来の地球は若者のもの

アップルが毎年4月22日のアースデーを前に、気候変動への取り組みに関連する発表を行ったことには、米国内における政治的な意味合いもある。

アップルは先週、米国環境保護庁に対して、文書を送付している。オバマ政権時代に策定された二酸化炭素排出削減などを定めた規制、クリーンパワープラン(CPP)を、現在のトランプ政権は差し戻そうとしており、アップルはこれに反対する意見を表明したのだ。


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現ドナルド・トランプ政権が気候変動への取り組みを交代させようとしている背景には、原油や天然ガス、石炭などの産業振興による雇用の回復と、輸出競争力の向上による貿易赤字の縮小を狙っている背景がある。現在米国は中国との間で激しい関税の応酬を繰り広げているが、これも貿易収支の改善を目指すものだ。

しかしジャクソン氏はむしろ逆効果だと指摘する。クリーンエネルギーに関する規制の緩和は、再生可能エネルギー投資をしている企業、アップルやより小規模な企業にとって、先行き不安となる。またこの分野における米国の国際競争力を削ぐという。

強調したのは、「未来の地球は若者のためにある」という点だった。

「気候変動の影響を最小限に食い止めて、環境を残して行くことが重要です。イノベーションが政策、技術などのあらゆるレベルで共有され、世界中のより多くの若者がクリーンエネルギーに関して学び、それを基盤とした未来に育っていってほしいと願っています」