エリック・バーカー(著)、橘玲(監修、翻訳)、竹中てる実(翻訳)『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)

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成功のためには夢を強く思い描かなければいけない。「自己啓発」の世界ではよくそう言われる。だがこれは科学的には大間違いだ。世の中のありとあらゆる「成功ルール」を検証した全米ベストセラー『残酷すぎる成功法則』(飛鳥新社)によると、「ポジティブシンキングだけでは、夢は夢で終わってしまう。楽観主義を『2つの言葉』で補う必要がある」という。その方法とは――。

※本稿は、エリック・バーカー・著、橘玲・監訳『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

■人間の脳は、幻想と現実を見分けるのが苦手

夢を現実にするときに効果を発揮するシステムはどんなものだろう? 諦めるべきもの、最後までやり通すべきものをどう見きわめればいいだろう?

一人の研究者が、びっくりするほど簡単なシステムをあみ出した。それはウープ(WOOP)と呼ばれるものだ。あとで詳しく触れるので、その研究者の出発点から話をしていこう。

ニューヨーク大学心理学教授のガブリエル・エッティンゲンは、欲しいものを夢に思い描くだけで、実現の可能性が高まるといった類の説に猜疑的だった。

そこで、同氏は研究を重ね、自分の考えが正しいことを証明した。実際、彼女は十二分に正しかった。夢見ることは、あなたの望みを実現しないばかりか、欲しいものを手に入れるチャンスをも遠ざけてしまう。いやいや、「ザ・シークレット」(欲しいものについて考え続ければ手に入れられるとする「引き寄せの法則」の知識と実践を意味する言葉)は効かないのだ。

人間の脳は、幻想と現実を見分けるのが得意でないことが、明らかにされている(だから映画はスリリングなのだ)。何かを夢見ると、脳の灰白質はすでに望みのものを手に入れたと勘違いしてしまうので、自分を奮い立たせ、目標を成し遂げるのに必要な資源を集結させなくなってしまう。そのかわりにリラックスしてしまうのだ。

するとあなたはやるべきことを減らし、達成すべきことも減らし、結局夢は夢で終わってしまう。残酷な話だがポジティブシンキングそれ自体は、効果を発揮しないのだ。

■ポジティブシンキングした人ほどダイエットに失敗

あなたは、ダイエット後のほっそりした水着姿を思い描いたりするだろうか? ある実験で、そんな風にポジティブに思い描いた女性たちは、ネガティブなイメージを浮かべた女性たちに比べて、体重の減少分が10キロほど少なかったという。完璧に理想通りの仕事に就くことを夢見ているなら、出願書類を出す数が自然と減り、その結果、内定をもらえる数も減ることになる。成績でたくさんAをもらうことをイメージしている者は、勉強時間が減り、成績が落ちることになる。

しかし、夢見ることがマイナスの影響を及ぼすのなら、なぜ人びとはそれをするのか? お酒に酔うのと同じ効果が、精神的に得られるからだ。飲んでいるときは気分が良いが、さめた後が問題だ。エッティンゲンの調査でも同じことが裏づけられている。ポジティブに夢見ているときは良い気分でいられる。しかし夢からさめた後は、抑うつ的になる。つまり、夢に描くことは、目標の達成前にご褒美としてもらってしまうので、肝心な目標達成に必要な活力を弱らせる。ただ夢見るばかりでは、その実現が阻害されることになる。

■楽観主義の欠点を補う「2つの魔法の言葉」

ポジティブな自分への語りかけと楽観主義は、たしかに諦めずに目標を追求できるように助けてくれるが、それ自体が目標達成を保証してくれるわけではない。もちろん、夢見ることが本質的に悪いわけではない。が、第一歩にすぎないのだ。その次に、せっかくの夢に水を差すおそろしい現実と、どこまでもつきまとう障害に立ち向かわなければならない。

だから、目標を夢見た後にこう考えよう。

「夢を実現する道のりに立ちはだかるものは何か? それを克服するにはどうすればいい?」

この過程は、しゃれた心理学用語で言うと「実行意図」であり、平たく言えば「計画」である。

ニューヨーク大学の心理学者、ピーター・ゴルヴィツァーとヴェロニカ・ブランドスタッターの研究によれば、たとえば、目標を達成するための行動をいつ、どこで、どのように取るかなど、ざっくりと計画しているだけで、学生たちが目標を実現できる確率が40%上がったという。

2つの魔法の言葉は、「もしも(If)」と「そのときは(Then)」である。予見できるどんな障害に対しても、「もしXが起きたら、Yをすることで対処しよう」と考えておくだけで、結果は大違いだ。この2つの言葉がどれほど強力かというと、とても深刻な行動上の問題を持つ人びとにも効果を発揮する。

たとえば離脱症状がある薬物中毒者の場合、「IF−THEN」の実行意図を取りいれずに、何人が履歴書を書きあげられたかというと、結果はゼロだった。ところが、事前にこの魔法の言葉を使用していたところ、じつに80%の人が仕事に応募できたのだ。

■起こりうる最悪の事態は何か?

どうしてこれほど効果覿面なのか? それは、無意識の脳を関与させているからだ。ただ問題が起こるのを待つかわりに、いざというとき脳が自動的に実行できる習慣的反応をあらかじめ用意しておくのである。

この手法のルーツは、古代哲学から近代の精鋭軍隊までいたるところに見られる。ストア哲学者たちは「前もって災いについて熟考する」と呼ばれる概念を用いていた。それは、「起こりうる最悪の事態は何か?」と自分に問いかけることだ。

つまり、あえておそろしい可能性について考え、それに対する備えがあるかどうかを確かめるように説いた。また米陸軍特殊部隊は、あらゆる任務の前に時間を取り、「IF−THEN」の一種を実行している。

作家のダニエル・コイルによると、「彼らは午前中をまるまる費やし、任務中に考えられるありとあらゆるミスや災難を想定する。起こりうるすべての混乱が徹底的に調べられ、それに対する適切な措置が確認される。「もしヘリコプターを不時着させたらXを実行する、もし間違った地点で降ろされたらYを実行する、敵の数が上回っていたらZを実行する」といった具合だ。

■気鋭の心理学者が編み出した最新の「夢実現法」

エッティンゲンは、これと同じシステムを、私たちが実践しやすいシンプルな形にまとめ、「WOOP」と名づけた(正式な用語では「心理対比」というが、ここでは「WOOP」と呼びたい)。WOOPとは、願い(Wish)、成果(Outcome)、障害(Obstacle)、計画(Plan)の頭文字を取ったもので、仕事や人間関係、運動、減量など、ありとあらゆる目標に適用できる法則である。

まず、自分の願いや夢をイメージする(「すてきな仕事に就きたい」)。次に、願いに関して自分が望む成果を具体的に思い描く(「グーグル社で事業部長として働く」)。それから現実を直視し、目標達成への具体的な障害について考える(「同社の面接を受ける方法がわからない」)。障害に対処する計画を考える(「グーグル社で働いていて、人事部に連絡してくれる知人をリンクトインでチェックする」)。

WOOPはとても簡単だ。そして素晴らしいのは、ただ夢に描くことと違って、理想を実現する活力が奪われないことだ。しかもWOOPにはさらなる利点が1つあり、それは私たちがあることを最後までやり遂げるか、見切りをつけるかを判断するうえで決め手となる。皮肉にもこの利点は、WOOPが誰にでも有効なわけではなく、また、効き目があるかどうかはランダムに決まるわけではないことを意味する。

エッティンゲンの研究により、「心理対比」は、頑張れば目標を達成できるときにやる気を後押ししてくれるが、目標の実現可能性が低い場合には効果がないことが明らかになった。すなわち、WOOPは、目標が実現する可能性を測る個人的なリトマス試験紙にもなるものだ。あなたの願望が「グーグル社で働く条件は満たしているが、次にどうすればいいのかわからない」といった妥当なものなら、WOOPはそれを実現するプランと活力を与えてくれる。しかし、願望が現実からかけ離れている場合(木曜までにオーストラリアの皇帝になりたい)など、WOOPはうまく機能せず、夢が妥当でないことを教えてくれる。

■「夫婦げんか」を未然に防ぐ確実な方法

たとえば、理想のパートナーにめぐりあえない人は、「私たちはソウルメイトなの!」と言うかわりに、一歩離れて考えよう。私の願いは?

「完璧な結婚」? ではその具体的成果は?
「争いのない幸せな家庭」? 起こりうる障害はなんだろう。
「何を買うかでいつもけんかする」? それに対処するプランがあればいい。 

もしこのようにWOOPを試して、愛する人とイケアに買い物に行く元気が湧いてきたら、あなた方夫婦はうまくいっている。逆に、配偶者と問題を解決する意欲がますます失せてしまったら、残念ではあるが、WOOPによって結婚生活の現実を知り、この先何年かの歳月を無駄にせずにすむかもしれない。WOOPは、目標が現実的かどうか、そしてそろそろ諦めるときか、それとも耐えるべきかを教えてくれるだけではない。あなたが達成不可能な願望から解放されるように、また、夢を断念しても後悔が少なく済むように手助けしてくれるだろう。

WOOPは、グリット(やり抜く力)を必要とするときを教えてくれて、頑張り続ける意欲を奮い起こさせてくれる。加えて、断念すべきものも教えてくれ、その実行にあまり痛みをともなわないようにしてくれる。最適理論に詳しい数学者がはたして幸福な結婚生活を送っているかどうかはわからないが、WOOPは、やり遂げるべきか、諦めるべきかに関して答えを見つけるのに最適だ。

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エリック・バーカー
大人気ブログ“Barking Up The Wrong Tree”の執筆者。脚本家としてウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、20世紀フォックスなどハリウッドの映画会社の作品に関わった経歴をもち、『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』は、初の書き下ろしにして全米ベストセラーに。

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(エリック・バーカー 写真=iStock.com)