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4月に入って新入社員を迎える企業では、社会保険等の被保険者資格取得届へのマイナンバー記載のため、新入社員からマイナンバーを収集している事業者も多いことと思われます。

事業者にとっては、相変わらず負担のかかる作業ばかりが求められる感のあるマイナンバー制度ですが、本来行政側が情報連携などでマイナンバーを活用することで、事業者や個人にとって利便性がある制度となるはずでした。

マイナンバー制度による利便性の向上という点では、まだ道半ばとはいえますが、今回は事業者や個人にとって、マイナンバー制度の利便性という観点から、日本年金機構の情報連携が再延期となったことと、日本経済団体連合会(以下、経団連)の発表した「国民本位のマイナンバー制度への変革を求める」という提言について、みていきましょう。

○日本年金機構 情報連携 再延期

3月20日の日本経済新聞に「マイナンバー連携を再延期 年金機構、委託体制見直し」 との記事が掲載されました。

ことの発端は、1月19日に日本年金機構が発表した「平成29年分公的年金等の源泉徴収票の表示誤りと再送付について」です。(図1)は、同ホームページに添付されている文書の内容の一部です。

この1月時点では、報道などで大きく取り上げられることもなかったのですが、日本年金機構が入力などを委託していた事業者が、無断で中国の業者に再委託していたことが判明し、3月20日の記事になっています。日本経済新聞の記事では、「同社が入力した528万人の申告書データを点検した結果、31万8千人で入力の誤りがあったもようだと公表。このうち源泉徴収額に影響があった人数を調査している。」とあります。控除対象配偶者の氏名の間違いだけでなく、実際には控除対象配偶者の入力漏れなどもあったようで、誤った源泉徴収票が作成・送付されただけでなく、2月支給の年金額にも影響があったようです。

これについて、日本年金機構は2月13日、「平成30年2月の老齢年金定時支払における源泉徴収税額について」 を公表し、「日本年金機構においては、所得税が課税される年金(老齢年金)について、お客様からご提出いただいた「扶養親族等申告書」の申告内容を基に、所得税を源泉徴収しています。この申告書の申告内容が、一部のお客様について、年金の平成30年2月支払分の源泉徴収税額に正しく反映されておりません。」とし、「対象となるお客様」として、「委託業者による入力誤り等によって正しく控除できなかった方(機構において委託業者の入力内容の全件の点検・精査中であり、今後申告書の内容を正確に反映します。)」も挙げています。

この点について、加藤厚生労働大臣は3月20日の記者会見で、「委託業者における入力漏れ、あるいは入力誤りによって、2月の支払時に正しい源泉徴収額とすること、それに基づく年給支給がなされていなかったという事例が生じております。日本年金機構による業務委託における一連の事務処理が適切ではなく、2月支払いにおいて本来支払うべき年金額が正しく支払われなかったことは誠に遺憾でございます。」 と語っています。

今回日本年金機構が起こした事件は、単なる氏名等の入力ミスではなく、年金支給にも影響する重大な事件だったわけです。

そのため、3月から実施予定であった情報連携が延期されることになりました。

加藤大臣は、これについて「昨年、日本年金機構におけるマイナンバーの情報連携を可能とする政令の閣議決定の際に、当時で言えば、「来年1月から稼働テストを行い、3月から順次実施していくことを目標に進めていきたい。」と申し上げてきたところでありますけれども、日本年金機構のマイナンバー情報連携の開始時期については、情報セキュリティ対策、あるは地方公共団体とのテストの状況を関係機関で確認し、最終的には内閣官房において判断するということでございますので、現在内閣官房において検討がなされていると承知しております。」としています。

今回の事件では、個人情報などの漏洩に至ったわけではなく、委託業者の管理に主な問題があり、情報連携を延期する理由としては希薄な感じがします。ただし、一方で「平成30年2月の老齢年金定時支払における源泉徴収税額について」に見られるように、扶養親族等申告書の提出から、入力・源泉徴収税額の計算というシステム運用のプロセスに問題があるのではないか、という疑念は抱かざるを得ません。

何れにしても、日本年金機構の情報連携が延期されたことにより、今後は従業員など被保険者の住所変更等の届出は不要になるとされてきたことも、当面実現されないことになってしまいました。現状で、日本年金機構の情報連携開始時期については、明らかになっていません。事業者が関わるマイナンバー関連の手続きは、「税」と「社会保障」の分野になりますが、「社会保障」分野でメインとなる日本年金機構が、このようにいつまでも情報連携に加われない事態が続くと、事業者にとって「利便性の向上」は望めません。

加藤大臣の会見では、「日本年金機構のマイナンバー情報連携の開始時期については、情報セキュリティ対策、あるは地方公共団体とのテストの状況を関係機関で確認し、最終的には内閣官房において判断する」としています。判断に至るまでの作業を、速やかに行って、情報連携が事業者、個人に利便性を提供できるようにしてほしいと思います。

○経団連 国民本位のマイナンバー制度への変革を求める

2月20日、事業者や個人にとって利便性が乏しい現状のマイナンバー制度に対して、経団連は「国民本位のマイナンバー制度への変革を求める」という提言を公表しました。

(図2)は、その概要をまとめたものです。

経団連の問題意識は、「マイナンバー制度の現状認識」に記載されている「個人番号の利用範囲の限定や特定個人情報の規制(収集・保管・提供の制限等)により、制度の潜在能力の発揮は不十分」という点に現れています。

「国民本位のマイナンバー制度への変革を求める」本文 の「特定個人情報に関する規制の見直し」の項では、「利用目的の変更」や「グループ内における個人番号の取り扱い」、「家族からの個人番号の未取得時における経緯の記録・保存要件の緩和」などで、事業者の事務負担が大きくなっていることから、規制の見直しを求めています。これらは、マイナンバーを厳重管理すべき特定個人情報として位置付けたために、細かい規制がかけられている点について、規制緩和を求めたものになっています。

そして、「特定個人情報からの個人番号の除外」では、マイナンバーの本質的な位置付けの変更にまで踏み込んでいます。まず、「特定個人情報に関する収集・提供・保管等の制限や罰則の強化は、特定個人情報を取り扱う事業者に負担を生じさせているほか、国民の個人番号に対する不安の増加を招いている。仮に個人番号が流出した場合も、情報提供ネットワークシステムでは機関別の符号を利用して情報を照会・提供するため、個人番号をキーに様々な情報が流出するとは考えにくい。」としています。さらに、電子行政の先進国家のなかにはマイナンバーに相当する番号を公知のものとしている国もあるとし、「個人番号を特定個人情報から除外して個人情報と同等の位置付けとすべきである。」としています。

マイナンバーは、特定個人情報保護委員会(当初の名称)が提示した「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」により、非常に厳格な管理が事業者に求められてきました。ただし、制度の仕組みから、マイナンバーのみが漏れても、経団連の言う通り、マイナンバーをキーに様々な情報が流出することはないのではないか、ということは、当初から様々な場面で疑問として投げかけられていました。ここは、非常に大事な論点です。

「個人番号を特定個人情報から除外して個人情報と同等の位置付け」になれば、「国民本位のマイナンバー制度への変革を求める」で、「必要な施策」のなかにある「個人番号の利用範囲の拡大」における民間事業でのマイナンバーの利用や、「情報提供ネットワークシステムの拡充」における民間へのネットワークの開放といった提言の実現可能性が大きくなってきます。そして、これらが実現すると、事業者にとっては、マイナンバーに対する厳格な管理という負担が大きく軽減されるだけでなく、事業にマイナンバーや情報提供ネットワークを活用することで利便性が大きく向上していくことになります。

前項では、日本年金機構の情報連携が延期されることによる、「利便性の向上」の遅れを取り上げましたが、マイナンバー制度の利便性が、こうしたマイナンバーや法人番号を活用した行政手続における添付書類や提出書類の廃止といったレベルに留まる限りは、あくまで行政本位の電子化・ネットワーク化といった行政の効率化の産物にすぎません。もちろん、こうした予定されている「利便性の向上」も、遅れを取り戻すように取り組んで欲しいと思います。

ただし、マイナンバー制度を本当にこれからの社会的な基盤として成長させるためには、民間も巻き込んだ電子化・ネットワーク化で、マイナンバーや法人番号の活用が欠かせないと考えます。そうした視点に立つと、経団連の「個人番号を特定個人情報から除外して個人情報と同等の位置付けとすべきである。」との提言は、非常に大きな意味をもつ提言です。

この経団連の提言を受けて、政府においては、マイナンバーの位置付けを再考することも含めて、マイナンバー制度を本当に「社会的な基盤」とするための取り組みを進めて欲しいと思います。

中尾 健一(なかおけんいち)

アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。