ウェブ上では昔の文字の読み方を学べるように工夫した。例えば「ま(満)」であれば「まこと」「はかま」などの表記例や使われ方の解説を学習できる。加納助教は「参加者は防災意識が高い方というよりも、古い文字の読みかたを勉強したい人の方が多い印象だ」と振り返る。

 史料には被災地域と死者数などの数値情報だけのものや、けがを克明に記した生々しいものもある。参加者は翻刻を通して昔の被害状況や復興、当時の災害の捉え方などを知ることになる。災害を自分の身に置き換えて考えるようになるため、危機啓発とは違った防災意識の喚起につながるかもしれない。

ハチの国勢調査、スマホで撮影し生息分布を推定
 東北大学と山形大学の研究チームは13年から「花まるマルハナバチ国勢調査」を進めている。市民がスマートフォンでマルハナバチを撮って画像を送ると、生物種や位置データを集計して全国の生息分布を推定する。研究者が個人で調査する場合は特定の高原や山など、地域を絞って調査することが多かった。市民の協力で日本全国を調査できた。

 東北大の大野ゆかり研究員は「歴史の長いデータベース『地球規模生物多様性情報機構日本ノード』(JBIF)の約2倍のデータが集まった。17年には日本に生息するマルハナバチ全種のデータがそろった」と胸を張る。

 海外では野生ハチ類は森林面積が大きいほど生息に適しているという研究が多かったが、日本はもともと森林面積が大きいため、里山などの中程度の森林面積の環境がトラマルハナバチなどに適しているとわかった。

 市民の力で生き物の増減動向を把握できれば、地球温暖化などの環境変化に身近な生態系が影響を受けているかわかる。草木や農作物の花粉を運ぶ昆虫への関心も高まるかもしれない。河田雅圭東北大教授は「市民参加調査はマルハナバチに限らない。地域の観光や名産品を支える資源として生態系に目を向けるきっかけになる」と期待する。

 筑波大学の白川英樹名誉教授は小中高生への理科教室への応用を期待する。先生から科学を教わるだけでなく、日常的に研究に参加できる環境があれば生徒の意欲を引き出せる。白川名誉教授は「工夫しだいで科学に触れる機会は広げられる」という。市民参加によって研究者だけで進める以上の効果を狙えるようになりつつある。

(文=小寺貴之)