フェイスブックにかつてない逆風が吹いている。同社の業績は絶好超だが、その背後には、利用者の情報を極限まで活用するプラットフォーム企業特有のビジネスモデルがある。社会はこうした際限のないデータ利用に対して徐々に嫌悪感を示し始めた。

 一方、水面下ではブロックチェーンに代表される分散化技術が進展しており、フェイスブックのようなデータを集中管理するプラットフォーム企業の衰退を指摘する声も出始めている。

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利用者が少ない地域で稼ぐ「いびつな」収益構造

 フェイスブックの2017年12月期の決算は極めて良好だった。売上高は前年比で47%増の406億5300万ドル(約4兆3000億円)、当期利益も56%増の159億3400万ドル(約1兆7000億円)と大幅な増収増益を実現している。スマホなどモバイル機器向けの広告が大きく伸びたことが売上高と利益の増大につながった。

 だが、足元ではちょっとした異変が発生している。フェイスブックにおける北米の利用者数が初めて減少に転じたのである。

 フェイスブックの収益構造は実はいびつな形になっている。サイト全体の1日あたりの利用者数は約14億人だが、北米の利用者数は1億8400万人と全体の13%しかいない。欧州の利用者も2億8000万人程度に過ぎず、最も利用者数が多いのはアジア太平洋地域(約5億人)とその他の地域(約4億4000万人)である。

 ところが同社の収益構造はこれとは正反対になっており、売上高の約半分を北米市場で、25%を欧州市場で稼ぎ出している。アジア太平洋地域やその他地域における収益への貢献はごくわずかだ。極論を言えば、北米と欧州以外ではタダでサイトを開放し、利用者数としては最も少ない北米と欧州からお金を取るという図式である。

 同社の収益源は広告なので、利用者から直接お金を取っているわけではない。利用者のニーズにマッチした満足度の高い広告が配信されているなら、何の問題もないだろう。

 だが、このところフェイスブックをはじめとするSNSの利用者はそうではないと感じるようになってきた。同社が収集した個人情報を過度に利用し、事実上、利用者から料金を徴収しているのではないかとの認識が高まっているのだ。同社に対するこうした不満が一気に噴出したのが、データ不正流用問題ということになるわけだが、北米の利用者が初めて減少に転じたというのは、一部利用者のフェイスブック離れが始まった兆候と見ることもできる。

賞賛から一転して追及へ

 フェイスブックのデータ不正流用疑惑は、英国のデータ分析会社ケンブリッジ・アナリティカが、フェイスブックのデータにアクセスする自己診断アプリを使った27万人とその友人5000万人の個人情報を本人の許可なく入手し、そのデータが2016年の米大統領選でトランプ陣営の選挙活動に使われたというものである(その後、フェイスブックは8700万人と訂正)。

 このニュースが報じられて以降、米国ではフェイスブックに対する批判が高まっており、創業者でCEO(最高経営責任者)を務めるマーク・ザッカーバーグ氏が議会証言を求められる結果となった。

 企業トップの議会証言は、俗にGrill(火で焼く)と表現されることもあり、場合によってかなり厳しい口調で責め立てられる。また証言の内容次第では、一気に政治的な動きに火がつく可能性も否定できない。IT業界の寵児として世界から賞賛を浴び続けてきたザッカーバーグ氏にとっては、大きな痛手といってよいだろう。

 同社では、北米における利用者数の減少について、フェイクニュース対策などから一部のコンテンツを制限した結果であり、減少は一時的なものと説明している。確かに同社は、フェイクニュース批判などを受けて、コンテンツの管理を強化しており、こうした過程で利用者の増減が発生する可能性はあるだろう。

 だが、初の利用者数の減少が、同社の根本的な立ち位置に関係したものであれば、一時的な動きとはいえなくなる。この現象が何によるもなのか、また今後もそうした傾向が続くのかついては、次の四半期決算を見極める必要があるが、市場の警戒感は確実に高まっている。

 同社の株価は3月中旬以降、180ドル台から150ドル台まで急落し10兆円近くの時価総額が吹き飛んだ。SNSの株価は、将来の利用者増を織り込んで形成されているので、仮に利用者数の増加が横ばいになっても、株価への影響は大きい。当分の間、株式市場では厳しい展開が続くことになるだろう。

ザッカーバーグ氏の主張は「正論」だが・・・

 個人情報を極限まで活用するフェイスブックの経営方針に対して、アップルのティム・クックCEOは、「プライバシーは人権であり、市民の自由だ」と発言。同社の過度なデータ利用について厳しく批判した。アップルは取得した利用者情報の保護する姿勢を表明しており、実際、FBI(米連邦捜査局)からの情報開示要請を拒否したことがある。

 アップルはもともとハードメーカーなので、SNS企業とはビジネスモデルが異なるが、IT業界の主力企業が公然とフェイスブックを批判したことは少々驚きを持って受け止められた。これに対してザッカーバーグ氏は「広告事業があるからこそ、多くの人がネットを利用できる」とクック氏に対して真っ向から反論している。

 確かにザッカーバーグ氏の持論は「正論」なのかもしれない。

 現実問題として広告システムがなければネット社会は成立しないし、今回の不正流用事件も、あくまでデータ取扱者の問題である。フェイスブックのビジネスモデルそのものの話と不正流用を短絡的に結び付けるべきではないだろう。

 しかしながら、こうした理路整然とした「正論」は時に大きな逆風をもたらすことがある。フェイスブックは利用者に詳細な情報ポリシーを提示し、利用者はそれを受け入れた上でフェイスブックを使っている。確かにその通りである。

 だが、すべてを読むのに時間と手間がかかるような文面を1クリックや1タップで承諾させるというのが、本当に承諾と言えるのか、少なくとも多くの利用者を感情的な面で納得させるのは難しくなっている。

地殻変動はすでに始まっている

 利用者の潜在的な不満は、時に大きな変化を引き起こす原動力となる。こうした状況に破壊的イノベーションが加わると、IT業界におけるパワーシフトが一気に進む可能性もある。

 IT業界の一部では、フェイスブックやグーグルといったプラットフォーム企業の存在を脅かす可能性を持つ新しい技術が育ち始めている。それはブロックチェーンに代表される分散処理技術である。ブロックチェーンはビットコインなどの仮想通貨に利用されたことで一気に注目を浴びたが、この技術はあらゆる分野に応用が可能だ。

 例えば自身の個人情報を分散台帳で暗号化して管理する仕組みが出来上がれば、個人情報は自分自身の手で安全に管理すること可能となる。これまでフェイスブックのような企業が独占的に管理してきた個人情報を自身の手に奪い返すことができるのだ。

 SNSというサービスはなくならないだろうが、顧客の個人情報を保有・管理せず、都度、個人からデータの提供を受ける仕組みを持ったSNSが登場してきた場合、多くの人が新しいSNSに乗り換える可能性は否定できない。

 ニュースなどのコンテンツも同様である。これまでは、自身ではコンテンツを作らないプラットフォーム企業が外部のコンテンツをいわばタダ乗りすることで高い広告収益を得てきた。だが情報はそれを作成した本人のものであるという考え方が常識となれば、こうしたビジネスモデルも変化する。

 自身が管理する個人情報をもとにAIが好みのコンテンツを探し出し、個人のポリシーに合ったコンテンツや広告のみを表示するブラウザが登場した場合、既存のニュース・プラットフォーム企業は一気に吹き飛んでしまうだろう。

 今回のフェイスブックの不正流用疑惑は、長いスパンで考えた場合、データ集中型モデルの終わりの始まりとなるかもしれない。

筆者:加谷 珪一