白石伸生氏はソーシャルレンディングの可能性について雄弁に語っていた(2016年10月、写真:みんなのクレジット)

貸手と借り手をネット上で直接結び付けるソーシャルレンディングの運営事業者をめぐり、大きな混乱が起きている。

舞台は、中堅事業者のみんなのクレジット(みんクレ、3月末にスカイキャピタルに社名変更)。年率利回り最大14.5%をうたい、計約45億円の資金を集めた。が、貸付先がグループ会社に集中していたり、あるファンドの償還資金に別のファンドの出資金が充当されていたりしていた事態が判明、2017年3月に関東財務局から行政処分を受けた。その後は新規ファンドの募集を取りやめている。

昨年7月以降は投資家への償還が滞り始めた。未償還の資金は31億円超に上る。そんな中、今年2月23日に同社は、1億円弱で債権回収会社に債権を譲渡すると投資家にメールで発表。償還率はわずか3%にとどまることになった。

貸付先が突然の「調整お見舞金」

多くの投資家が落胆したのもつかの間、事態は驚くべき展開を見せる。


みんクレの貸付先で昨年5月まで同社の100%親会社だったテイクオーバーホールディングスが3月14日、みんクレの投資家に対し「調整お見舞金」を支給すると発表したのだ。テイク社は、みんクレの創業者で昨年4月までみんクレの代表取締役を務めていた白石伸生氏が社長を務めており、人工知能を使った不動産開発などを手掛ける。

テイク社の説明はこうだ。同社は昨夏以降、みんクレと調停和解を目指して協議してきた。が、意に反してみんクレが債権を債権回収会社に売却してしまった。みんクレ投資家には間接的に迷惑をかけたため、自社株主とスポンサー主導による特別目的会社(SPC)を設立し、みんクレ投資家に投資損失相当額を支給することにしたという。


だが、ここにはカラクリがある。テイク社は投資家に対し入力フォーム(受け付けは4月10日まで)を開設しているが、同社に訴訟を提起していないことが申請の条件となる。訴訟とは、投資家22人によって昨年9月に提起された約1億円の損害賠償請求を指しているとみられる。

同訴訟では、みんクレのほか、貸付先であるテイク社なども被告になっている。投資家の代理人を務める東京フィールド法律事務所の鈴木英司弁護士は「(調整お見舞金の支払いは)単なる時間稼ぎ。事業の内容などを見ると、テイク社に支払い能力があるとは到底思えない」と指摘する。

仮想通貨での支払いもありうる

カラクリはもう一つある。入力フォーム内の同意確認書には支払額や原資調達時期は予測がつきがたい、支払い方法は仮想通貨もありうる、これらに異議・不服はいっさい言えない、といった前提条件があるのだ。

SPCを設立するという株主やスポンサーの詳細について本誌がテイク社に問い合わせたところ、「弊社の応援企業、取引先」(社長室)と回答するのみ。現在白石氏は「体調不良のために定期的なオフィスへの出社がかなわない状況」(同)だという。

消えた30億円は行方知れずのままだ。ただはっきりしているのは、みんクレとテイク社および他の二つの貸付先がほぼ“一心同体”ということだ。

現在みんクレの代表取締役を務める阿藤豊氏は、2018年2月までテイク社の取締役を務めていた。阿藤氏はらくらくプラスでも取締役を問題発覚前から務めている。ブルーアートの代表取締役を務める澤田逸朗氏は、昨年4月に本誌が取材した時点でみんクレの投資運用部部長だった。


信用調査会社・東京商工リサーチによれば、白石氏は「(テイク社の経営陣は)前職時代の部下がほとんど」と語っていたという。訴訟手続きの中では、みんクレによるグループ内の貸し付けが約98%に上ることがわかっている。ある同業他社の幹部は「最初からグループ内でたくらまれており、返す気がなかったのではないか」と見る。

貸付先がわかりにくい

そもそもソーシャルレンディングは投資家から見て、貸付先がわかりにくい。事業者は仕組み上、投資家から出資を募る第二種金融商品取引業者と、資金需要者に貸し付ける貸金業者の二つの顔を持つ。後者では投資家が直接取り立てないよう債務者保護が必要になる。そのため、貸付先の詳細を明示しないことが多い。

みんクレは募集時に「借り手は都内を中心に不動産開発を手掛ける業者です」として、それがグループ会社であることを明かしていなかった。今年3月には別の業者も、貸付先のほとんどが親族の経営する会社で審査が不十分だったとして行政処分を受けている。


当記事は「週刊東洋経済」4月14日号 <4月9日発売>からの転載記事です

ただ今回のような問題を受けて、自主規制団体である第二種金融商品取引業協会は「金融庁と話し合いながら貸付先を透明化できるよう進めている」(小柳雅彦・常務理事)という。

使い方によっては投資家に魅力的なソーシャルレンディング。市場が成長するためには、健全な事業者の育成が何よりも必要だ。