子供の貧困が深刻化し、貧困の連鎖が懸念されている(写真:アフロ、デザイン:山根 佐保)

「希望の公立小学校に子どもを入学させるために、入学前年の秋ごろからマンションを探しに来る人が多い。賃貸でもファミリータイプは取り合いになるので、実際に引っ越すのは翌年3月でも、早めに契約していく。当然住まない間の家賃も発生するが、子どもの教育環境の確保が最優先される」

「公立小移民」が一部地域に集中

東京都中央区の不動産業者はそう話す。移り住んでくるのは年収1000万円を超える会社員や共働きの家族が多いという。首都圏の一部の地域には中学受験者の多い公立小学校や伝統ある名門などへ入学をさせるため、私立校顔負けの富裕層が集まってくる。彼らは「公立小移民」と呼ばれる。

『週刊東洋経済』は4月9日発売号(4月14日号)で「連鎖する貧困」を特集。子どもの貧困や教育格差、非正規労働者を中心とする新しい下層階級「アンダークラス」の実態に迫っている。


不動産情報サイト「住まいサーフィン」を運営し、自身も親として公立小移民を経験したスタイルアクト(本社・東京都中央区)の沖有人(おき・ゆうじん)代表は、「多い学校ではクラスの2〜3割が学区外から引っ越してきた生徒」という。子どもを中央区の公立小学校に通わせている女性も「クラスの3分の1くらいが小学校のために引っ越してきた人という印象」と話す。

公立は私立ほど教育内容に大きな差はない。なぜ家族で引っ越しをしてまで学校を選ぶのか。「子どもが接する時間がいちばん長いのは学校の友人だ。塾に行く子や勉強する子が周りに多いと自分の子も刺激を受ける。そういう環境を戦略的に与えることが大切」と沖氏は言う。

教育にこだわるなら私立小学校という選択肢もあるが、「幼稚園の頃は子どもの得意不得意がわからない。小学校高学年になると徐々に分かってくるので、子どもに合う中学校を探せる」「友だちと自宅近くで遊ばせたい」「子どもが2人いる。小学校から子ども2人を私立に行かせるのは金銭面で厳しい」などの理由から公立の小学校に行かせるようだ。

どのような地域に教育熱心な親が集まるのか。週刊東洋経済編集部は公立小移民をする理由に“中学受験”を挙げる親が多いことから、私立中学進学率(都内の中学校に進学した生徒のうち、都内の私立中学に行った人の割合)の高い東京都の市区上位10位を調べた。


1位は文京区だ。人気小学校である誠之小学校、昭和小学校、千駄木小学校、窪町小学校の頭文字を取った「3S1K」という言葉が存在する。これらの小学校を狙い引っ越しをしてくる人も多い。2位はアルマーニの標準服で話題になった泰明小学校のある中央区だ。最近では勝どき周辺にマンションが次々建ちファミリー層も増えている。3位は港区。1億円以上のマンションの供給が多い地域で、年収の高い人や富裕層が集まりやすい。

ただ、あくまでも進学率なので受験率はもっと高いだろう。都内の私立中学校が一斉に試験をする2月1日には、文京区や中央区の小学校では「誰も学校に来ない」「クラスで来ていたのは2人だけ」などの声も聞こえてくる。また、前出の女性は「本命校に落ちて、中途半端な私立に行かせるくらいなら中央区立の中学に入れる」といい、受験している人はさらに多いだろう。

『週刊東洋経済』4月9日発売号の「連鎖する貧困」では、住まいサーフィンのデータを基に、「平均年収が高い学区(小学校・中学校)ランキング」、「4大卒割合が高い学区(小学校)ランキング」を掲載している。

物議を醸した一式8万円の標準服

これらのランキングからは公立小の間にも格差が存在することがはっきりわかる。その象徴ともいえるのが泰明小学校のアルマーニの標準服騒動だった。物議を醸したのはその価格だ。一式そろえると8万円を超える。


泰明小の標準服問題は大きな議論を呼んだ(撮影:今井 康一)

中央区教育委員会によると16校ある区立小学校のうち14校が標準服を採用している。平均価格(アルマーニを含む)は130センチメートルサイズで2万5000円前後。学校によって指定のものが違うので単純比較できないが、泰明小との差は大きい。標準服の着用は必須ではないが、「ほぼ全員着ている」(教育委員会)という。事実上の制服だ。

泰明小は学校選択制(特認校制度)を採用しており、学校説明会への参加、学校の教育方針への賛同など細かな条件はあるが、中央区在住であれば学区外からも通学できる。その人気は高く、2017年度は学区外の定員30人程度に対して38人が応募し、抽選となった(最終入学者27人)。


アルマーニと自ら交渉して導入を決めた泰明小の和田利次校長は、「1式8万円の標準服は高すぎる」との批判に対し、「本校の保護者なら、出せるのではないかと思う」と説明した。実際、銀座の小学校に子どもを通わせる親は高所得なのだろう。

泰明小は特認校なので「いやなら入学しなければいい」という意見もある。だがそれでは標準服を買えない貧困家庭の子どもを排除しているのと同じだ。公立学校の本来のあり方とは逆行している。子どもの格差はますます進んでいる。

『週刊東洋経済』4月14日号(4月9日発売)の特集は「連鎖する貧困」です。