ドラッグストア「アインズ&トルペ」では、LINEペイなど、スマホ決済に対応(撮影:今井康一)

街中のどんな店でも、スマートフォン一つで瞬時に支払いができる──。ネットや通信の大手企業が、続々とスマホ決済の市場開拓に乗り出した。

アプリに現金でチャージしたり、銀行口座やクレジットカードを紐付けたりと、おカネの出どころはさまざまだが、近年のスマホ決済の新規性はQRコードやバーコードを用いる点にある。「おサイフケータイ」に使われるFeliCa(フェリカ)などの近距離無線通信規格と違い、アプリを取得すれば端末に依存せず利用できるのが特長だ。

主に、客が自分のスマホにコードを表示し店側の端末で読み込む方式、店頭に掲示されているコードを客のスマホで読み込む方式の2パターンがある。前者は客側の操作が少なく、決済時間を短縮できる。後者は店側の端末投資がいらない。多くの決済サービスは両方の機能を用意している。

LINE決済は100万店加盟目指す

この領域に最も熱心に取り組むのが、LINEだ。同社は3月、国内向けに新サービス「LINE ウォレット」を開始。LINEのアプリを開くと、右上の目立つ位置に決済・金融サービスをまとめた専用タブが表示されるよう改変した。


タブ内の中核機能であるスマホ決済サービス「LINEペイ」ではポイント施策などで利用促進を図っているほか、支払い可能な加盟店(現在は数万店)を2018年内に100万店まで増やす計画をブチ上げた。アプリへの入金でも利便性を上げるため、口座から直接入金できる提携銀行を全国50行超まで増やした。

「LINEアプリの中に機能を作ったので、別アプリを取得する手間がない。友人や家族とつながるアプリだからこそ、送金の機能も便利に使ってもらえるはず」。LINEの出澤剛社長は自社サービスの強みをそう話す。今後は支払いや送金だけでなく、ローン、保険、仮想通貨取引といったさまざまな金融サービスを順次追加していく予定だ。

前のめりなのは他社も同じだ。楽天は2016年に始めたスマホ決済サービス「楽天ペイ」で機能の拡充や加盟店開拓に邁進。フリマアプリで急成長するメルカリも昨年11月、金融関連の新規事業開発に特化した新会社メルペイを設立した。


ヤフーもQRコード決済に今年6月から参入する(写真:ヤフー)

直近では、ヤフーも実店舗向けスマホ決済への参入を表明。6月に開始する。同社はネット通販(EC)や「ヤフオク!」向けの決済サービス「ヤフーウォレット」で約4000万の登録口座を抱える。実店舗では後発だが、「ウォレット利用者の規模はアドバンテージになる」(コマースカンパニーの谷田智昭・決済金融統括本部長)と強気だ。

スマホ上で消費者の財布を押さえたい各社の狙いは何か。単に決済手数料を稼ぐだけではない。自社サービスの“経済圏”を広げることにある。

決済参入で自社サービスを便利に

典型的なのはLINEだ。すでに国内の月間利用者数が7300万人に達しており、この先伸び率を維持するのは難しい。出澤氏も「今後はLINE上のサービスにおける“可処分時間”や流通総額を増やすことが重要指標になる」と話す。LINEペイにおカネを貯めている人なら、ECの「LINEショッピング」や出前サービス「LINEデリマ」といった育成中のサービスに引き込みやすい。

実店舗での決済情報は、IT各社が従来把握できていなかった貴重なデータでもある。「リアル決済が加わればデータの幅と深さが増し、顧客への提案力を上げられる」(ヤフーの谷田氏)。広告やECで客の好みに合わせた情報の提供を強化できるわけだ。

各社がスマホ決済戦略を描くうえで熱い視線を注ぐのが、日本以上にキャッシュレス化が浸透する中国だ。EC大手アリババグループの「アリペイ」、メッセンジャーアプリのウィーチャットを運営するテンセントの「ウィーチャットペイ」を筆頭に、ここ数年でコード決済の店頭導入が急速に進んだ。小規模な小売店や路上ライブの投げ銭などにも、客側のスマホで読み取るQRコードが当たり前に使われる。コード決済でしか買えない自動販売機もあちこちで目にする。

単なる決済だけではない。今注目されているのが、「芝麻(ジーマ)信用」という、アリペイ上の決済や行動のデータを基に利用者の信用力を測るサービスだ。一定の点数があれば、物品レンタルの保証金が免除されたり、ローンの貸し出し上限が上がったりと、多くの利点がある。これがグループ内サービスの利用促進にもつながっている。


店頭のQRコードを客のスマホで読む方式なら店側は端末が不要。小規模な小売店(左)や路上ライブの投げ銭用(右)にも簡単に導入できる

ただ、これを単純に日本に当てはめるのは難しい。そもそも中国でスマホ決済がここまで急速に普及したのは、配車アプリ「滴滴(ディディ)」のようなスマホ決済を基本とする新興サービスが人気を博したからだ。

日本で本当にキャッシュレスは進むか

日本でも決済インフラを整備する一方で、「生活の中の困り事を劇的に解決する魅力的な“使い先”がなければ、発展性は薄い」(業界アナリスト)。芝麻信用のようなスコアリングも、露骨な評価が拒否反応を生む可能性がある。

スマホ決済・キャッシュレス化の流れは、政府も後押しする。経済産業省は昨年12月、キャッシュレス決済(クレジットカードや電子マネーも含む)の割合を、現行の20%弱から2027年までに40%まで引き上げる目標を設定。東京五輪などでの訪日客の決済需要への対応も念頭にある。


当記事は「週刊東洋経済」4月14日号 <4月9日発売>からの転載記事に加筆したものです

商機をつかもうと、独立系のプレーヤーも奮闘する。2012年創業の金融ベンチャー・オリガミは、2016年からスマホ決済サービス「オリガミペイ」を提供。オリガミペイで決済すれば現金での支払いより安く買える、という仕組みを作り、わかりやすいメリットで訴求し、利用者を拡大してきた。

「自分たちは金融サービスに主眼を置く会社。自社で技術や知見を抱え込むのではなく、地方銀行や流通、カード会社などをパートナーとしてオープンに共有することでビジネスを広げていく」(同社の古見幸生マーケティングディレクター)と、自社経済圏を拡大するのとは別の道での成長を模索する。

ネット企業の思惑だけではキャッシュレス化は進まない。人手不足に悩む飲食・小売店には手数料の安さや簡便性の点で訴求する必要がある。“現金主義”が根強い日本の消費者マインドを変えられるか。日々アプリに触れる若い世代の開拓がカギとなりそうだ。