すでに世界中でその名を轟かせている、「MUJI」こと「無印良品」のリニューアルオープン店舗「堺北花田店」が注目を集めています。なぜ今、「高級食材」を扱う店を、スーパーマーケットと見紛うばかりの大きな規模で始めたのでしょうか。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』の著者で元アマゾンジャパン社員という経歴を持つMBAホルダーの理央さんが、その狙いを分析しています。

なぜ今「MUJI」は高級路線をとるのか?

3月20日にリニューアルオープンになった、良品計画が運営する「無印良品」堺北花田店。

WWDニュースによると、

売り場面積4300平方メートルは、有楽町店(3700平方メートル)などを抜いて世界最大。売り場の約半分が食関連で占められており、野菜、果物、鮮魚、精肉、惣菜、その他の食品が並ぶ様子は、スーパーマーケットと見紛うほどだ。

 

魚売り場には、天然の真鯛や、ヒラメ、伊勢海老など、高級な食材が並び、中には5000円を越すものもあるとのこと。

 

精肉コーナーには、宮崎産の黒毛和牛、沖縄のあぐー豚など、高級食材が。

 

もちろん、岸和田漁港や泉佐野漁港で水揚げされた鮮魚や、門真れんこんや長ネギ、だいこんなど、地元で仕入れた野菜も多い。

 

さらに、天井も高く、開放的な雰囲気の売り場になっている。

これまでの無印良品は、GMS(総合スーパー)やショッピングモールの中にある、ショップインショップの業態が多く、基本的なカテゴリーは、衣料品、基礎化粧品、雑貨、文房具、が中心。

食品といえば、美味しそうではあるが、レディートゥーイートの、レトルト食品が中心だった。

なぜ今、無印良品は高級食材の店舗を出店したのか?

なぜ、この段階で無印良品は堺北花田店を、高級食材を扱う大規模店にしたのだろうか?

日本経済新聞3月20日の記事によると、理由は2つ。

まずは、来店機会を増やすこと。

雑貨などが中心だと、顧客の来店頻度は、月に1〜2回。

しかし、食品を扱うことで、週数回の来店を促すことを狙っているとのこと。

もう1点が、質の高さをアピールしたいという方針だ。

そもそも、生産者が明確な食材は、無印良品の「安心・安全」というイメージを、アピールするにはもってこいのカテゴリーと言える。

この背景には、「いい商品であれば、少しくらい高くても、安心できるから欲しい」という価値観を持った顧客層を狙う、ということがあると推測される。

商売において、顧客単価を上げることと、営業利益を上げることは重要。

実際に、海外での無印良品のイメージは「MUJI」というブランド名で高く評価されている。

営業利益に関しても、東アジアでは18%と、日本の10%を大きく上回る。

1月にオープンした中国のホテルも、当地ではかなり話題になっていると聞く。

無印良品をブランド的に解剖すると

ブランドをマネジメントしていく上で、考えるべき点がいかに示すように4つある。

(Keller氏のStrategic Brand Managementを参考)

1. 認知されているか

2. 見た目の価値はあるか

3. 顧客との関連性は強いか

4. 顧客が忠誠心を持っているか

日本国内の無印良品については、

1. の認知度はかなり高いと言える。

2. の「見た目の価値」とは、顧客から見たときに、イメージが良いか、価格に見合う価値を持っているか、という尺度になる。

安心・安全な商品というイメージは確立できているが、こと食材において、価格に見合う価値を感じてもらうのは、これからが勝負、ということになる。

この点は相対的なもので、例えば、デパ地下などの生鮮食品売り場が、直接的な競合になるであろう。

3. の顧客との関連性とは、顧客から見て「あ、これは自分の好きなブランドだ」という、顧客とブランドの間の距離感のことだ。

情緒的、感覚的な側面に加えて、判断できる基準があると、無印の高級食材は美味しく安全だから、少しくらい高くてもいいので、デパ地下でなく無印で買いたい、という選ばれ方になる。

最後の忠誠心は、読んで字のごとく、他社に浮気をされないかどうか、自社で買い続けてもらえるのか、という点に当たる。

ブランドマネジメントの目的は、顧客の量的かつ質的な忠誠心の向上を目指す。

量的とは、購買頻度や来店頻度、質的には、心情的にいつも無印を思い出してもらえるかどうか、また、人に勧めたくなるか、といった尺度になる。

無印良品から何を学ぶべきか?

この無印良品のチャレンジに、私たちは何を学べば良いのだろうか。

まずは、ブランドの構築の仕方が挙げられる。

無印良品は、安心安全な商品を提供する、という事業コンセプトが明確である。

今回、顧客単価を上げ、営業利益をあげたい、という戦略を取るときにも、事業コンセプトが明確なので、施策がぶれていない。

事業を開発、進めていく際には、このコンセプトが明確であるかどうか、市場のニーズにマッチしているかどうかを、確認する必要がある。

2点目としては、ブランドをマネジメントし、新しい事業を起こすときには、元になる「親ブランド」の資産を有効に使うことが重要だ。

無印良品の場合は、母体のイメージをさらに展開した、高級食材という新しいカテゴリーでの勝負を仕掛けている。その際に、親ブランドの“のれん”の力を借りているのだ。

このときに気をつけるべきは、親ブランドのイメージを傷つけないこと。

同じブランドで、低価格路線に行ってしまったりすると、相対的な、親ブランドの「見た目の価値」が下がり、ブランドファミリー全体が毀損されてしまう。

もう一点、WWDニュースによると、良品計画の金井政明・会長は、「巷ではIoT(モノのインターネット化)や、AI(人工知能)の話で持ち切りだが、ならばアンチ・インテリジェンスでやろうということ」と説明する。

生鮮食品を中心に生産者と消費者の距離を縮めたり、顧客との密接なコミュニケーションによって、「無印良品」をより生活に身近な存在にする。

「毎日の積み重ねで地元に溶け込んだ店にしたい。1年後どうなっているか楽しみだ」

と語ったとのことだ。

今後、どの業界でも人口減による、競争の激化が予想される。

そしてさらに、ITの進化による効率化がさらに進むことが予想される。

そんな中で、IT活用での独自化を図ることも大切だが、逆張りをして、人間にしかできないことで、独自な価値を提供しようとする点は、大いに見習うべきだろう。

このブランドイメージにも合致した、無印良品のアナログでのサービスによる独自化は、これからどう進化していくのか、とても楽しみである。

image by: 無印良品 公式

MAG2 NEWS