私たちの声はグーグルに届く?(写真:PeopleImages/iStock)

ウソや不正確な情報であってもインターネットの検索結果で上位に表示されてしまうことがある。このことを疑問に思う人もいるはずです。
「そもそもなぜグーグルなどの検索エンジンは、このようなネットメディアやウェブサイトの記事を、検索結果の上位に表示してしまうのだろうか」、と。拙著『健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方』から一部抜粋して解説します。

別の見方をすると、大学や公的機関のウェブサイトを、検索エンジンはあまり評価していないということにもなります。とびきりの頭脳が集まって作られているはずのものが、どうしてこうも簡単にハック(攻略)されてしまうのでしょうか。

実はこれは、決してグーグルなど検索エンジン側だけの問題ではありません。皮肉にも、検索エンジンは、利用者である私たちの要望を反映しているからです。

検索エンジンのジレンマ

グーグルは2017年4月に、公式の場で「ユーザー(利用者)の行動が検索結果に反映される」ことを認めました。これはつまり、「記事に何が書かれているか」だけではなく、ユーザーがサイトを訪れ、「どれくらい時間をかけて読んだか」などの指標が、検索結果を決める一因になる、ということです。

DeNAがかつて運営し、根拠が不明確な医療関連記事を掲載していたことから閉鎖された医療情報サイト「WELQ(ウェルク)」が量産したような8000字の記事は、当然、読むのに時間がかかります。サイトに長く滞在することがイコールいいサイトであると判断されるわけなので、こういった長時間閲覧させるためのハックの手口が生まれてきます。

これには、深刻な問題が伴います。それは、法律や倫理の面で問題があるサイトであっても、検索上位に登場しうるということです。たとえば、違法に動画を配信するウェブサイトを利用者が熱心に閲覧したとします。利用者にとってみれば、無料で最新の動画が閲覧できるウェブサイトは、便利でしょう。

さて、検索エンジンはこのウェブサイトを、どう評価するでしょうか。そう、法律や倫理の問題はアルゴリズムで自動的には解決できないので、グーグルはこのようなウェブサイトを「満足度が高い」と判断して、検索順位を上げてしまうのです。

逆に、どれだけ信頼性が高くても、閲覧しにくいウェブサイトであれば、掲載順位は落ちてしまうことになります。

大学や公的機関のウェブサイトというのは、往々にして文字が小さかったり、装飾に乏しかったりして、読みにくいものが多いですよね(もちろんこれには、非営利のウェブサイトほど、営利目的のサイトと比較して工夫を凝らしにくい。誠実に正しい情報を伝えようとすればするほど、地味にならざるをえないという悩ましい問題があるのですが)。

検索エンジンが利用者のためを思って利用者の行動を指標としたことで、かえって、望ましくないサイトの検索順位が上がってしまうというのが、グーグルの抱えるジレンマです。

違法に動画を配信するなど、問題であることが明らかなウェブサイトであれば、検索エンジンに通報し、検索結果から消すことができます。

しかし、医療情報に多く見られる誤りを含むことや、倫理の問題があることによる違法ではないが有害な情報は、かえって対策しにくいものとなっています。

もともと、グーグルは健康・医療をはじめとする、財産や生命にかかわる「YMYL(Your Money or Your Life)」領域では、特に信頼性と専門性を重視すると表明していました。しかし、信頼性を重視しすぎると有益な情報が表示されなくなり、利用者の要望を重視しすぎると問題のある情報が表示されるジレンマからは、抜け出せていません。

また、2016年末に発覚したWELQ問題を未然に防ぐことができなかったことから、日本ではグーグルへの批判も多く見られました。ところが、それから1年で事態は突然、誰もが驚くほど大きく動いたのです。

ネットに革命が起きた日

2017年の12月6日は、ネットに信頼できる医療情報を望む人にとって、歴史的な日になりました。

その日、グーグルはついに、WELQのような手法で健康・医療情報を大量生産するメディアに、大幅な制裁を下したのでした。

グーグルはその日、医療や健康に関する検索結果の改善を目的としたアップデートを実施した、と発表しました。その結果、これまで問題になっていたネットメディアの記事の多くが、検索結果の上位から姿を消したのです。この結果は劇的で、たとえば前述のヘルスケア大学は、ほとんどのキーワードで利用者の目に入る範囲外に落ちました。実は、グーグルも、ずっと指をくわえていたわけではありません。WELQ後、細かな調整をしていることが専門家らによって観測されており、夏にはすでに今回のアップデートをにおわしていました。8月25日に開催されたイベント「グーグル Dance Tokyo 2017」の質疑応答では、以下のようなコメントがあったことを、複数の関係者が証言しています。

多くの人から指摘があることはグーグルでも把握しており、(健康・医療分野の)優先度を高くしている。詳細はここでは明らかにできないが、期待していてほしい。

それから約3カ月後に実施されたアップデートは、専門家の期待を大きく超えるもの。SEOの専門家である辻正浩氏は「今回の変更は前代未聞」と表現します。

今回の変更は、WELQ後に実施された健康・医療分野の改善としては、最大でした。(この分野の)検索順位の変動として前代未聞のものだったとも言えます。

他に、「NAVERまとめ」や「Yahoo!知恵袋」などのCGM(誰でもコンテンツを作れるメディア)も順位が急落している、と辻氏。これらのサイトも、健康・医療情報を専門家以外が扱うことがあり、ウソや不正確な情報が含まれていることが、指摘されていました。

2018年2月時点では、今回のアップデートが実施されたのは日本のみです。WELQ問題以降、日本で高まっていたネットの健康・医療情報への不信感を払拭するための、独自の対応であることがうかがえます。

すべてが解決されたのか?

辻氏は、今回のアップデートを「(現時点の情報からすると)すばらしい改善」と評価します。

「今回、健康・医療情報を求める検索に対して、多くのページが検索順位を落とされました。非常に厳しい判定基準ですが、日本のネットの状況を鑑みれば、仕方のないことだと私は考えます。日本のネット上には、あまりに問題あるサイトが増えてしまいました。WELQのような手法は今後、許されないということを示したのでしょう」

ただし、「今回のアップデートですべてが解決されたわけではない」とも言います。たとえば、3単語以上のキーワードを入力するなどのニッチな検索の中には、今回の改善が影響していないものも見られるそうです。また、「ダイエット」や「育毛」など、健康に関連してはいるものの、現時点では大きな変化が発生していないジャンルもあると言います。

「とはいえ、今回断固たる対応を行ったことから考えると、今後も続く改善で同様の動きになる可能性は高いでしょう」

グーグルは、今回の変更により「医療従事者や専門家、医療機関等から提供されるような、より信頼性が高く有益な情報が上位に表示されやすく」なると表現しています。実際に、大学や公的機関のページが上位に表示され、非専門家の運営するページの順位は落ちています。

「もちろん、ネットには悪い医療情報サイトばかりがあるわけではありません。私見ではありますが、信頼に足ると感じていたいくつかのサイトも、今回のアップデートで大きく検索順位を落としているケースが散見されます。信頼に足るサイトまで落ちてしまう、というのはたしかに問題です」

ただし、このような状況が今後、解消されるのか、それともこのままなのかは、「わからない」と辻氏。問題あるサイトへの対策を大規模に行ううえで、巻き込まれて落ちてしまうサイトが出るというのは「ある程度は仕方がないこと」とします。

ネット利用者の要望を重視しすぎると信頼性の低い情報が表示され、信頼性を重視しすぎるとネット利用者のほしい情報が表示できないというジレンマが存在する以上、たしかに、完ぺきというのは難しそうです。

グーグルからの異例の呼びかけ

今回の発表では、異例ともいえることに、グーグルから情報発信をする医療関係者に向けて、以下のように呼びかけがありました。

“一般のユーザーに向けたウェブでの情報発信に携わる機会がありましたら、コンテンツを作る際に、ぜひ、このような一般ユーザーの検索クエリや訪問も考慮に入れてください。ページ内に専門用語が多用されていたら、一般ユーザーが検索でページを見つけることは難しくなるでしょう。内容もわかりづらいかもしれません。”

つまり、すでにネット上には多数の「信頼できる医療・健康関連のワードについてのコンテンツ」があるが、それは専門用語が多く、一般のネット利用者が検索で使う日常的な言葉ではヒットしにくいということです。いくら信頼できる情報でも、一般のネット利用者が検索する言葉で見つからなければ、役に立ちません。

そのため、グーグルは医療関係者に対して、わかりやすい言葉で情報発信をするようにと求めたのです。いくらグーグルでも、グーグルだけの力では、検索結果を良くすることはできません。その利用者と協力して自浄作用を働かせていくというのは、非常にネットらしい一手だといえるでしょう。

辻氏は言います。

「今、ボールは健康・医療情報の提供者側に投げられました。多数の一般サイトが退場させられた結果、検索結果が貧相になっている部分は明らかに見られます。つまり今は、専門家の発信する情報を重視したものの、専門家が情報を十分に発信していないため、中身がない状態、とも言えるのです」

今回、大幅に順位を上昇させたのは、大手報道機関や大学・公的機関、製薬会社、医療機関のサイトなどです。

「そこから情報発信がなされること、また、そのようなサイトはウソや不正確な情報を発信しても上位に表示されやすいので、その内容をチェックすることが必要でしょう」

辻氏は、WELQ問題からの一連の流れから「私たちの声はグーグルに届く」と強調します。

「WELQ問題を契機に、ネット上にはこのようなサイトへの問題意識が生まれ、自浄作用が働きつつあります。しかし、検索エンジンというのは、どれだけ改善されても完ぺきになることは絶対にありえません。引き続き、みなさんの継続的な監視と警告が必要です」

情報のリレーが、自浄作用につながった

WELQ問題を振り返ってみると、辻氏や私のような個人が発した声を、私が勤務するBuzzFeed Japanのようなネットの報道機関が拾い、話題となったことで新聞やテレビなどの既存メディアでも取り上げられ、政治家や都が動いてWELQ閉鎖に至った、という一連の流れが見えてきます。

WELQ後はどうでしょうか。グーグルの対応は迅速とは言えませんでしたが、私がBuzzFeed Japanで継続的に報道して、ネットで話題になっていたことは、少なからずグーグルに届いていたことがうかがえます。

辻氏の指摘する「監視と警告」を実現できるのは、やはり、ネットならではだと言えそうです。というのも、個人がマスメディアや政治家、都、大企業に意見を言うことは、現実世界ではなかなか難しいことです。しかし、「フラットである」ことが最大の特徴であるネット空間では、たとえアメリカ大統領に対してであっても、ツイッターなどで直接、呼びかけることができるのです。

つまり、ネットは現実世界よりも、自浄作用が働きやすいと言うことができます。

WELQ問題が新聞やテレビなどの既存のメディアで報じられるときに、私には気がかりなことがありました。それは、この問題をネットの弊害として、あまつさえ「自分たちにはこんなことは起こりえない」とでも言いたげに、既存メディアがこの問題を扱っていたことです。

たとえば、2016年12月2日付の日経新聞デジタル版の記事「DeNA、9情報サイト休止 検索上位狙い編集歪む」には、このような記載があります。

「情報が氾濫する現在、まとめサイトの人気は高い。しかし、情報を提供するには、多大な労力と細心の注意を払って内容を精査する作業が欠かせない。DeNAの不祥事は、ネットメディア全体の信頼性を揺るがすことにもなりかねない」


たしかに、検索エンジンのジレンマはネット特有の問題です。しかし、詳細は割愛しますが、問題を最初に指摘したのは既存メディアに属さない個人としての私(当時)であり、マニュアルの存在のスクープは、ネットメディアであるBuzzFeed Japanであり、ネットの中の人たちでした。これはまさに、ネットメディアによる自浄作用ではありませんか。

そもそも、ネットメディアというのは不思議な言葉だな、と私は思います。新聞やテレビも今、ヤフーニュースに記事や番組を配信しています。Twitterを積極的に活用しています。そうであるなら、新聞やテレビもネットメディアです。

ネットはすでに生活の大きな一部であり、切り離すことはできません。前述の日経新聞デジタル版の記事について言えば、ネットに記事を掲載していながら、ネットメディアの信頼性を問うというのは、なんだか立ち位置がよくわかりません。メディア全体が信用されなくなりつつある中で、ネットとそれ以外を区別しようとすることは、私には現実逃避のように思えてしまうのです。