1日に6つの大きなレースが行われるドバイワールドカップデー。人口わずか300万人前後のドバイが世界ナンバーワン、約3兆円もの観光収入を得られる秘密が隠されている(筆者撮影)

成田からの直行便で、ドバイ国際空港に到着したのは3月29日の午前3時台であった。


この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています)。記事の一覧はこちら

初めてこの地を訪れた筆者は、「ドバイと言えど、空港はさすがにほかと同じだな…」などと考えていたのだが、「イミグレ」(入国審査)を越えたところでアッと驚いた。

エミレーツ航空御用達の第3ターミナルは、バゲージクレーム(荷物受け取りの場所、レーン)が実に14本も並んでいる。はるか彼方の税関カウンターまで、見渡す限りレーンが続いている。これでは、成田発便のレーンを探し当てるのも一苦労である。

1日6つのG1!いざ「ドバイワールドカップデー」へ

荷物が出てくるのを待っている人たちの中に、なんと「大魔神」佐々木主浩氏を見かけてしまった。ドバイワールドカップ見学ツアーに参加した筆者は、馬主さまと一緒のフライトであったのだ。そういえば佐々木氏の持ち馬、ヴィブロスは昨年のドバイターフ杯の覇者であった。賞金は確か4億円と記憶しているが、今年はどうなんだろう。2月の中山記念は8着に終わっていたからなあ…。


朝のメイダン競馬場でブッフェを。「異国のお寿司」もおつなものだ(筆者撮影)

空港で集合したツァー参加者一行は、旅行会社の計らいでそのままメイダン競馬場へ直行とあいなった。

”Breakfast with the Stars”という企画で、全世界から集ったホースメンが競争馬の最終調整やメディア対応にいそしんでいる側で、ファンの方々は競馬場でゆったり朝ご飯をどうぞ、というのである。

3月のドバイでは、朝の空気は意外とひんやりして気持ちがいい。ブッフェ形式のメニューには鮨もあったりする。うむ、これは結構。府中や中山でも、ファン拡大のために是非こういうのを試していただきたい。ちなみに今度は、藤沢和雄調教師を目撃してしまったぞ。

3月の最終土曜日はドバイワールドカップデー。世界最高賞金のレースがメイダン競馬場で行われる。1日に6つも国際G1レースがあって、全世界の有力馬が集まってくる。近年は日本馬の活躍が目覚ましく、今年は実に14頭も参戦する。一度は行ってみたいなあ、それに俺、中東って行ったことないし…。

とはいうものの、このレースは必ず日本では「年度末」に当たる。世間的に多忙な時期なのだが、なぜか今年は奇跡的に空白が出来た。それも3月28日午後5時半に会社を出れば、午後9時20分の成田発ドバイ行きにギリギリ間に合う!という「点と線」みたいな日程である。いくつかの予定は不義理をすることになったが、ここは断固として長年の懸案を果たすことにした。行くぞドバイへ。

日本からドバイにまで馳せ参じてきたのは、関西空港からのグループも併せると総勢約30人。若者からおじさんまで、そして単身者からご夫婦、お子様連れまで、意外なくらいに多種多様な顔ぶれであった。とはいえ、競馬ファンであることは皆さん同じ。「どの馬が好きなの?」「買い方は?」「去年の有馬は?」と、何でもいいから競馬の話題を投じると、すぐに会話が弾む。自己紹介や名刺交換なんぞは後回し、なのである。

「埼玉県規模」で客に「年3兆円」を使わせる観光立国

ドバイはアラブ首長国連邦(UAE)の一部。アラビア半島の右肩がちょこっと突き出た部分にある。埼玉県くらいの面積に人口わずか300万人前後、しかもその8割以上は外国人という都市国家である。ここに年間1487万人(世界4位)もの観光客が訪れ、2850億ドル=約3兆円(世界第1位!)を散財するという(世界渡航都市ランキング、いずれもマスターカード調べ、2016年)。とにかく途方もない観光立国なのである。

そのためにドバイは「世界一の高層ビル」「世界最大のショッピングモール」「世界最大の人工島」「世界最高の7つ星ホテル」など、人々の度肝を抜くような観光資源を積み重ねてきた。世界最高賞金のドバイワールドカップも、世界中から客を呼び寄せる重要な「タマ」のひとつと言えよう。

だからと言って、シェイク・モハメド国王(首長)の競馬に対する情熱を疑ってはならない。何しろご自分で「ゴドルフィン」なる競走馬管理団体を作り、競争馬を育成している。サラブレッドの先祖はこのアラビア半島にあり。ドバイを名馬育成の拠点とすることを夢として、しかるがゆえに国際レースを開催する。イスラム教の戒律から、ギャンブルが許されないこの地において!

いよいよ当日。厳重な手荷物検査を潜り抜けて中に入ると、メイダン競馬場の「ギャラリーレベル1」はまことに贅沢な空間であった。

客席は客数より多くて余裕があり、日本のG1レースの混雑を考えると夢のような空間である。歩いて行けば、そのまま芝コースやパドックの前に立つこともできる。エアコンの効いたフロアでは飲食はタダであり、信じられないことにビールまで飲ませてくれる。ここは本当にイスラム圏なのだろうか?


観客席は余裕があり見やすい。日本のG1の混雑ぶりを考えると、夢のような空間(筆者撮影)

フロアの方では、競馬そっちのけでパーティーモードになっている人たちもいる。


競馬そっちのけで、ほとんどパーティーモードになっている人たちも(筆者撮影)

この雰囲気、3年前に訪れた英国のロイヤルアスコットとそっくりだ。要は善男善女が礼装で出かけてくる。特に女性の帽子はまことに豪華絢爛。競馬とはギャンブルではなくて、紳士淑女の社交場なのである。

そう、この競馬場には勝ち馬投票券が存在しない。その代わりに来場者にはPick6というマークシートが渡される。6レース分の1着馬を全部当てると、5万ディルハム(150万円くらい)の賞金が出るという宝くじみたいなゲームだ。Win5をやり慣れている人ならすぐにお分かりだろう。ハッキリ言って当たる気遣いはほとんどない。

午後3時45分、最初のレースが始まった!  


これが本物のカップ(筆者撮影)

最初のレースの開始時刻は午後3時45分。日が高いうちは小手調べで、1Rから5Rまではまことにゆったりしたペース。出走が定刻より少し遅れるくらいは当たり前。他会場のレースもないから、実にのんびりしている。これに比べれば、日本の3会場同時開催というスケジュールはじつにせわしないものに思えてくる。

6Rからの4レースはネット経由、JRA(日本中央競馬会)を通じてでも馬券が買えるレースとなる。さあ、ここからが本番だ、と会場の日本人客に熱がこもってくる。気がつけば夜空には満月も浮かんでいる。アラビアンナイトのはじまりである。

6R「ドバイゴールデンシャヒーン」は下馬評通り、アメリカ勢が上位3着を独占。問題はここからで、7Rのドバイターフ、8Rのドバイシーマクラシックは日本勢が多数参加する。なにしろドバイターフは日本勢が2連覇を遂げているくらいだ。会場のアナウンサーは、しきりと「最近は日本勢が有力ですが…」といった話を解説者に振っている。一方でJRA販売のオッズは、明らかに日本馬が実力以上に買われている。英国のブックメーカー、パディパワー などのオッズと比べると明らかに違っているではないか。

気持ちは日本馬でも、馬券は外国馬から買ってみた。結果はすでにご承知の通り、今年は日本馬の優勝はなかった。それどころか、7R、8R、そして9Rのドバイワールドカップまで、3レース全部もっていったのが国王陛下のゴドルフィン所属馬であった。日本人客の間からは、「これは八百長じゃねえのか?」「いや、“忖度”かもしれないぞ」などいう声が飛び交っておりましたな。

「だったら、お前は当てたのか」って?残念ながら、筆者も総外れであった。いやはや、ヤケ酒で飲むビールのなんと旨かったことよ。

そして会場はいよいよフィナーレ。三菱電機特製のオーロラビジョンにはド派手な映像が流れ、移動式の舞台ではダンサーたちが踊りまくり、夜空には何百発もの花火が打ちあがる。


ド派手なフィナーレ。「エンターテインメント産業」としての競馬を見た(筆者撮影)

いやはや、これぞ夢の世界。たとえ馬券を売っていなくても、まことに贅を尽くした競馬の祭典である。これからの観光産業、エンターテインメント産業というものは、こういう国際競争を勝ち抜いていかねばならないのか。

「ジャパンワールドカップデー」の創設を

 日本の競馬界も、もっと国際化を目指していくべきなのではないだろうか。外国馬や外国のファンを日本に呼ぶ機会をもっと増やしてほしい。秋のジャパンカップも国際招待レースとは言いながら、近年では外国馬の参戦が減り、日本馬が勝つのが当たり前になっている。「その方が予想しやすいから助かる」などという声もあって、恥ずかしながら筆者もそんな風に思ったものである。

この際、ジャパンカップの日にエリザベス女王杯とチャレンジカップとスプリンターズステークスあたりを合流させて、1日にG1を4レース集める「ジャパンワールドカップデー」を作れないものだろうか。日本競馬界挙げての「おもてなし」で、世界の競馬ファンとホースメンの心をわしづかみにしてみたいものである。

ここからは恒例の競馬の予想コーナーだ。ドバイを熱く語った後は、国内の競馬へ。しっかり予想して、バッチリ当てたいものだ。

桜花賞はラッキーライラックの「2番手探し」

いよいよ週末は桜花賞(3歳牝馬のG1、1600メートル、8日阪神競馬場11R)。これはもう、ほとんど昨年の2歳女王であるラッキーライラック(1枠1番)を見るレースであろう。

なにしろ無敗の4連勝。4勝のうちには、阪神JF(G1)とチューリップ賞(G2)という桜花賞と同じ阪神1600メートルのレースが含まれている。この条件では負ける気がしないだろう。無敗の桜花賞馬が誕生すれば、2004年のダンスインザムード以来の快挙となる。

あえてラッキーライラックに死角があるとしたら何か。鞍上の石橋脩騎手が不安だ、との声は4連勝の実績に対して失礼であろう。

では血統はどうか。阪神JFで人気を分け合った同じオルフェーヴル産駒のロックディスタウンが、父譲りの気性の荒さが難になっているのに比べれば、ラッキーライラックは信じられないほど「優等生」タイプである。それでは最内枠1番が不安か。いやいや、それくらいで引っくり返る実力差とは思えない。

確かに昨年のソウルスターリング、一昨年のメジャーエンブレムなど、桜花賞ではたびたび人気馬が不覚を取っている。とはいえ、ここはラッキーライラックを信じて2番手探しと行こう。シンザン記念で牡馬相手を制したアーモンドアイ、捲土重来を期すリリーノーブルとマウレア、あるいはフェアリーステークスを制したプリモシーン。馬単ないしは3連単で「攻めの馬券」といきたい。

阪神競馬場の桜はすでに大半が散っているかもしれないが、この週末は3歳牝馬が咲かせる花を見届けに行こう。