JR新宿駅南口の両側にルミネがある(写真:wasaitax / PIXTA)

JR新宿駅で降りると、それが東口でも南東口でも南口でも新南口でも必ず「ルミネ」が駅の上にある。ルミネとはJR東日本グループの駅ビル型商業施設。駅上不動産戦略の要として、東京を中心に国内15店舗(ニュウマン新宿を含む)が展開されている。ちなみにルミネという名前は、フランス語のルミナール(輝く)と英語のイルミネーション(明かり)を由来とする。

新宿駅に4店舗も

小売り産業は大変革の波にさらされている。アウトレットモール、大量生産・大量販売のSPA(製造小売業)、ネットでのフリーマーケットなど、新しい業態が次々と登場し、百貨店のような従来型のビジネスモデルは青息吐息だ。ところが、ルミネは実に力強い粘りを持って売り上げを伸ばしている。全館合計の売上高3380億円、なぜ、小売産業の低迷と言われる今、ルミネが変わらず輝き続けているのか。

ルミネの好調ぶりの秘密を探ろうと、株式会社ルミネの諏訪博営業本部長と原田雄一郎マーケティングコミュニケーション部長に疑問を投げかけてみた。

新宿にルミネは4店舗ある。東口にルミネエスト新宿、南口にはルミネ新宿1、ルミネ新宿2、ニュウマン新宿である。

新宿エリアに4店舗。ルミネがコアターゲットとする20代から30代の女性層をお互いに侵食しあってしまうことはないのだろうか。

そんな疑問に諏訪氏が答える。「この4店舗は同じルミネですが、中身もターゲットもまるで違います。エストはピュアヤング、ルミネ2はヤング、ルミネ1は2より少し上のヤングアダルトまたはキャリア、ニュウマンはトランスアダルト、アダルトをターゲットに設定していて、彼女たちが最もときめくショップを各ルミネで展開しているのです」

ちなみにファッション用語では、ピュアヤングは16〜18歳、ヤングは19〜24歳、ヤングアダルト(キャリア)は25〜29歳、トランスアダルトは30〜34歳、アダルトは35歳〜44歳を指す。


次代のルミネファンを増やせるか『ファッションビルのひみつ』(筆者撮影)

JR新宿駅の1日平均の駅乗降人員は約341万人。駅上という立地をただ利用するならば、この膨大な乗降客を取り込むために、老若男女が利用できる全方位展開という発想もあったはずだ。

それを女性に限定し、かつそれぞれのルミネに細分化したターゲット層を振り分け客層を絞る。ターゲットと定めた顧客の顔の見えるエッジの効いたマーケティング戦略を立てることにより、多くの百貨店がしのぎを削る新宿でルミネは一歩抜きん出た。

さらにルミネはまだ見ぬ「未来の顧客」へも入念なアプローチを欠かさない。諏訪氏と原田氏が「実は私たち、こんなものを作ったのですよ」と、うれしそうに1冊の本を見せてくれた。全国の小学校や図書館に無償配布される学研のまんがでよくわかるシリーズ「ファッションビルのひみつ」という漫画である。

小学生は未来の顧客

主人公は小学校5年生のリナ。元気いっぱいでリーダーシップはあるけれど、あまり身だしなみには興味がない女の子。新学期になり新しいクラスの代表委員に立候補するものの、おしゃれな男の子ジュンに負けてしまう。「自分がおしゃれじゃないから負けたんだ」と思い込むリナの前に現れたのはジュンの素敵なお姉さん・ルミネ勤務のユイ。「おしゃれもだけど、ほかに大切なこともあるかもしれないよ」と言うユイに連れられてルミネに行き、洋服やおもてなしの心に触れて成長していく、というストーリーだ。

イキイキと描かれたリナとユイとジュンのストーリーにきっと小学生女子たちは夢中になるだろう。しかし、なぜターゲット層ではない小学生にルミネの漫画を?と疑問に思った筆者にふたりは続ける。

「確かに小学生はまだルミネのお客さんではありません。でも1枚の洋服が、繊維から糸を作り、それが販売の現場まで届けられているという、ものづくりの川上・川中・川下を知ってもらうことにより、商品の価値を理解し大切にする気持ちを育んでほしいと思うのです」

「そしてルミネでお客さまに心地よくお買い物いただくためにどのような工夫がなされているかを知ってもらうことによって、次世代のルミネファンになってほしいと思っています」

確かにこの漫画は大人が読んでも、ルミネの魅力が伝わってくる。私事で恐縮だが、先日筆者は大雨の中、高校生女子のバースデーパーティに向かうために娘の手を引きながら走っていた。パーティが始まる時間は刻一刻と迫っているのにプレゼントはまだ買えていない。大雨・子連れで駅の外には出たくない。でも勝機はあった。なぜなら乗り換えの駅が新宿だったからだ。

「ルミネに行けば何とかなる。絶対に彼女が気に入るものが見つかる」。呪文のように心の中で繰り返しながらルミネ2に飛び込み、まずはコスメショップでリップを買った。そのあと隣りのホームウェアのお店でヘアバンドを、雑貨のセレクトショップでチョコレートを買い、短時間でプレゼントセットを手にすることができたのだ。

その時は漠然と「ルミネに行ったので何とかなった」と思っていたが、「ファッションビルのひみつ」の中に、まさにその秘密が描かれていた。それは「ワンストップ・ショッピング」というルミネならではの工夫だったのである。

「1階=靴、2階=婦人服などと、階ごとに種類を分けず、一つの階でも、服や靴、スイーツなどいろいろな商品が買えるようになっている」ことをワンストップ・ショッピングと言う。

漫画の中で、弟のジュンの、ファッションビルなのになぜ雑貨や食べ物、お花を売っているお店もあるのかという疑問に、ユイが答えている。「お客さまが選ぶものって、ファッションも食べ物もお化粧品も好みが共通していることが多いの。簡単に言うと、カラフルなショップのとなりに同じようなケーキ屋さんがあれば、カラフルなものが好きなお客さまは、どちらも楽しめるでしょう?」

長年ルミネを使い続けてきた筆者には体感でこのワンストップ・ショッピングを知っていたのだとあらためて気づかされたのである。

新しい仕掛けも続々


ルミネの諏訪営業本部長(左)と原田マーケティングコミュニケーション部長(筆者撮影)

ルミネは新しい仕掛けもどんどん仕掛けている。JR新宿駅東南口高架下にある「新宿サナギ」は、ポップでクリエイティブなビジュアルを売り物にしている。

海外からインスピレーションをもらい、そして海外から来た訪日者、観光客に新宿の魅力を逆に発信して戻す「食」の場である。派手な外装は一見の価値ありだ。新宿駅の真横という立地にして、大きなソファあり、座敷ありのラフで居心地の良い空間には、多くの女性客がまったりとした時間を過ごしている。

「駅ナカという地の利を生かした」。ルミネが成功した理由を誰もがこう考えるだろう。確かに間違ってはいない。しかし、地の利に甘えることなく、次々と新たな展開を打ち出すことが真のルミネの力なのだ。