「料理なんて、ほとんどしたことないコばかりだから、包丁の持ち方もできてないの」
 
22年前のSMAPのメンバー5人を、こう振り返るのはフードコーディネーターの結城摂子さん。テレビ界のフードコーディネーターの草分けとして、結城さんは『料理の鉄人』などを担当。また『王様のレストラン』『ザ・シェフ』『ソムリエ』『味いちもんめ』などのテレビドラマにも参加し、多いときには9本ものレギュラー番組を抱えて奔走。最近では、映画『ラストレシピ〜麒麟の舌の記憶〜』(主演・二宮和也)で、オリジナル料理の作成や監修に携わっている。裏方ゆえ、一般には知られていないが、業界では知る人ぞ知る、この道のカリスマ的存在だ。
 
'96年4月に始まった、国民的番組となっていく『SMAP×SMAP』の人気コーナー、「ビストロ スマップ」のフードコーディネーターを担当したのも結城さんだ。結城さんがその舞台裏を語る。
 
第1回のゲストは大原麗子さん。テーマのカレーを作るにも4時間かかったという。メンバーは調味料を入れるときも、カメラ脇に立つ結城さんに「どこまで入れるの?」と尋ねてくる。「自分がおいしいって思うまで」と、小声で伝えると「おいしいってわからない」――。
 
いまとなってはほほ笑ましいエピソードだが、当時の結城さんは頭を抱えた。
 
彼らが変わったのは、放送開始からまもない、ゲストが野際陽子さんのときだ。草なぎ剛(43)がイカをミンチにした“イカバーガー”を作り、バーガーから照り焼きにしたイカの足を、思い切りはみ出させて盛りつけた。付け合わせにはメッシュのポテト。
 
「野際さんが気に入って、『あなたたち、お店に出せるわよ』って。これでみんなのスイッチが入ったんだと思います」(結城さん・以下同)
 
回を重ねるごとに、メンバーたちは腕を上げていく。
 
「剛さんはいちばんのほほんとしていて、自由で遊び心がありましたね。(香取)慎吾ちゃん(41)には、料理人にはないセンスやアイデアがあった」
 
オーソドックスな料理にこだわりをみせたのは木村拓哉(45)だったという。
 
「私がスタイリッシュな盛りつけをしたときは、『それじゃ食べにくいじゃん』と怒って(笑)。木村さんからはいちばんダメ出しされましたね。対決に負けると本気で悔しがっていました」
 
稲垣吾郎(44)は、自分の世界観に生きていたという。
 
「人の話を全然聞いていなかったり(笑)。『このワインと合う料理は?』とよく話しかけてくれました。ビストロの練習はそっちのけで(笑)」
 
司会の中居正広(45)は、意外にも料理について負けず嫌い。
 
「中居くんはスペシャルなどで、たまに料理をするんですね。口では『いいんだよ、オレは〜』と言ってますが、嘘です(笑)。負けたくないから、すごく気合が入ってます」
 
こうした個性とのふれあいは、結城さんにとっても刺激になった。が、それ以上に仕事は大変だったという。ゲストがなかなか決まらないため、収録間近になって食材や食器集めに駆けずり回る。
 
ゲストにはトム・クルーズ、マドンナなど海外セレブも多かった。
 
「でも、いちばんびっくりしたのは高倉健さんです。海外セレブにも引けを取らないテーブルマナーで、ナプキンの扱い方は貴族のようでした。ナイフやフォークも、手から生えてきたかのように使いこなすんです」
 
番組放送開始から20年。当初は結城さんの元に「男子を厨房に立たせるとは」と批判が寄せられたが、世間の常識を変え、いまでは男性が料理をするのは当たり前になった。そして、SMAPは'16年12月に解散する。
 
「誤解を恐れずにいえば、SMAPの5人は最初から自分の個性を隠そうとせず、ぶつかり合っていましたね。だからこそ、国民的なスターになれたのかもしれません」
 
「ビストロ スマップ」の終了で、結城さん自身もレギュラーの仕事が終わった。最終回のスタジオでの打ち上げのとき、結城さんは料理の撮影のために、いつものように離れた場所で作業をしていた。
 
「すると、酔っ払ってふらふらになった慎吾ちゃんが来てね、何もいわずにハグしてくれたんです。すごく感激して、うれしかった……」
 
お疲れさまの感謝と、次のステップへのはなむけが無言のうちに伝わってきた。胸が熱くなった――。