なぜ東大受験では「へんな問題」を出題するのか(撮影:今井康一)

「東大の入試問題」と聞いて、どのような想像をするでしょうか。

「すごく難しそう!」

「びっくりするほど細かい知識が問われそう!」

と考えるかもしれません。日本一の大学である東大の入試問題は難解で、教科書の隅から隅まで覚えていないと解くことができない、そんな問題ばかりが出題されると想像する人も多いのではないでしょうか。

しかし、それはまったくの間違いです。拙著『現役東大生が教える東大のへんな問題解き方のコツ』でも紹介していますが、東大の入試問題は、「最低限の知識で解くことができる、頭のやわらかさが求められる問題」が数多く出題されています。そして、それらはどこかユニークで、知的好奇心をくすぐられる「へんな問題」であることが多いのです。

頭がやわらかければ、中学生でも解くことができる

たとえば、実際の東大入試に出されたのが次の問題です。

[ 問 題 ]
次の表は、日本国内の4地点における時刻表を示したものである。
表の中のa〜dは、
\田空港の上海行きの航空便
東京郊外の住宅団地のバス停(最寄りの駅前行き)
人口約10万人の地方都市の駅前のバス停
た邑約5000人の山間部の村のバス停
のいずれかである。a 〜d に該当するものの番号( 銑ぁ砲髻△修譴召貪えよ。
※2005 年 地理 第2問 一部改変


試験会場で「時刻表!?」と驚いた受験生も多かったであろうこの問題ですが、もちろんちゃんと考えなければ正解することはできません。各時刻表の1日当たりの本数は以下です。

a)1日2本
b)1日11本
c)1日21本
d)1日54本

まず、一番台数が少ない時刻表を考えますと、1日に2本しかない「a」です。 銑い里覆で一番少なそうな時刻表といえば、い痢嵜邑約5000人の山間部の村のバス停」が考えられます。

利用する人の数が少なければバスの台数も少なくなるはずですが、い蓮嵜邑約5000人」と、利用する人の数は一番少なそうです。単純に考えて、近くに住んでいる人が少なければ、利用者だって少ないはずです。そういうわけで、「a」はい犯獣任任ます。

反対に、一番台数が多い時刻表は「d」。特に7時台は、1時間に6台も走っています。10分に1回出発しているのですから、もう電車と変わりませんね。なぜこの時間だけ台数が多くなっているのでしょうか?

答えは皆さんもよく知っているはず。「通勤ラッシュ」です。通勤・通学のために利用者が多くなるから、この時間帯にバスが多く走っているのです。

△痢崚豕郊外の住宅団地のバス停(最寄りの駅前行き)なら、東京の通勤ラッシュのイメージと結びついて、「d」の時刻表にぴったりですね。皆さんのなかにも、毎朝、最寄りの駅にバスで行って、そこから東京の職場・学校に向かう、という人が多いのではないでしょうか?

そういうわけで、「d」の答えは△世犯獣任任ます。

さて、「b」と「c」が残りました。どちらが成田空港の上海行きの航空便で、どちらが「人口約10万人の地方都市の駅前のバス停」なのでしょうか?

皆さんの多くは飛行機に乗ったことがあると思いますが、その飛行機の出発時刻が「10時32分」や「16時59分」だったことがあるでしょうか? おそらく、そんなハンパな時刻はなかったと思います。バスと違って、飛行機には多くの人が乗りますし、乗る前に搭乗手続きなどいろいろ準備しなければなりません。

そうすると、「32分」や「59分」といったハンパな時刻ではわかりづらくて、間違ってしまう人が出てしまいます。だから、飛行機は「50分」や「25分」など、キリのいい出発時刻が設定されているのです。

そういうわけで、「9時50分」「10時00分」などキリのいい数字が並んでいる「b」の答えは,如∋弔辰拭c」の答えはです。

解答) (a) (b) (c) (d)

意外と東大受験生の正解率は低い

中学生100名にこの問題を解いてもらったところ、およそ3割の生徒が正解しました。「これで君たちも東大合格だ!」と言うと、うれしそうにしてくれました。このように、この問題は中学生でも解けるわけですが、意外にも東大受験生の正解率は低いです。

それは「きちんと身の回りから学ぼうとする姿勢を持っている人は成長しやすいから」です。I.ニュートンはリンゴが落ちる様子を見て、万有引力を発見しました。東大の授業でも、「渋谷駅の構造について考える授業」「普段使う日本語について考える授業」など、日常のささいなことから学問をスタートさせる授業がたくさんあります。

東大に受かるとか、志望校にどうしても合格しようとか、そればっかりを考えていると、日常のささいな疑問を見落としがちです。中学生のほうが知的好奇心を持っていたりします。東大は、この問題を通して「きちんと身の回りから学ぼうとする姿勢」を試したのかもしれませんね。

東大輩出者ゼロの無名校のビリ(偏差値35)から東大合格を果たした筆者は、50年分の東大入試問題を分析しました。その結果わかったことは、「どんな人でも、頭がやわらかければ解ける」ということでした。極端な話、知識ゼロであっても、頭さえやわらかければ解ける問題がたくさんあったのです。

知識ばかりあっても現実の問題を解くことができない

一方、東大に次ぐ難関校である京都大学、また私学トップクラスの早稲田大学や慶應義塾大学では、知識がなくても解ける問題はあまり出題されていません。そのため、「東大は合格したけれど、早稲田大学や慶應義塾大学は不合格だった」「東大の問題は解けそうだったけど、京大の問題は難しくて解けなさそうだったから東大を目指した」と語る東大生も一定数存在しています。


なぜ、東大は知識量を問う問題ではなく、頭のやわらかさを問う、知識がなくても柔軟な発想さえあれば解くことのできる「へんな問題」を出題するのでしょうか。それは、知識ばかりあっても現実の問題を解くことができないから。高校で習う数学や物理をマスターしたところで、すばらしい建物を建てることはできません。

同じように、学んだことを現実社会に応用するためには、知識そのものではなく、知識をいかに運用するかのほうが重要なのです。

日本一の大学は、それを全国の受験生に伝えたくて、こういった問題を出題し続けているのではないかと私は考えています。