佐々木希がセックス依存症の妻を演じる、Huluオリジナル『雨が降ると君は優しい』(写真:HJホールディングス)

Netflix、Amazonプライム、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないだろうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

どのサービスに加入すべき?

正直なところ、ネット配信番組の内容がわかるだけでは、有料であるネット動画配信サービスの場合、加入のきっかけになりにくいのかもしれません。4月に入り、無料で視聴できる地上波の新番組が続々と始まっていますし、会員になるために、クレジットカード番号をいざ登録しようとすると、躊躇してしまうこともありそうです。

それに、どのプラットフォームを選んだらいいのか比較すればするほど、1つに絞りにくいのかもしれません。価格では配送特典の中で見放題サービスを受けることができるAmazonプライムがひとり勝ちですが、ジャンルが豊富なHulu、作品数では国内最大級のdTV、世界で圧倒的シェアを誇るNetflixにも惹かれます。

そんな「選びたいのに選べない」というときのカギはやはり、おカネを払ってまで見たくなる番組があるかどうかです。そして、「見たい作品が見つかる」きっかけになるのは、好奇心がくすぐられる理由があるとき。今回は、Huluオリジナル『雨が降ると君は優しい』(2017年9月配信開始)をご紹介します。

同作品は、2015年からクオリティ重視のオリジナルドラマ作品を製作し始めたHuluの中で、最も契約者の加入促進につながったものです。主演は玉山鉄二、その妻役が佐々木希。佐々木はこれまでのイメージを脱して大胆な濡れ場を見せ、「セックス依存症の妻」という難しい役どころを演じ切り、「女優としてのステージを上げた」とまで言われているほど。脚本家・野島伸司による「究極の試練の愛」をテーマにした野島ワールド全開のストーリー展開は、たとえ昼ドラを見る感覚で見始めたとしても、単なるエロ&ドロドロ系ドラマに終わりません。


玉山鉄二の「苦悩の表情」も見どころ(写真:HJホールディングス)

主な登場人物は、新婚夫婦の立木信夫(玉山鉄二)と立木彩(佐々木希)。「のぶちゃん」「あや」と見つめ合って呼び合う、幸せそうな仲の良い夫婦が実は問題を抱えています。性嗜好障害の1つ、「セックス依存症」から抜け出せずにいる妻の姿と、間近で苦悩する夫。この夫婦を取り巻く、奥菜恵、笛木優子、古谷一行、木村多江、陣内孝則ら実力派俳優陣が演じる役もそれぞれ酒や共依存など「心の闇」を持ち、愛と憎しみの波がゆっくり深く、叙情的に繰り返されていきます。切なく、奥深いドラマとして見応えがあります。

それにしても、佐々木の抜擢は意外性があるのかもしれません。昨年4月にお笑いコンビ「アンジャッシュ」の渡部建との結婚を発表し、奇しくも役と同じ新婚状態。結婚後の出演作品ということで、キャスティングする側としては話題作りになりますが、実際はどのような経緯で決定されたのでしょうか。Huluオリジナルドラマを製作統括する毛利忍エグゼクティブプロデューサーが当時のことを教えてくれました。

話題性を期待する以上にピンとくるものがあった

「難しい役なのでどなたにお願いするか、割と難航していたところ、キャスティング会議で佐々木希さんの名前が挙がり、結婚の話は知りませんでしたが、話題性を期待する以上にピンとくるものがありました。事務所もご本人も、女優としてちょうど次のステップを考えているタイミングなのではないかと思いました。オファーさせてもらったら早い段階でお返事をいただけたので、確信しました」(毛利氏)

劇中でも潔く、佐々木が際どい濡れ場のシーンを見せています。一方、役者陣の中で一番悩んでいたのは主演の玉山鉄二だといいます。キャリアを積んできた玉山でさえも「脚本を読んだ段階では、立木信夫の心理が理解できなかった」そうです。衣装合わせの時点になっても「どうしたらいいかわからない」と悩み、役作りのために長時間、制作陣と話し合ったという、そんなエピソードもあるほど。そんな過程を知ると、「玉山が作り出す苦悩の顔が特に女性視聴者から反響を得ている」という事実に納得させられます。見ればきっと、苦悩顔のバリエーションがこれほどにあるのかと、思い知らされることでしょう。

もともとこの作品は、野島氏が温めていた企画だったといいます。地上波も視野に入れていたそうですが、なぜHuluでドラマ化されることになったのでしょうか。

「今の地上波ではコンプライアンス的にも性依存症を扱うことは厳しい状況です。視聴率のうえでも民放を取り巻く環境では実現することが難しいと思います。ネット配信ドラマは、地上波では見ることができない作品を作ることが役割にありますから、日テレグループの制作会社アックスオンからこの企画が上がったとき、作るべきだと即決しました」(毛利氏)

20代女子も『高校教師』をHuluで視聴

『高校教師』や『人間・失格』(いずれもTBS)など1990年代に野島氏と多くのヒット作を一緒に作ってきた、アックスオン所属の松原浩プロデューサーが手掛けていますから、野島ブランドの引き出し方を知っている制作陣によるドラマであることも興味深いところです。

40〜50代の野島作品ファン必見の作品であることは間違いないのですが、20代女性にも人気を得ているそうです。5話ぐらいまで劇的な展開は見せず、ゆっくりとしたペースで進み、今どきのダンスやグルメといった演出なども一切ありません。懐かしさを感じる昭和的な作風とも言えるのですが、意外にも若い世代にも刺さっています。

「企画から『高校教師』や『聖者の行進』『未成年』が好きだった世代の男女に向けて作っています。宣伝についても、当初は野島世代に向けて集中させるプランでしたが、それが一変したのはHulu内で野島先生の過去作品が20代女性にも視聴されていることがわかったからです。これは発見でした。出演者に佐々木希さんがいたことにより、支持を集めるF1層(20〜34歳の女性)をターゲットに宣伝を打ったほうが効果的なのではと戦略を変えました。まずは若い女性に視聴してもらい、そこから幅広い層に広げていくことで成功する方法は、これまで地上波のドラマで立証されています」(毛利氏)

幅広い世代で共有できるドラマが少なくなってしまっている今、話のきっかけを作るうってつけの作品です。「愛を語るうえで、一番の障害は何かと考えたときに、理解し難くハードルの高いセックス依存症にした」という野島氏の言葉を解説できるのは、経験を積み重ねている野島世代のみがなせる業です。リリースからワンテンポ遅れても、『雨が降ると君は優しい』語りを野島世代がリードできるでしょう。Huluで全話配信中です。これから見始めても決して遅くはありません。