ユヌス・よしもとソーシャルアクション

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 NHK連続テレビ小説『わろてんか』が3月31日で最終話を迎え、期間平均視聴率20.1%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)を記録したが、モデルとなった吉本興業の事業は、まさにこれから新しい展開を目指して進んでいく。

 3月28日には日本外国特派員協会でノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏などと共に、「笑い」を起爆剤に「ソーシャルアクション」(社会的活動)に力を入れていくことを改めて明らかにした。今年2月には「ユヌス・よしもとソーシャルアクション(yySA)」を立ち上げ、社長には小林ゆか氏が就任し、スタートアップ(新しいビジネスモデルを模索するベンチャー企業)の支援などにも乗り出している。会見でユヌス氏は「芸人には人の心に直接訴えるパワーや、地域と一緒に物事をより良い方向へ持っていく能力がある。知識を生かして社会問題に貢献することが重要で、私は応援役として世界に発信したい」と抱負を語った。小林社長も「ソーシャルビジネスをお茶の間に届け、カルチャーにしたい。起業する人だけでなく、主婦やOL、おっちゃんやおばちゃんもユヌスファミリーにしていきます」と自信をのぞかせる。

 ソーシャルアクションの先駆けとなったのが、所属タレントを全国47都道府県に移住させて現地の人気者にするという「あなたの街に“住みます”プロジェクト」だ。2009年4月1日に社長に就任した大崎洋氏が「エリア」「デジタル」「アジア」に力を入れており、「全国住みますプロジェクト」は11年4月にスタートしたものだ。

 同プロジェクトをスタートした経緯について、吉本取締役でエリアプロジェクト統括担当の泉正隆氏は次にように語る。

「弊社には6000人の芸人がおりまして、そのほとんどが東京や大阪に集まっています。特に東京には、多くのメディアが集中しているため、人気者になろうと全国各地から集まっています。しかし人気者になれるのはほんの一握りで、ほとんどの芸人は生活のためにアルバイトをしながら劇場などに出演しています。そんななかで当社社長の大崎が11年に、東京の一極集中と若者の地方離れの問題を少しでも解決したいと始めたのが、このプロジェクトだったのです。東京で活躍できる場がなくても十分に人を笑わせる能力があり、地元をもっと元気にしたいという意欲のある若手芸人たちを選んで移住させて、UターンやIターンの促進や地域振興の旗頭として『笑いの力』で地域に貢献するのが目的です」

 東京ではあまり知られていなくても、地元でライブをやれば1万人を集めることができるような“住みます芸人”もいるという。さらに活動は地元での芸能活動だけでなく、お祭りの手伝いから雪かきまで地元に貢献できることを考えて取り組んできたという。地域への社会貢献から始めていくということから、この事業は当初、全然儲からなかった。それでも企業などへのアプローチを続けていくと、黒字化に転じていったという。

「スタートから7年間、47都道府県に派遣し、現在は121人の住みます芸人が活躍し、これまでに700以上の地域活性化事業を実施してきました」(泉氏)

 また3年前からは日本だけでなく、タイやインドネシアなど6つの国やエリアで“住みます芸人”が活動している。

●日本、アジアに貢献
 
 こうした吉本の取り組みに大きな関心を示したのが経済学者で実業家のユヌス氏だった。ユヌス氏はバングラデシュの首都ダッカでグラミン銀行を設立。「グラミン」とは「村」という単語に由来し、ユヌス氏は貧困層の農民や個人事業者に低金利の融資を行い支えることで貧困から脱出させる、「マイクロ・クレジット」を生み出した立志伝中の人物。脱貧困に向けて社会インフラの整備やベンチャー育成のためにインフラ、通信、エネルギー事業など、さまざまな事業に対しても出資し、事業全体は「グラミンファミリー」と呼ばれている。そうした取り組みが評価され、ノーベル平和賞を受賞した。

「小林ゆか氏が昨年12月、大崎社長にユヌス氏を紹介したのがきっかけでした。ユヌス氏も吉本のやってきたエリアプロジェクトに非常に関心を持ち、事業提携することになったのです」(吉本広報担当者)

 そこで誕生したのがyySAだ。同社の事業は、各地で活動する“住みます芸人”たちとベンチャー企業に手を組ませ、地域の課題などを解決していくというものだ。さらに「ユヌス・ソーシャルビジネス」を育成・支援する企業に資金提供するために、「yySAファンド」を3月に設立したという。すでに“住みます芸人”たちからは50以上の課題が上がってきているという。そのなかで特に多かったのが「高齢化問題」「商店街などの過疎化問題」「人手不足問題」で、提携しているスタートアップ企業からさまざまな提案があったという。

「吉本はこれまで笑いの力で地域の魅力発信、観光PR、地域雇用の増加など地域活性化に取り組んできましたが、yySAをスタートすることによって今後は地域だけでなく、社会問題の解決事業を行って、これまで以上に地域に寄り添って日本、アジアのお役に立っていきたいと思います」(泉氏)

「笑い」を起爆剤にした吉本興業の多角化経営と社会貢献。世界でもおそらく初めてであろう試みに、どんな成果が期待できるのか。大いに注目したい。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)