ニュースパブリッシャーはこれまで、編集記事のパーソナライゼーションに懐疑的だった。だが、ロイヤルティを指標としてサブスクリプション収益の拡大を目指すなか、彼らはパーソナライゼーション機能を新たな観点で見つめはじめている。

ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は、読者がいる場所や読んでいるコンテンツといった情報に基づいてページの内容を変えるパーソナライゼーション機能のテストを検討している。ボストン・グローブ(The Boston Globe)は、マーケティング戦略と編集記事の両方を読者に合わせてカスタマイズできるパーソナライゼーション技術を利用しはじめた。サンフランシスコ・クロニクル(San Francisco Chronicle)などを発行するハースト・ニュースペーパーズ(Hearst Newspapers)は、Googleの自然言語処理ツールを利用して記事を分類し、読者に合わせて記事をカスタマイズできるようにした。

このような戦略の狙いは、たまにしかやって来ない読者を忠誠心の高いユーザーに変える機会を増やし、彼らが有料読者になる可能性を高めることにある。

デジタルプライバシーという敏感な問題に関わってくるため、多くのパブリッシャーはこうした戦略についてあまり語ろうとしない。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト(The Washington Post)といったパブリッシャーの幹部は、この件へのコメントを拒否している。

否定された過去



「結局のところ、この種の取り組みは、読者にも広告主にも評価してもらえるコンテンツや体験を提供することに尽きる」というのは、ブルームバーグメディア(Bloomberg Media)のデジタル部門でプロダクト責任者を務めるジュリア・ベイザー氏だ。同氏は、2018年に最優先すべき取り組みのひとつとしてパーソナライゼーションを挙げている。「我々にとって、このテクノロジーを利用することは必須だ。もちろん、責任ある形で利用する必要がある」とベイザー氏は語った。

パーソナライゼーションにはふたつの種類がある。ユーザーが自分の読みたいニュースの種類を選ぶ能動的なパーソナライゼーションと、バックグラウンドで選択が行われる受動的なパーソナライゼーションだ。後者はたいてい、おすすめ記事という形で表示される。

こうした戦略は、何年も前からメディア企業の救世主になるといわれてきた。だが、ハーストマガジンデジタルメディア(Hearst Magazines Digital Media)のSFゲート(SFGate)や、ザ・デイリー・ビースト・カンパニー(The Daily Beast Company)といったニュースパブリッシャーは、この手の取り組みを縮小している。

その背景のひとつが、読者からの否定的な反応だ。たとえば、2017年の春、ニューヨーク・タイムズでパブリックエディターを務めるリズ・スペイド氏は、パーソナライゼーションプロジェクトを夏に立ち上げることを発表した。すると、読者から「気味が悪い」とか「不安を抱かせる」といった反応が寄せられたのだ。

新視点の導入方法



それでも、一部のパブリッシャーは、パーソナライゼーションが消費者からの収益を拡大する鍵になると考えている。

ハースト・ニュースペーパーズは、サイトを訪れる読者のデータベースを構築した。目的は、読者に合ったサブスクリプション製品を提供して、リターゲティングを行うことだ。ボストン・グローブは、読者を再エンゲージするためにパーソナライゼーションを利用している。紙媒体以外の価値を高めることで、読者離れを減らし、購読料を引き上げたいと、ボストン・グローブの最高収益責任者、ピーター・ドゥセット氏は語っている。

出版社のボニアー(Bonnier Corp.)で最高業務責任者を務めるデイビッド・リチー氏によると、多数の専門誌を発行している同社は、消費者から収益を得る取り組みの一環として、サイトのポートフォリオ管理をワシントン・ポストのコンテンツ管理システム「アーク・パブリッシング(Arc Publishing)」に移管したという。このシステムには、「クラビス(Clavis)」と呼ばれるパーソナライゼーション機能が搭載されている。

ただし、パブリッシャーがパーソナライゼーションに惹かれる理由は、この技術をコンテンツのターゲティングに利用すれば、広告のターゲティングにも利用できるようになるからだ。もちろん、順番はその逆でもかまわない。たとえば、ベイザー氏が所属するブルームバーグのデジタル部門は、広告を読者に合わせてカスタマイズできる「トリガー(Trigr)」と呼ばれる製品を、編集記事に活用する方法を模索している。

希望を見出す媒体社



今後、すべてのニュースパブリッシャーがパーソナライゼーションに注力するとは限らない。多くの企業は、パーソナライゼーション機能の導入を慎重に進めていくだろう。トロンク(Tronc)の元会長、マイケル・フェロ氏は2年前、パーソナライゼーション機能をトロンク傘下のメディアに導入すると発表した。だが、それを実行したメディアはロサンゼルス・タイムズ(The Los Angeles Times)のみで、その後トロンクは、同紙を5億ドル(約530億円)で売却している。

それでも、ニューヨーク・タイムズなどのパブリッシャーは、パーソナライゼーションに希望を見出している。「我々は、読者について知り得た情報に応じて、それぞれの読者に合った記事を提供する必要がある」と、NYTグローバル(NYT Global)でアソシエートマネージングエディターを務めるジョディ・ルドレン氏は語った。NYTグローバルはニューヨーク・タイムズの戦略グループで、国外オーディエンスを拡大する取り組みを担っている。

Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)