エージェンシーやマーケターはいま、サードパーティデータを閉め出すというFacebookの最新動向を理解するのに苦労している。

ホライゾン・メディア(Horizon Media)の最高デジタル責任者であるドニー・ウィリアムズ氏は「12時間、てんてこ舞いだ」と語る。ホライゾンは、「これは大きな問題なのか?」「うちは対応できているのか?」「キャンペーンをやっているが、それはどうなるのか?」などのクライアントからの問い合わせに対応している。

Facebookは2018年3月28日(米国時間)、ブランドがサードパーティデータを利用して広告を配信できるようにする「パートナー・カテゴリー(Partner Categories)」を終了し、広告ターゲティングの提供を取りやめた。パートナー・カテゴリーは、エプシロン(Epsilon)やアクシオム(Acxiom)のようなデータ企業との提携を通じて実現されたもので、Facebook以外の場所での行動をベースに広告業者が顧客をターゲット化できるようにするものだ。

この動きは、Facebook自身が持つユーザーデータやブランドが持つユーザーデータの使用には影響しない。Facebookは、依然として素晴らしいユーザーデータを保有していると述べており、その力があれば、広告業者もついてくるだろう。

波紋をなげかける新基準



この動きがマーケティング全体にもたらす影響についてのマニュアルの原案を用意したホライゾン・メディアのウィリアムズ氏は、自身の推計をもとに、マーケターから相当な額の投資がデータ収集会社に向けて流れていたと語っている。Facebookは、会話のなかでは比較的「保守的」であり、そのためメディア投資は10〜15%だとウィリアムズ氏は見積もっている。現実はもっと多いだろう。

さまざまな種類のビジネスのあらゆるマーケターが、目の前にいる新しい見込み客を獲得するためにサードパーティデータを主に利用している。マーケティング予算の分け前にあずかることを皆が期待している。アクシオムのようなデータブローカーにとって、この変更は明らかに悪いニュースだ。アクシオムの株価は、市場全体としては値上がりした日に、1日で19%下がった。そこで思ったのだが、Facebookは業界全体に波紋を投げかける新基準を作ろうとしている。問題は、ほかのプラットフォームがこれに追随して、たくさんのリソースを投じて自身のデータ操作を増強するよう各ブランドに強いるようになるかどうかだ。

バイヤーたちは、Facebookの動きに影響をされそうな業界カテゴリーがいくつかあると信じている。エンターテインメント界のマーケターは打撃を受けそうだと、複数のエージェンシーはいう。Netflix(ネットフリックス)のようなスタジオや企業は通常、サードパーティデータを大量に利用して新しい提供物を市場に出す。スタジオは、ファーストパーティデータを重要視していないので、それを持っていないとウィリアムズ氏は述べる。

影響を受けやすいCPG



過去数年、プロクター・アンド・ギャンブル(以下、P&G)のような大手日用品企業は、高度にターゲット化された広告からマスリーチに焦点を変更してきた。正確にターゲット化された小さな顧客群のために広告を買うことは割高であり、マス向けの広告購入でも結果が同じであることにP&Gが気づいたからだ。

消費財(CPG)企業がサードパーティデータをまったく利用していないということではない。匿名希望の大手アドバイヤーは、製品は最終的には小売りされるものなので、小売業のクライアントだけでなくCPG企業もすべてサードパーティデータに依存している、と話す。多くの場合、そうした企業はサードパーティデータを利用してターゲット広告の取り組みを強化している。たとえばある企業は、特定のデモグラフィックをターゲットにするために、動画視聴完了に関するデータのうえに購入者データを重ねたいというかもしれない。マーケターは、購入者自身についてのデータは保有していない。

もうひとつ留意すべきは、P&Gをはじめ、正確なターゲティングを最小限にしようとしているほかの企業も、サードパーティデータの利用を完全にやめるとは言っていないことだと別のバイヤーは話す。「これらの企業は、消費者に対して一対一のアプローチをするマーケティングはしないといっているだけだ。彼らはシーケンシャル(連続的)なカスタマージャーニーを考えていて、そこにはこうした種類の階層化されたデータが含まれることが多い」。

自動車メーカーにも影響大



影響を受けそうなもうひとつの業界カテゴリーは自動車だ。メーカーはサードパーティデータにさほど依存していないが、ディーラーは強く依存している。あるバイヤーは、自動車業界のようなケースでは、Facebookも、たとえば車のリースに関するデータは持っていない。「あなたについてFacebookがどんなデータを持っているかが重要だ。いくつかのカテゴリーでは、彼らが持っていないデータがある」と話す。

「気になる点は、これがFacebookへの投資の総額にどう影響するかだ。私の感覚では、パフォーマンスが危険に晒されるかどうかを見極めるために、ブランドが一部の予算を引き上げるので、短期的には投資は影響を受けるだろう」と、ウィリアムズ氏はいう。長期的には、このシフトはFacebookにとってプラスに働き、各ブランドもFacebookのそれぞれのプラットフォーム上で、どのようなポートフォリオにすればうまくいくかを理解するようになるだろう、と同氏は語る。

別のバイヤーは、クライアントはファーストパーティデータをより多く活用するか、それを手に入れるためのリソースを確立しようとするだろう、という。彼はさらに、グレーな領域がいくつかあるとも話す。ファーストパーティデータを持つパブリッシャーがブランドと手を組んで、サードパーティデータによって作り出されたFacebookのオーディエンスとシェアすることでメッセージを増大させたらどうなるか? このバイヤーは、Facebookにこの質問を投げかけたが、明確な回答はまだ得られていないという。

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それと関連して、Facebookが「管理されたカスタムオーディエンス(managed Custom Audiences)」と呼んでいるものがどうなるかという問題がある。カスタムオーディエンスとは、データプロバイダによってアップロードされ、広告業者やエージェンシーと共有されているオーディエンス層だ。Facebookがエージェンシーに送付した書簡によると、Facebookは今後、アップロードしているオーディエンスに対して、そのオーディエンスがデータプロバイダでなくブランドが提供するファーストパーティデータだけを利用して構築されていることを確認することを義務づけることになるだろう。

Facebookの動きがTwitterやスナップ(Snap)などのプラットフォームに同様の動きをするよう圧力をかけることになるかどうか、という疑問もある。調査会社ピボタル(Pivotal)のアナリスト、ブライアン・ウィーザー氏は「ガーディアン(The Guardian)」の記事で、この動きは、広告ではサードパーティデータの使用が必須となっているGoogleとの違いを際立たせるものになり得ると書いた。スナップの広報担当者は、同社はオーディエンスデータのパートナーを支援しており、プライバシー保護に準拠したデータを提供していると述べている。

Facebookに関しては、同社がユーザーのプロファイルデータをケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)に渡していたことを含め、最近立て続けに起こった悪い報道とこの動きが結びついていることは明かだ(あるエージェンシーはクライアントから特に、このふたつは関連しているのか、もっと情報はないか、という問い合わせを受けたようだ)。

パートナー・カテゴリーの終了はプライバシーの向上を意図したものだが、特に 欧州の「一般データ保護規則(General Data Protection Regulation)」の施行が2018年5月25日に迫るなかで、Facebookにそのつもりがないとしても、不適切なデータ収集に関する問題をごまかすためのFacebookによる方策だと考えるものがアドバイヤーのなかにはいる。「彼らの見方では、たとえ裁判所が何も言わなくても、世論が下す判断が(Facebookを)巻き込んでいくことになるだろう」と、あるアドバイヤーは述べた。

Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)