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何度チャレンジしてもうまくいかない。そういう人は自分自身を客観視する「メタ認知」の能力が低いのかもしれません。脳科学者の茂木健一郎氏は「自分の限界を超えて大きなことを成し遂げられる人は、ほぼ例外なくメタ認知能力が高い」といいます。では、どうすればメタ認知能力を伸ばすことができるのでしょうか。茂木氏がすすめる「アクター・クリティック法」とは――。

※本稿は、『脳のリミットのはずし方』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

■何度チャレンジしても、うまくいかない理由

自分の限界を超えてチャレンジしているが、なぜか失敗ばかりしている人がいると思います。

どうすれば成功できるのかを知るためには、常に自分と対話をしながら自己確認することも、重要になってきます。

「何度チャレンジしても、うまくいかない……」

そんな経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。

もしかしたら、自分自身を客観視する能力が低いのかもしれません。

自分自身を客観視する能力のことを、「メタ認知」といいます。

このメタ認知能力を上げていくことで、脳リミットをはずせるようになってきます。

私はよく、このメタ認知を「鏡に映る自分をどう認識できているか」という言葉を用いて説明しています。

もっとわかりやすくいえば、自分の現状をあたかも外から見ているかのように客観的に観察する能力ということです。

自分の限界を超えて大きなことを成し遂げられる人は、ほぼ例外なくメタ認知能力が高く、感情に振り回されずに現実の自分と理想の自分のギャップを冷静に把握し、自分の欠点や課題を見いだすことができる人なのです。

■メタ認知能力が高い人・低い人

では、メタ認知能力が高い人と低い人では、いったいどれほどの差が生まれてしまうのでしょうか。

メタ認知能力が高い人には、以下のような3つの特徴が挙げられます。

(1)客観的な視点で自分に可能かどうかを判断できる
(2)自分に足りない能力を見極められる
(3)自分の失敗を肯定でき、反省と改善を実践できる

このように、自分自身をしっかりと客観視できる人が、メタ認知能力が高い人です。

一方で、メタ認知能力が低い人の特徴として挙げられるのは、「自分の能力を冷静に把握できない」ということになります。

言いかえれば、自分の意見や考えていることは常に正しく、自分には間違いはないと疑わない、自己中心的な考え方の持ち主です。

自分の能力をついつい過大評価してしまう場合や、それを裏付ける確固たる根拠に乏しい場合もこれに該当します。

自分の能力に対する認識と現実にずれが生じているときでも、自分を客観視できないので、たとえ何かにチャレンジして失敗しても、そこから成功するための軌道修正がうまくいきません。

このメタ認知能力を常に働かせることができるようになれば、いま自分がチャレンジしていることについて、「第三者的な目」で分析できるようになってきます。これが脳リミットをはずすきっかけとなるのです。

では、どのように自分を客観視して、同じ失敗を繰り返さないように自分をコントロールすればいいのか。

そのためには、自分の考え方や行動に対する「良質なトライ&エラー」を繰り返すことです。

ここで大事なのは、何度失敗しても、失敗から学んだことを次に生かして、何度でもやり直してみること。これはいわば、「ほろ苦い自己確認」ともいえます。

そのためには、日頃からこのメタ認知を意識しながら、自己モニタリングをおこない、「自分に足りないものは何か」、「何をどう軌道修正するべきか」を自分でしっかりと考えながら、「いまここ」という、目の前のことに集中していくのが重要なのです。

■能力の低い人ほど、自分を過大評価する

自分の限界を超えてチャレンジするための自己モニタリングをおこない、自分に足りないものは何なのかを客観視する能力が、「メタ認知」だと述べました。

耳が痛い話かもしれませんが、実はこのメタ認知能力が低い人ほど、自分の能力を過大評価しやすいという特徴があることは先ほどもお話ししました。

この点について、もう少しだけ深掘りしていきたいと思います。

アメリカのコーネル大学で、デビッド・ダニング博士とジャスティン・クルーガー博士は、どのような人が正しく自己評価でき、またどのような人が自己評価を誤る傾向があるのかという研究をしました。

この研究は、ふたりの博士の名前から「ダニング=クルーガー効果」と名づられたのですが、このダニング=クルーガー効果は次のように説明できます。

(1)能力の低い人は自分のレベルを正しく評価できない
(2)能力の低い人は他人のスキルも正しく評価できない
(3)よって、能力の低い人は自分を過大評価する

例えば、ある試験のあとに、自分がどの程度の成績かを評価させる実験がおこなわれました。

すると、下位4分の1にいる人は「かなりできたので上位を狙える」と答え、上位にいる人ほど「もっと成績を上げる努力が必要」と謙虚な答えが返ってきたのです。これがまさに、ダニング=クルーガー効果の好例であり、脳が持つ特定の思考癖を表しています。

ダニング=クルーガー効果にみられる、自己評価を誤る思考癖は、脳リミットをはずして自分の限界を超えるためにはマイナスになることは、もはやいうまでもありません。なぜなら、こうした思考癖は、脳の判断ミスを無意識のうちに誘発するからです。

はっきりとした意図を持たず、反射的な思考をして勘違いをしてしまい、ふとしたところで判断を誤ったり、自分の実力が伴わない極めて無謀なチャレンジをしてしまいかねないのです。

私の経験からいっても、脳リミットをはずしてチャレンジを成功させる人ほど、自分の実力を過大評価せず、常に謙虚な人が多いようです。

■重要な脳の強化学習モデル「アクター・クリティック法」

そこで、自分の能力をしっかり評価するための、とっておきの方法を紹介しましょう。

いま、脳科学の世界で重要な脳の強化学習モデルといわれている、「アクター・クリティック法」というものです。

アクターとは、「行為者」、クリティックとは「批判者」という意味です。つまり、自分のなかに行為者と批判者というふたつの役割を持って自己認識をすることで、自分の能力を見誤ることなく、チャレンジできるのです。

では、なぜこのアクター・クリティック法を通して自分の限界を超えることができるのか。ここで、私自身を例として、もう少しわかりやすく説明してみましょう。

脳科学を研究する、あるいは原稿を執筆するといった行為者としての茂木健一郎が存在しています。

その行為に対して、冷静に自分を批判する茂木健一郎がいるとします。正確にいえば、批判というよりも「評価する」といったほうが正しいかもしれません。

すると、アクターな自分とクリティックな自分のせめぎ合いによって、自分の思考や行動に対してしっかりと「ダメ出し」ができるようになるのです。

■自分にダメ出しができる人こそ、自分の限界を超える!

私たちは時に、つい自分に甘い評価をしてしまいがちです。ですが、自分にダメ出しができる人こそが、自分の限界を超えることができる人なのです。

たしかに、自分に対してダメ出しすることは、自分を否定することでもあるので勇気がいるかもしれません。あるいは、

「アクター・クリティック法? なんだか難しそうだな……」

そう思った人もいるかもしれませんが、安心してください!

というのも、アクター・クリティック法は例外なく、誰もが実践できる脳のトレーニングだからです。

何かのチャレンジにおいて、人それぞれ能力や方法は違っても、自分の考えや行動を演じる自分と、それをしっかりと評価する自分によって、冷静な自己認識力を磨くと、目標をしっかりと定め、その目標に向かって無駄なく行動できるようになります。

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茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者。1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『すべての悩みは脳がつくり出す』(ワニブックスPLUS新書)など著書多数。新著『脳リミットのはずし方』。

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(脳科学者 茂木 健一郎 写真=iStock.com イラスト=ohtani masatoshi)