「却下される理由」をどうやって潰したらいいでしょうか?(写真:itakayuki/iStock)

営業はもちろんのこと、社内企画や業務改善であっても、仕事にまつわるさまざまな「提案」は承認されてこそ意味があります。却下されるのは、つまり「その提案を受け入れても、メリットがないよね」と相手が判断するということです。そして、価値がないと受け止められ、実行に移すことができなくなった瞬間に、その提案はただの「机上の空論」になってしまいます。

では、限りなく100%に近い確率で提案を承認してもらうためには、どうしたらいいでしょうか?

「相手が却下する理由」を考える

拙著『どんな会社でも結果を出せる! 最強の「仕事の型」』でも詳しく解説していますが、結論から言えば、「相手が却下する理由」をなくせば、提案は通ります。「なんだ」と思われるかもしれません。まさに「卵が先か、ニワトリが先か」のような話ですが、「どうやったら承認してもらえるか」を考えるよりも、「却下されるとしたら理由は何か、どうやったらその理由を潰すことができるか」と考えるほうが、提案をブラッシュアップする方策が具体的になるのです。

では、どうやったら「相手が却下する理由」を正確に予測することができるでしょうか。そのときの視点は次の2つです。

・視点1 相手のことを徹底的に知ること

・視点2 「相手によくなってもらいたい」という動機を忘れないこと

これも当たり前といえば当たり前の話ですが、意外とこれらを確実に実行できている事例は少ないように思います。

まずは視点1の「相手のことを徹底的に知ること」から解説しましょう。これは大きく分けると「ゴールを設定する」と「正確な情報を数多く集める」という2つのステップで進めます。

提案するにあたって、「相手のことを徹底的に調べる」のは基本中の基本です。ただ、何を調べればいいのでしょうか? もちろん、会社の状況のみならず、提案相手が個人的に興味・関心を持っている事項を調べ、話題を合わせるといった、地道な活動は当然ながら重要です。その中でも、「何のために調べるのか?」と問われれば、私は「相手が直面している問題の本質をつかむため」と答えます。

たとえば、提案相手の担当者が考えているゴールが、本来、先方の会社が目指したいこととずれている場合、客観的な立場だと意外とそれを発見できたりします。というのも、どんなに仕事ができる人でも、どうしても「日々接している問題や状況」に思考や感情が引っ張られがちだからです。

そうした中でゴール設定をしても、なかなかうまくいきません。そして、ゴール設定が間違っていれば、そもそも捉えている「課題」もずれている可能性があります。つまり、そのまま課題解決に取り組んでも、(すべてがムダとはならないでしょうが)骨折り損になる可能性が高いのです。これは、提案する側であるわれわれの「介在する価値」がある状況とも言えます。

「2つのゴール」を考えてみる

そもそも、提案したい相手が言っている「目指したいこと」=ゴールには、それが達成されたことで、さらに達成される「より大きなゴール」があるはずです。それは、全社経営戦略や会社のミッションなどから規定されているものかもしれません。「より大きなゴール」から逆算したときに、いま目指そうとしている「小さなゴール」は、本当に目指すべき「経過地点」なのかを考えるのが重要だということです。

とはいえ、ビジネス経験豊富な方ならまだしも、逆算して「経過地点」を設定することは、そう簡単にはできません。では、具体的にどうしたらよいのでしょうか?

まず取り組むべきなのは、「いま目指しているゴールが達成されると何が起こるのか」について、想像を膨らませ、論理的に考えることです。すると、本来目指すべきゴールとの「差」が出てきます。この「差」の発生要因は何か、さまざまな原因を調べたり、考えたりしてみると、目指すべき「小さなゴール」の存在が見えてくることが多いのです。

「なんでも君の自由にしていいよ」と言われるよりも、「〇〇な条件だけど、△△したい」と制約があるほうがアイデアは出やすいもの。上記のやり方は、これと似たアプローチとも言えます。ゴールを達成するあらゆる手段を考えるよりも、まずは現状の目標を一度受け止めたうえで、その「差分」を考えるほうが、アイデアの「とっかかり」はつかみやすいのです。

このアプローチ方法さえ覚えれば、あとは、相手が置かれている状況・業界全体の動向・従業員の心理などに関する正確な情報を、できるだけたくさん集めてみるだけです。

「お客さまの言うことは信用するな」という先輩の教え

情報収集や調査のために、多くの場合、提案相手へのインタビューや面談を行うと思います。その際には、相手のペースに引き込まれて主観にのみ込まれないように、努めて冷静に聞くことが重要です。相手の担当者は、目先にある問題をなんとかしたいと躍起になっているため、「想い」も強いもの。そこに自分も感情移入してしまうと、相手と同じ発想になりがちで、「相談相手」としての価値は薄くなってしまいます。

私が新卒で入社したコンサルティング会社の野村総合研究所で、そういった状態に陥らないように先輩からよく言われたのが、「お客さまが言っていることを信用するな」という言葉でした。

インタビューをする前に「相手がゴールだと思っていることは本当か?」「その課題は本当に最優先か?」という「疑い」を持って聞くと同時に、そのうえで自分なりの「本当はこうじゃないか?」という仮説を立てるのです。ただし、「疑う」といっても、「相手を下に見る」「頭から信用しない」という意味ではもちろんありません。問題の当事者の視点だけでは見えないアイデアを柔軟に生み出すために、こちらは意識して「クールな視点・立場」を保つということです。

そうした立場を保つうえで大事なポイントは、「この産業はどういう競争環境に置かれていて、その中でこの会社はどういう立ち位置なのか」ということを理解するための情報を集めることです。ここに「より大きなゴール」の源泉があることが多いからです。

相手の情報を正しく集め、自分のことのように理解する。そうして初めて、相手が抱えている問題の重要性や緊急度が理解できます。すると、「的外れな提案」をすることがなくなり、それが「却下される理由」を減らすことになるのです。ただ、これらは論理的に考えると「正しい提案」になるので、提案としての価値はありますが、提案を受け入れる相手にとって「われわれと一緒にやる理由」までにはなりません。

そこで、記事冒頭にお話しした、「相手が却下する理由」を予測する視点の2番目、「『相手によくなってもらいたい』という動機を忘れないこと」が大事になってきます。

そもそもなぜ、提案をするのか?

そもそも、なぜわれわれは提案をするのでしょうか? もちろん会社である以上、売り上げを上げなければいけませんが、それがすべての目的ではありません。

たとえば、提案が承認されることで得る喜びはなんでしょうか? それは、「相手の問題が解消できて」「いまよりもよくなり」「ありがとうと言われる」ことであるはずです。こういった喜びこそ、提案をするわれわれの根源的な「想い」になるのではないでしょうか。

先ほどのようにクールな視点からお客さまの課題を浮き彫りにしていくことは可能です。しかし、それだけでは往々にして「相手によくなってもらいたい」という「提案(仕事)の本質」が置き去りにされてしまうのです。仕事とは、誰かが編み出したフレームワークに事実を当てはめるというような、クールで合理的な側面だけで完結するものではありません。「よくなってもらいたい」という提案者の想いが相手に伝わったときに、初めて提案に命が吹き込まれます。


仕事においては、「提案」は多くの場合、ものごとの始まりです。提案後に始まる「業務」や「プロジェクト」といった新しい仕事の起点なのです。その段階で必要になるのが、「これならやれるね」「結果が出そうだね」という成功のイメージです。つまり、提案の段階で、相手の組織全体にそういう空気感をつくってあげることが重要なのです。

そのためには、提案者自身が「こうすれば、必ずよくなる」という確信を持っていなければなりません。そして、想定できる障害を一つひとつ挙げて、「こうなった場合には、こうすれば解決できます」と対処策もそれぞれ説明し、成功の「絵姿」を具体的に見せるのです。その上で相手に「これならできそうだね」と信じてもらうためには、確信をストレートに伝えるのがいちばんの近道です。

それが「却下する理由」を潰すということです。プロジェクトは、いったん動き出せば、勢いがついて勝手に回り始めます。提案とは、「動かない車輪を転がす、最初のひと押し」です。それは人の心を動かすことでもあります。「よし、やってみるか!」と相手の腰を上げさせ、メンバーに一歩を踏み出させる。そのときに唯一の強力な武器となるのが、提案者の「想い」なのです。