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●1年で219人分の労働力を守る「宅配ボックス」

世界に名だたる観光都市の京都市。だが同時に、京都市は39の大学・短大が集まる「大学の街」でもある。少子高齢化の中、京都市の0歳〜17歳までの人口比率は各歳0.7〜0.8%にとどまるが、18歳〜22歳までは1.1〜1.4%まで上がり(2015年国勢調査データより)、実に15万人が在学しているという。東京大学に並ぶ京都大学に加え、同志社大学や立命館大学といった西の私立名門校も多く京都にあることも一因だろう。

大学生はある意味で社会人以上に忙しい。勉強にスポーツ、サークル、アルバイト、インターン、社会人を"卒業"するまでのおよそ50年間、最後の"夏休み"としてやりたいことをやれる時期だけに、家にいないという学生も多い。一方で、学生世代はその殆どがスマホネイティブ世代。スマートフォンでECサイトを利用することに障壁はなく、当たり前の環境だ。

ただ、ECの拡大による物流の破綻は社会問題化している。改めて説明するまでもないだろうが、ヤマト運輸が社員の業務環境の是正のために配達指定時間の組み換えや値上げを実施したほか、ヤマト運輸の人手不足対策に合わせた賃金引き上げに伴って、競合他社も賃金の見直しの波が押し寄せるとも言われている。

物流にしわ寄せがきた最大の要因は、再配達問題だ。国土交通省が2014年に行ったサンプル調査では、宅配便の個数のおよそ2割が再配達となっている。しかもこの数字、全宅配物における数字であり、法人受け取りなど受け取り率が高いものも含めた総数になっている。つまり、一般家庭における再配達率はさらに高い。

○再配達率を減らすために

京都市とパナソニック、京都産業大学の三者と、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の三社が昨年11月から今年の1月末まで、「京(みやこ)の再配達を減らそう」プロジェクトを行った。このプロジェクトでは、京都産業大学の学生や教職員らの協力のもと、再配達問題の解消に向けて実証実験した。

プロジェクトでは、宅配ボックスをアパートや大学に設置。再配達率の低下や、それに伴う環境負荷の軽減がどの程度見込めるかを調査した。前述の一般家庭における再配達率では、大学生中心ということもあり、アンケート回答によれば43%にも達していた(推計値)。

宅配ボックスは、一般的な日用品が複数個詰まった程度のEC宅配ダンボールであれば入る程度の大きさ。近年、新築マンションの多くは宅配ボックスを設置しているが、「アパートでは1〜2割行くかどうか」(不動産管理会社担当者)。アパートは設置スペースに余裕がなく、結果として再配達率が高止まりしてしまうようだ。

実証実験では、宅配ボックスを設置したことで、再配達率が15%まで激減。アンケート協力者11名の21日累計、サンプル数117個の結果とは言え、33回もの再配達を削減できたことは大きな成果といえよう。ただしこの数字にはまだ課題がある。

残りの15%、18回の再配達結果のうち、半数の9回が「(荷物が)大きいため」という理由で再配達となっていた。これについてパナソニック エコソリューションズ社 外廻りシステムビジネスユニット 外廻り設備商品推進部 部長の中島 裕章氏は、「今回の製品は"ハーフタイプ"。ミドルタイプの製品も拡充することで、大型製品も拡充したい」と語る。仮に、このミドルタイプを設置していた場合、9回の大型荷物を収納できていたと仮定して「8%まで減らせたのではないか」(中島氏)。

パナソニックは、これまで福井県あわら市で戸建住宅における再配達問題解決のための実証実験を行っていた。こちらではミドルタイプをすでに提供しており、実際に再配達率も8%と、ミドルタイプ投入時の仮定と同じ結果を示している。実際には、アパート向け製品は他の住人と共有ボックスとなるため、実験結果にもあった再配達理由の「ボックスがいっぱい」というケースから幾分の数字の上振れはあるだろう。

ただ、およそ4割から1割まで、1/4減らせるという結果は大きな意味を持つ。実際、実証実験に参加した日本郵便などの配達員も再配達の負担は大きいと口にしており、設置率の低いアパートや戸建住宅でも宅配ボックスが広まれば、作業負荷が軽減できる。今回の実証実験による試算では、配達に伴うCO2の削減は京都市全体のアパート換算で年間約900t、配達員の業務時間削減は同じ換算で年間219人分にも達する。環境面はもちろん、労働力の最適化は、少子高齢化が進む日本にとって福音にほかならない。

●京都市長が語った「四方良し」

もう一つ、実証実験には「公共用」も用意された。近年、駅などの公共施設にECサイト運営者が受け取りボックスを設置するケースが増えている。これに似た形で、京都産業大学が学生と教職員の受け取り用に実証実験で宅配ボックスを設置した。受け取りには、発行された受け取り番号・パスワードを入力する必要がある。ただこちらは、大型から小型まで、形状に合わせたサイズのボックスが用意されており、納品できなかった理由でも「サイズ」は比較的少数に落ち着いていた。

公共用の意義は、ずばり「ライフスタイルにあわせた受け取り方法の検証」。利用したという教職員は、共働きで受け取り時間を区切られてしまう自宅への宅配よりも、帰宅前に立ち寄れる大学での受け取りの方が良いと話す。帰宅時に手荷物が増えることになるものの、それよりも受け取れないという心理的負担の軽減を優先したいという気持ちが上回るようだ。

一方で学生も同様の理由で利用しており、公共用宅配ボックスでは検証期間中、最大で9個の商品を受け取った学生がいたという。学生特有の事情としては、新学期などに新しい教材を受け取る必要があるが、大学に持ち込む手間と再配達によるタイミングの不一致を考慮すれば「大学で受け取る方が便利」(学生)。

京都市長の門川 大作氏は、今回の実証実験について「売り手良し、買い手良し、世間良しの三方良しという言葉があるが、京都では『未来良し』も含めた四方良しにしたい。環境も含めて考えることで未来へと繋げたい」と、近江商人の言葉を引用して話す。一方でパナソニックは、実証実験を受けてミドルタイプの追加投入を決めたが、冷蔵品の保管やボックスの満庫、利用方法の周知など課題もあると語る。

アパート向けについては実証実験の設置をそのまま設備として転用することが決まったが、公共用については撤去の可能性が高く、京都市の担当者も「(公共施設への設置は)前向きに考えたいが、現状は決まったことはない」と話す。一朝一夕で進められることではないものの、三大都市圏を中心として急速に拡大するEC需要はさらなる物流の逼迫を招く。国や自治体の補助金制度の拡充など、行政を巻き込んだ早急な対策が求められそうだ。