2017年度(第58回)日本映画監督協会新人賞を受賞、最新作『聖なるもの』が若手監督の登竜門として知られる「MOOSIC LAB 2017」において【長編部門】グランプリに輝くなど、その類い稀なる才能が映画業界を震撼させている岩切一空監督。一筋縄ではいかないストーリー展開や映像美について、今もっともメジャーに近い天才映像作家の素顔に迫る。

名前の由来は、イタリア語の「島」

――幼い頃に持っていた将来の夢は?

 ある日、雲を見たときから、羊になりたいと思っていました。もともと、豚などの四足歩行の動物が好きで。食べて、寝て、愛されて、草原にいる姿がとても幸せそうだったんですね。その後も、満員電車が苦手なので、普通の会社員になるのは難しそうだとは思っていました。

――一空(いそら)という珍しい名前の由来について教えてください。

 父親がもともとずっとイタリアで働いていて、その関係で僕も少しの間イタリアに住んだりしていました。何かとイタリアと縁があったのですが、そのせいか「ISOLA」というイタリア語で「島」を意味する言葉からつけられました。

――ちなみに、学生時代に入っていた部活は?

 中・高校時代はバドミントン部などの部活に入っても幽霊部員でしたし、学校をサボって、家でマンガを読んでいるか、アニメを見ているか、渋谷に映画を観に行っていました。でも、その頃は別に映画を撮ろうという意識はなかったですし、あくまでも暇つぶしの域を出ていませんでしたね。

独特なセンスはアニメの影響から

――その後、早稲田大学の映画サークル(稲門シナリオ研究会)に入りますが、映画監督を目指すようになったのは、いつ頃ですか?

 「映画を撮りたい」ぐらいの理由で映画学校(ENBUゼミナール)に入ったんですが、その卒業制作として撮った映画が『花に嵐』でした。それがPFFアワード2016やカナザワ映画祭といった、いろんな映画賞にノミネートされて、そこで出会った業界の人に「次、どんな映画を撮るの?」ときかれるまでは、商業映画を撮ってプロになる=映画監督を目指す、ということを意識してなかったのかもしれません。

――ちなみに、大学時代の2012年に撮られた処女作『ISOLATION』が早稲田映画まつりでグランプリを受賞し、吉田大八監督や内田けんじ監督にも評価されますが、そのときは?

 大学時代は、本当は漫画研究会に入りたかったんですよ。でも、肌に合わずに映画サークルに入って、3年生のときに『ISOLATION』を撮ったんです。正直、誰にも理解されなくていい、と思って撮った映画でしたが、結果的に賞賛されて、グランプリを獲りました。でもその裏では、めちゃくちゃ批判もされたんです。人格を否定されるぐらい(笑)。それで、次はどんな映画を撮ればいいか分からなくなりました。

――さまざまなジャンルの映像をリミックスした展開や構成が、自主映画界で大きな話題になった『花に嵐』ですが、その独特なセンスは、どこで培われたものなんでしょうか?

 僕はゼロから1を作れる人間ではないと思っていて、そうすると自然に自分に蓄積されたものの組み合わせや好みを考えていくようになっていきました。編集や音の使い方などは、「少女革命ウテナ」や「新世紀エヴァンゲリオン」など、中学・高校時代に見ていたアニメからの影響が大きいです。

“フェリーニ meets 庵野秀明”な新作

――『花に嵐』は17年に劇場公開され、続いて若手監督の登竜門として知られる「MOOSIC LAB 2017」において最新作『聖なるもの』が上映されました。

 もともと、大学の後輩監督の作品のカメラマンとして「MOOSIC LAB 2017」に参加する予定だったのですが、「それは何か違う」と思い、プロデューサーの方に『花に嵐』を観てもらいました。それで作品を気に入ってもらったことで、『花に嵐』の劇場公開が決まり、新作『聖なるもの』での「MOOSIC LAB 2017」の参加も決まりました。

――『聖なるもの』は「MOOSIC LAB 2017」で【長編部門】グランプリをはじめ、4冠を独占。こちらも劇場公開が決まりましたが、今回も“フェデリコ・フェリーニ meets 庵野秀明”なまったく予想できない展開とともに、映像美が印象的です。

 好きなので趣味程度に写真を撮っていますが、映像でも一枚の画として見たときに、綺麗なものを目指したいという気持ちがあります。それに、メジャー大作と同じ入場料金を払って、低予算の自主映画を見せられたときの衝撃ってスゴいですよね、良くも悪くも。今回は最初から「MOOSIC LAB 2017」の劇場での上映が決まっていましたから、そんな劇場にフラッと来た人にも、内容なり、映像なりでインパクトを残すことを心がけたつもりです。

――また、『ISOLATION』以来、監督の作品はフェイクドキュメンタリー形式をとっていますが、その魅力を教えてください。

 フェイクドキュメンタリーでしか映せない空気感もあるので好きなんですが、もともと2つの世界が登場する村上春樹さんの小説が好きで、それを映画でやってみたい気持ちが強いんです。これまでの作品では「映画を作る現場」と「映画の内容」という2つの世界を描いているわけですが、それは単にやりやすいから。だから、そうではない方法や設定を見出して、同じように2つの世界を描くという試みは、今後も続けていきたいと思います。

今後は「金曜ロードショー」で
放送されるような作品も!

――これまではあくまでも自主映画の枠内でしたが、今後は商業映画での活躍が期待されます。次回作以降の展望を教えてください。

 『聖なるもの』は、撮りたい映像を見せて、撮りたい映像で話を進めることを意識しながら撮った作品でした。それに関しては、今回でやり尽くした感があるので、今後はいろんな人に伝わりやすい、分かりやすく面白い作品も撮っていきたいです。だから、マンガ原作なんかもやってみたいですし、大きなことを言えば「金曜ロードショー」で定期的に放送されるような作品も撮りたいです。

――そこまで来ると、スタジオジブリ作品など、アニメの領域になりますよね。

 たとえばジブリ作品や『君の名は。』といった作品も、万人受けする作りであるうえで、かなり私的なものを巧妙に入れていると思う。そういったことを実写でやることも不可能ではないと思うんです。

文=くれい響,撮影=榎本麻美