NHK連続テレビ小説「わろてんか」の撮影を終え、記念撮影に応じる葵わかなさん=2月下旬、大阪市(写真:共同通信社)

今回取り上げるNHK朝ドラ「わろてんか」は、正直「大ヒット」したというわけではない。

この朝ドラは、吉本興業の創業者である吉本せいをモデルにしたとも言われる作品で、ヒロインは葵わかな。明治後期から第二次世界大戦終了後の昭和前期の商都・大阪を舞台にした作品で、先月の31日に最終回を迎えた。

この連載の第1回で分析した前作「ひよっこ」の期間平均視聴率が20.4%だったのに対して(ビデオリサーチ調べ・関東地区)、今回は20.1%にとどまった。しかし、第3週(昨年10月16〜21日)の週平均が18.8%と大台を割り、また新年1月8日には16.6%と、いよいよ落ち込みながら、そこから這い上がり、最終的に20%の大台に乗せる後半の勢いには注目すべきものがあったと考える。

復活のカギは「分散投資構造」

では何が復活のキーとなったのだろうか。筆者はドラマとしての魅力が、見事な「分散投資構造」になっていたことに注目する。具体的には「お笑い班」「演技班」「美形班」という、分散された3つのグループが、ドラマの魅力を持ち回りで支えながら、視聴率を挽回してきたと分析している。


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その中でも最も大きな貢献をしたのは「お笑い班」だ。このグループの主要メンバーは、濱田岳(武井風太役)と、その妻役である徳永えり(武井トキ)、さらには、女漫才師役を見事に演じきった広瀬アリス(リリコ)も加わってくる。

大きな貢献をしたと書いたが、それは今年に入ってからの話で、開始当初は、それほどの推進力を持っていなかったのだが、回を重ねるごとに、このメンバーの関西弁が達者になり(徳永えりは大阪出身だが、濱田岳は東京、広瀬アリスは静岡)、そして、濱田岳はアドリブを連発、広瀬アリスは、動物的な運動神経を漫才や歌に発揮し、結果として、ドラマ全体が活性化したと見る。

次に注目したいのが「演技班」。昨年末の回まで、何となく沈滞ムードに支配されていた状況への刺激剤となったのは、スポット的に登場した、演技力の高い脇役群である。具体的には、落語家役で出てきた、波岡一喜(月の井団吾)、笹野高史(喜楽亭文鳥)、そして北村有起哉(月の井団真)。

その「演技派」の魅力が存分に発揮された回が、12月16日(土)放送分である。月の井団真は月の井団吾の兄弟子だが、人気では大きく水を開けられていて、その上恋敵でもある。その団真が、寄席・風鳥亭で落語「崇徳院」をかけることになるのだが、当然客はまばら。そこに人気者の団吾が突如風鳥亭に現れ、そのおかげで客は殺到。兄弟子・団真のために盛り上げに盛り上げるというストーリーだ。

この回で、月の井団真役の北村有起哉が演じた落語「崇徳院」が、ことごとく見事だったのだ。北村有起哉も東京出身であり、上方落語を演じるのには、相当なハードルがあったはずだが、そんなハードルをほとんど感じさせない完璧な口調だった。

「高橋一生推し」が目立った

そして最後に指摘したいのは「美形班」の存在だ。名前だけを見れば「お笑い班」「演技班」に比べ、表層的な感じは否めないが、実は「美形班」こそが、視聴率の低下を防ぐ固定票獲得に、大きく寄与したとも考えられるのである。このグループのメンバーに分類されるのが、松坂桃李(北村藤吉)、高橋一生(伊能栞)、成田凌(北村隼也)。中でも、このドラマは、何といっても「高橋一生推し」であった。

昨年急激に盛り上がった高橋一生ブームを、「わろてんか」は徹底活用したふしがある。映画・不動産・百貨店などを多角経営する日本有数の企業=「伊能商会」の社長というセレブな役回りを与え(阪急グループの創業者・小林一三をモデルにしたと思しい)、徹頭徹尾ノーブルな言動をさせたこともさることながら、私が注目したのは、高橋一生ファンを喜ばせるための、言わば「サービスカット」の存在である。

筆者が選ぶ「高橋一生サービスカット回」ベスト3
1位:第136回(3月14日):料理をする&忠臣蔵・堀部安兵衛のコスプレを披露
2位:第45回(11月22日):松坂桃李(北村藤吉役)と相撲を取る
3位:第148回(3月28日):街のチンピラと大立ち回りをして圧勝する

これらは明らかに、高橋一生ファン向けの「サービスカット」だった。そしてこの、高橋一生を中心とした「美形班」の存在が、固定票を確保しつつ、さらには、「美形班」と「お笑い班」の有機的な連携こそが、このドラマの安定的な骨格となっていたのだ。

ここで、今回の月間エンタメ大賞が選ぶ「わろてんか」のMVPを決めてみたい。

MVP:濱田岳(武井風太役)

この朝ドラで濱田岳は、コメディアンとしての才能を、完全に開花させた。そして筆者は、濱田の演技者としての埋蔵量に驚いた。あくの強い関西人っぽさを、最も感じさせたのが濱田だったのだ(他に関西出身俳優が多くいたにもかかわらず)。将来的には西田敏行、いや、森繁久彌のような存在にまで高まっていくのではないか。また、天下のNHK朝ドラで、これほどまでにアドリブを差し込んだ俳優は、初めてと思われる。誤解を恐れずに言えば、この「わろてんか」は濱田岳のためのドラマだった。

加えて「主要三賞」を決めれば、殊勲賞:葵わかな、敢闘賞:広瀬アリス、技能賞:北村有起哉といったところか。

4月から始まる朝ドラは過去作品と比較される

総括として俯瞰的に見れば、冒頭で触れた、「わろてんか」における「お笑い班」「演技班」「美形班」の「分散投資構造」は、主演女優と脚本で圧倒するという、少し前の朝ドラのアンチテーゼのように思える。

「少し前の朝ドラ」を具体的に挙げれば、尾野真千子の圧倒的な演技力と、この上ない完成度の脚本で「朝ドラを超える朝ドラ」と言われた「カーネーション」(2011年)と、能年玲奈(現「のん」)の天然な存在感および、宮藤官九郎の独創的な脚本で話題を呼んだ「あまちゃん」(2013年)という、二大傑作である。

「カーネーション」と「あまちゃん」の高みを見据えながら、それとは異なる何かをどう作り上げるかというテーマに、その後の朝ドラ制作スタッフは格闘し、「ひよっこ」(2017年)や「わろてんか」は、その格闘の結果として、一定の成功を収めたと見る。

実は、その一方の高みである「カーネーション」が帰ってくるのである。この4月9日から、夕方16時20分から再放送が始まるのだ(1日2本放送)。つまり、次の朝ドラである「半分、青い。」は、毎日「カーネーション」と比較されるということになる。

「カーネーション」対「半分、青い。」の「2010年代朝ドラ・新旧対決」が続く毎日がやってくる。朝ドラファンに、また楽しみが増えた2018年春だ。