東京大学安田講堂(「Gettyimages」より)

写真拡大

●自分の正しさを証明することにこだわる

 東大女子と東大男子の両方を部下にもつという金融大手の管理職に話を聞いた。岡部太郎さん(仮名)、40代半ば、東大出身ではない。

「東大生は、もちろん理解力が高い。明示的に出された課題の解決に関しては圧倒的な強みがある。しかし、一般企業において、ひととひととが有機的に結びつく組織の中で円滑に仕事を進めるためには、気遣いというか、機転というか、対人的反射神経がものをいう場面が多い。その能力においては、東大出身者は入社の時点で他大出身者よりも後れをとっている印象がある」

「対人的反射神経」とは、おそらくノンバーバル(非言語)なコミュニケーション能力であろう。言語で明示的に指示を与えられるのではなく、まわりのひとたちの表情・しぐさ・口調・ムードから次に自分がとるべき言動を判断する能力だ。

「空気を読む力」に似ており、やりすぎると「同調圧力」や「予定調和」となるが、一方で人間の意思疎通の大半はノンバーバルコミュニケーションに頼っているともいわれており、そこがスムーズでないと人間関係に滞りが起こりやすい。

 東大生が「共感」や「感情」という非言語的要素より「概念」や「理屈」という言語的要素に反応しやすいとしたら、相対的にノンバーバルコミュニケーションが苦手だと思われても仕方がないかもしれない。

「それでも東大男子は、男社会でもまれ、その中で鍛えられる。その点、東大女子は不利。もまれる機会が少ないからです。それが成長の差になってしまう」

 岡部さんが勤めるのは男社会の権化のような極めて日本的な大企業。正社員には、いわゆる「普通の総合職」と「条件付き総合職」の2種類がある。条件付き総合職のほとんどは女性で、その中に早稲田や慶應出身の女性はいるが、東大女子は1人もいない。東大女子は100%普通の総合職。普通の総合職の男女比率は20:1。

 世間では男女共同参画や女性の活躍といわれていても、企業の体質は完全なる男社会で変わらない。その中で、若手男子社員は男社会のルールに自然に適応し、少々手荒い指導も受けながら急速に成長していくが、圧倒的マイノリティである女子社員の場合、そもそも男社会への適応が難しいうえに、まわりの遠慮も働いて、成長の機会が男子社員に比べて少なくなるというのだ。

「その状況をつくらないのが上司の役割なのですが、現実的にはこれがなかなか難しい。男子社員と同じように接すると、パワハラやセクハラになってしまう可能性があって、腫れ物に触るような態度になってしまう。電通の高橋まつりさんは、過度に男社会に適応しようとして苦しんだのではないか」

 男子社員に対しても、もちろんパワハラやセクハラはNGだ。しかし同性同士の人間関係と、異性との人間関係では、距離感が違うように感じられるのも事実だろう。男子社員は、失敗を通して成長する。男同士の安心感の中で、失敗を恐れなくもなる。しかし女子社員は、特に東大女子は、極度に失敗を恐れ、慎重になりすぎる傾向があるという。それでますます成長の機会が減る。

「ダメ出しに対する耐性が低いので、こちらもできるだけ理屈で説明しようと試みるのですが、そうすると彼女たちはもっともらしい言い訳をする。どうやってこの状況を打開するかということよりも、自分の正しさを証明することにこだわってしまっているように見える。その意味で、扱いづらい」

●まわりからの評価と自己像が乖離する

 特に若手のうちは、70点の仕事をたくさんしてほしいのに、東大女子は1つの仕事で120点を出そうとする傾向がある。それで時間がなくなって、結局まわりの社員が帳尻合わせをしなければいけないということも起こる。

「そうこうするうちに、成長の差が、仕事の成果の差となって現れ始めます。私の部署には2年目の東大女子と1年目の東大男子がいますが、なんと1年目の東大男子が入社して約半年で、2年目の東大女子を仕事の成果で追い抜いてしまいました」

 その東大女子は鳴り物入りで部署に配属された。当然ながら周囲の期待は大きく、本人もやる気に満ちていた。しかし、なかなか成果が出せない時期が続くと、次第におとなしくなってしまった。

「その東大男子はたしかに最初からずば抜けて優秀でしたが、ここまで成長スピードに差が付いてしまうのは本人のせいではなく、もともとの企業風土が男性向けであるという構造的な問題でしょう。その点で女子社員は気の毒です。さらに入社して6〜7年もすれば、優秀な人材は頭角を現します。もうその時点では成果がすべてで、学歴なんて関係ありません。多くの東大生はそこで生まれて初めて東大生以外に負けるという経験をします」

 同期の中で出世に差が生じれば、悔しさや焦りを感じるのは当然だ。しかし男子社員の場合、まわりを見渡せば同じように悔しい思いをしている同期が何百人と見つかる。いっしょに酒を飲みながら肩を組んで「俺たちもそれぞれの得意分野でがんばろうぜ」などと慰め合える。
 
 しかし総合職の女性は少ない。東大女子に限れば年に数人。その中で1人でも先に評価されると、まわりの東大女子は焦る。母集団が小さいからこそ、東大女子は仲間の中での序列を気にする傾向が強いと岡部さんは指摘する。

「焦って視野が狭くなってしまうと、仕事の成果ではなく、自分の人格が否定されたような気がしてしまうのではないでしょうか。客観的に見て仕事の成果で負けているのに、それを認めようとしない。まわりからの評価と自己像が乖離して、人間不信、職場不信になってしまいます」

 これが、優秀な東大女子が男性中心の企業風土の中で埋もれていってしまう悪いシナリオだというのだ。東大女子が卒業して早々にはまるかもしれない落とし穴である。落とし穴を回避する方法として岡部さんは次のように提案する。

「圧倒的に男性向けの企業風土は早急に変えていかなければなりませんが、現実には、そう簡単に変えられるものでもない。過渡期に入社する女子社員は大変です。男性に有利なルールの中で、男性と同じようにふるまうのでは不利。しかし男性ばかりの組織において、女性であることはそれだけで差別化ポイントにもなります。男社会の中で男性と同じようにふるまうよりも、ときには男性の苦手分野でこそ能力を発揮して勝負するほうが、結果的にうまく現実に適応できるのではないかと思います。それは決して卑怯じゃない」

(文=おおたとしまさ/教育ジャーナリスト)