石井友子さん(仮名)と石井政行さん(仮名)にお話を伺った(写真:リディラバジャーナル)

「生みのお母さんの気持ちを思うと、辛くて逃げ帰りたくなりました」

こう話すのは、約一年前に特別養子縁組をおこない、養子を授かった養親(養子を家族として迎える親)の石井友子さん(仮名)です。

「子どもの生みのお母さんと養親が対面するケースは多くない」と特別養子縁組の支援をおこなう一般社団法人ベビーライフ(東京都)の川上真季さんは言いますが、石井さん夫妻は子どもを迎えに行く際に、生みの母親と対面する機会がありました。

生みの母親は泣いていた

生みの母親は子どもと別れる辛さから言葉にならないほど泣いていて、「(石井さん夫妻と)まともに会話できない状況だった」と友子さんは語ります。


当記事は「リディラバジャーナル」からの転載です(元記事はこちら)。同サイトは有料会員制メディアです。なぜリディラバが、課金型メディアに挑戦するのか。どのようなメディアを読者と作り上げていこうと考えているのか。リディラバの考え方はこちらを御覧ください。

「私も一緒に泣きそうでした。本当は聞きたいことがたくさんあったんです。妊娠中、どんな風に過ごしたのか、どんなお産だったのか。その子への想いや、私たちへの要望などを聞いて、将来子どもに伝えようと思っていましたが、聞けませんでした」

一方で、夫の石井政行さん(仮名)は「その場にいるのは苦しかったですが、それでも私たちと会うという選択をしてくれたのは嬉しかったです」と言います。

「生みのお母さんが断腸の思いで手放すことを決めたのが伝わってきたので、この子を育てるということは自分たちだけの問題ではない、生みのお母さんの分もちゃんと育てなければと強く思いました」と政行さんは語ります。

今回、生みの母親との面会を果たして特別養子縁組によって子どもを迎えた養親の夫妻を取材しました。どのようにして子どもを授かり、実際に養親となっていくのか、そしてそこにはどのような想いや考えがあるのかを見ていきます。


今回お話を伺ったのは、石井政行さんと石井友子さん夫妻。

実は、石井さん夫妻は特別養子縁組を希望する人の多くのケースと異っている点があります。

一つは、生みの母親と面会をしていること。もう一つは、特別養子縁組という制度を早くから知っていたことです。

民間の特別養子縁組あっせん機関の一つ、一般社団法人ベビーライフに養親希望者として登録をしていた石井さん夫妻は、昨年3月に生後6日の赤ちゃんを迎えました。

ほとんど1日で必要なものをすべて揃えた

「もうすぐ生まれる子どもがいる」

そう連絡を受けてから子どもを迎えるまではあっと言う間だったと石井さん夫婦は話します。

「心の準備と必要な物などの準備は1週間で全部しました」と政行さんは言います。赤ちゃん用品店に行き、ほとんど1日で必要なものをすべて揃えたそうです。

待ちに待った子どもを家族に迎えることになると思えば、当然嬉しいはず。しかし、そこには不安もありました。生みの母親が子どもを手放す直前になって、特別養子縁組を撤回することも多いのです。

生みの母親は出産した子どもを目の前にすると、養子に出した方が良いのか、自分の手で育てていった方が良いのか、大きな葛藤を抱える場合があります。

その説明を受けた友子さんは、子どもを迎えることができるのか分からない不安を抱えながら準備をすることが苦しかったと振り返ります。

「本当に赤ちゃんがうちに来てくれるのか、不安が大きくて、期待しすぎてはいけないと何度も自分に言い聞かせました。でも赤ちゃんを迎える前提で、服やオムツや寝具を選ばないといけないので気持ちの置き所が分からない一週間でした」

特別養子縁組には、生みの親の葛藤が伴うことが多く、それ故に養親が不安を抱えることがあるのです。

石井さん夫妻はもう一つ、通常と異なる点があります。それは、不妊治療と同時並行で里親や特別養子縁組を検討していたことです。

夫婦で話し合いを重ね、子育てをしたいという結論に至ったと話す友子さん。

「私は子どもが欲しかったのですが、自分に子どもが産めるか不安でした。年齢的にも早く妊活する必要があると思っていましたが、彼にとってはそのタイミングではありませんでした。彼が『子どもができなければ、養子でも良いんじゃない? 』と言ったので、自分は出産が経験したいのか、血の繋がった子どもが欲しいのかなど、なぜ子どもが欲しいと思ったのか考えはじめ、彼ともずいぶん話し合いを重ねました。妊娠、出産の経験は貴重だと思うのですが、私がしたいのは子育てなんだ、という結論に行きつきました」

こう振り返るのは石井友子さん。

石井さん夫妻は「子どもを育てるためにはどうしたら良いか」という発想のもと、不妊治療を継続しながら、児童相談所の里親研修を受けました。

将来的に特別養子縁組をおこなうとしても、(里親研修を受けることで都道府県から里親登録の認定を受けられる)「里親認定」を持っていたほうが良いだろうと考えたそうです。

その後石井さん夫妻は、里親の経験を持つ方を探して話を聞き、その方に勧められたことをきっかけに特別養子縁組を本気で考えるようになります。

将来、ほかの家庭の養子とも交流できるように

特別養子縁組あっせんをおこなう東京都の児童相談所の場合、特別養子縁組を前提とした里親に子どもを委託した件数は、2016年度で40名。養親になることを希望して、子どもの受け入れを待っている登録者は200名ほどいます。

共働きだった石井さん夫妻にとって、児童相談所で子どもを迎えるのは難しいかもしれないと判断し、民間の養子縁組あっせん機関に登録しました。

石井さん夫妻は、共働きでも登録可能な一般社団法人ベビーライフを選びました。そして、ベビーライフを選んだもう一つの理由は、比較的自宅の近くにオフィスがあることでした。

石井さんは、「将来子どもが、ほかの家庭の養子の子とも交流できるように、距離的に行きやすい団体を選びました。親には言えないことがあっても、大きくなれば子ども一人で集まりに参加したり、ベビーライフのスタッフに相談しやすいようにと思いました」と話します。

将来家族として迎える子どもにとって良いことは何か。そう考えた結果だったのです。

養親として登録する団体を探す際には、他にも、特別養子縁組にかかる費用、団体の信頼度、サポートのきめ細やかさなどを比較し、適切な団体を探します。

養親になるための条件も大切です。例えば、共働きでも問題ないか、年齢制限に問題ないかなどを考慮して登録要件に当てはまるあっせん機関を選ぶことになります。年齢制限は自治体や団体によって異なりますが、子どもと養親との年齢差は40〜50歳以下が推奨されていることがあります。

「最後の選択肢」としての特別養子縁組

不妊治療と並行して特別養子縁組を想定していたという石井さん夫妻とは異なり、多くの場合には「最後の手段」として特別養子縁組にたどり着きます。

民間のあっせん機関として特別養子縁組の支援をおこなうNPO法人フローレンス(東京都)代表の駒崎弘樹さんは「養親希望者の方はほぼ9割、不妊治療をして、もう難しいなと思った方」と言います。


養親夫婦と対話を重ねてきたNPO法人フローレンス(東京都)代表の駒崎さん(写真:リディラバジャーナル)

養親夫婦と対話を重ねてきたNPO法人フローレンス(東京都)代表の駒崎さん。

「多かれ少なかれ、自分たちが子どもを授かることができないと受け入れるのには勇気が要ります。さらに血が繋がっていなくても子どもを家族として迎え育てよう、と決意するまでに相当葛藤があると思います。それなら『もう子どもはいなくてもいい』となってもおかしくないところですが、それでも何度も夫婦で話し合って、その葛藤を乗り越えて養子縁組で子どもを迎えたい、という結論にたどり着くことが多いようです」と駒崎さんは話します。


(写真:リディラバジャーナル)

養子を家族として迎えることに対して、「みずから産んだ子ではなくても愛情を注げるだろうか」「自分と血の繋がった子どもと同じように育てられるだろうか」という不安や疑問を抱く方もいるかもしれません。

「実子を産んだことがないから分からないですが、実子と同じだと思って育てています」と友子さんは言います。

「目の前に、自分を信じてすべてをゆだねてくれる存在がいて、日常を重ねれば、愛情が湧きあがるのは当たり前のことではないでしょうか」

実子と養子、愛情は変わらない

実子を産むための「妊活」と並行して、夫婦で「どのような家庭を築きたいのか」何度も話し合いを重ね、その中で里親や養子縁組を検討していたという石井さん夫妻。こうした考え方は日本社会ではまだマジョリティとは言えません。

ですが、我々リディラバジャーナル編集部は、取材や調査などを通して養親の方々の声を知る中で、「子どもを育てる一つの選択肢」として不妊治療だけではなく、特別養子縁組という方法があることをもっと多くの方に知ってもらえたら、と強く思うようになりました。

石井さん夫妻のお話は、「家族のかたち」は「誰か」が決めるものではなく、みずから考え、築いていくものなのではないかと考えさせられるものでした。

【まとめ】

特別養子縁組には、生みの親の喪失が伴う。また、生みの親次第で特別養子縁組ができなくなることもあるため、特別養子縁組が成立するまでは養親は子どもと本当に家族になれるのか不安を抱えることがある。

特別養子縁組を選択し、養親となる方の大半が不妊治療を経験している。
不妊治療を終えてから、最後の手段として特別養子縁組を選ぶ人が多いが、不妊治療と同時並行で特別養子縁組を検討する人もいる。

【問い】

あなたにとっての「家族」とはどのような存在ですか。

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