LUMAscape(ディスプレイ広告の業界地図)に世間の注目が集まりつつあるというのに、業界はその備えがまるでできていない。

ロシアのプロパガンダ広告とユーザーデータの不正使用でFacebookが危機に陥るなか、データとテクノロジーが人々の暮らしに果たす役割に、かつてないほど注目が集まっている。EUの個人情報保護法である「一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)」が今年5月に施行されれば、この流れはますます加速するだろう。アドリターゲティングを行う企業は、人々からデータ共有の同意を得るため、難解な専門用語で書かれたポップアップメッセージをすでに提示しはじめている。

アドテク企業はFacebookほど一般に知られてはいない。だが、Facebookの問題が露呈したことで、人々は自分の行動履歴が見られていることを意識しはじめた。アドテク企業にとって、これは同意を得るのが難しくなることを意味する。ロシアによるニュースフィードへのプロパガンダ投下が何カ月ものあいだヘッドラインを飾っていたところへ、さらにケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)のニュースが飛び込んできたのだ。データ企業である同社は、ドナルド・トランプ陣営とつながっていて、Facebookスキャンダルにおいて中心的役割を果たした。かくして主要メディアのニュースにアドテクが登場するようになったわけだが、業界は自らの存在意義を一般大衆に説明する準備がまるでできていない(消費者ブランドであるプラットフォームは、概してアドテク企業よりうまく現状に対処しているが、彼らも非難を免れなかった。Facebookは、ケンブリッジ・アナリティカの件で対応を誤り、多方面から批判を浴びている)。

コミュ障なアドテク業界



「アドテク企業は以前から、自分たちが何者で、どんな仕事をしているのかを伝えるのに苦労してきた。非常に複雑で、門外漢にとっては退屈きわまりない話だからだ」と、アドテクとメディア営業担当の両方に務めた経験をもち、現在はフリーのテックコンサルタント業を営むマット・ローゼンバーグ氏はいう。「この業界で自分の仕事を親にうまく説明できる人は10人もいないだろう」。

仕事の性質上、アドテク企業には裏方仕事が好きな人が集まりやすい。「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)では、アドテク業界人がステージに立った瞬間、会場の熱気が冷めた。パーティーはお開き、という具合に」と、プログラマティック・ネイティブアド・プラットフォーム「ゼマンタ(Zemanta)」のCEO、トッド・サウィッキー氏はいう。

コミュニケーションの問題に加えて、多くのアドテク企業は長年にわたって大言壮語を続けてきた。有望なクライアントを口説き落とすため、きわめて高度な顧客ターゲティングがさも実現間近であるかのように語ってきたが、それらは往々にして絵に描いた餅だった。こうした企業は、宣伝文句以外に競合他社と差別化できるものを持ち合わせていないのだ。

相容れない消費者の常識



「消費者との対話を避け、それ以外の人々に専門用語だらけの話をしてばかりいては、消費者フレンドリーではない話し方が染みついてしまう」と、アドテク企業アンダートーン(Undertone)の共同創業者で、長年業界に携わってきたエリック・フランキ氏はいう。「たくさんのウェブサイトを見てみても、アドテク企業が実際何をやっているのか、それぞれの企業がどう違うのか、さっぱりわからない」。

GDPRのもと、一般ユーザーにデータ提供の同意を求める際には、こうしたやり方はうまくいかないだろう。リターゲティング企業が最近採用したブラウザ内メッセージをいくつか見てみよう。クリテオ(Criteo)は、「優良ブランドによるあなたの関心に合った広告」を閲覧できると称して、クリックによる同意を求めた。だが、ほとんどのユーザーにとってその実態は、3週間前にすでに買った靴なのにいつまでも消えない、うっとうしい広告にすぎない。アドロールグループ(AdRoll Group)も同じような同意を求めるメッセージを表示しているが、同社によればこれは何年も前からやっていることで、GDPRとは無関係であり、Safariブラウザ上での広告のパーソナライズに同意を求めるものだという。なおクリテオからは、この記事へのコメントは得られなかった。

アドテク企業とプラットフォームを縛る法規制がほとんどない現状は、データがあまりに広く共有されることを不安視する消費者の常識的な見方とは相容れない。そう話すのは、プログラマティック入札を扱うビーズワックス(Beeswax)のCEO、アリ・パパロ氏だ。彼いわく、リターゲティング企業の同意獲得のための取り組みは「茶番」だ。

専門用語だらけのメッセージが四六時中ブラウザに表示されれば、人々はトラッキングに同意する気をなくすだろうと、広告詐欺を研究するオーガスティン・フォウ氏はいう。「人々はそれ(同意を促すメッセージ)が何を意味するかなど理解しないだろう。アドテク企業はひとつとして世間に知られていないのだから」。

「広告はいまだ有効と思いたい」



データ収集にまつわるニュースが飛び交い、「コミュニケーションの質と量の大幅改善」が求められている難しい時期に、GDPRの施行は重なった。それは、リターゲティング企業ナニガンズ(Nanigans)の共同創業者兼最高技術責任者、クロード・デントン氏も認めるところだ。デントン氏は自社の今後の計画について、同意獲得の役目は消費者にとってなじみ深い広告主に任せつつ、同時に広告主と提携して、同意することで消費者は関心に合った広告を見られるだけでなく、広告収入に支えられたパブリッシャーを支援することにもなると伝えていくつもりだと語った。

「難しい状況だ。究極的には、好きなパブリッシャーが事業を継続し、無料でコンテンツを提供し続けてくれれば(ユーザーにとっての)利益になる。知ってのとおり、多くのパブリッシャーが有料サブスクリプション制に移行している。アドテクに携わる者として、私はインターネットの大部分を広告が支えるモデルは、いまも有効だと思いたいのだ」。

Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)