「僕らは語り合うことで“メサイア”になる」橋本真一×山本一慶、尊敬しあえる関係。

警察省警備局の特別公安五係、通称「サクラ」。そのエージェントたちはふたり1組で活動し、「任務に失敗したときは、どんなことがあっても互いを救う」という約束を取り交わす。そして絶望的な状況から救い出す救世主になぞらえ、互いを“メサイア”と呼ぶ。

非情な戦いのなかで結ばれる究極の友情と絆を、バトルアクションとともに描き出すシリーズの最新作『メサイア ―月詠乃刻―』では、メサイアとなったばかりの小暮 洵と雛森千寿を過酷な運命が待っている。演じる橋本真一と山本一慶は、話し合うことで役として彼ら自身として「関係が深まっていく」と語る。

撮影/須田卓馬 取材・文/文月カナ 制作/アンファン
ヘアメイク/嘉山花子

雛森が現れてくれたおかげで、小暮に光が見えたような感覚に

2017年8〜9月の『メサイア ―悠久乃刻―』を含めて舞台7作、映画4作、イベント5回、そして展覧会も開催されている人気シリーズ『メサイア』。橋本さんは2017年2月の『暁乃刻』から小暮 洵役、山本さんは『悠久乃刻』から雛森千寿役で出演しています。まず、山本さんは、『メサイア』出演を強く希望されていたとうかがったのですが。
山本 それは、衣裳(「メサイア・コート」と呼ばれているブラックレザーのコスチューム)がめちゃくちゃカッコよかったから!
橋本 そこかっ!(笑)
山本 お芝居についても、単にカッコいいだけじゃなくて気持ちと気持ちがぶつかり合う、熱くて素敵な作品だと思いました。個々のキャラクターが信念を持っているからこそ真っ向勝負でぶつかり合うがゆえに、離れ離れになったり、引き戻したりする。「『メサイア』って素敵だな」と、稽古が始まって改めて思いました。
▲橋本真一
橋本さんは、メサイアである雛森が現れて、どんな変化がありましたか?
橋本 僕(小暮)は新入生3人組のひとりとして入ってきたけれど、柚木小太郎(演/山沖勇輝)と御池万夜(演/長江峻行)はストーリー的にも序盤からペアだとわかっている状態で。小暮は自分の過去を知らないので頼る人もいないし、よりどころになるものもない。小暮も僕自身も、孤独を抱えているような状況で過ごしていたんです。そこへ『悠久乃刻』でメサイアとして雛森が現れてくれたおかげで、光が見えたような感覚があって。小暮はもちろん僕自身も役をつくっていく上で、隣に柱となる人が来てくれたというのはすごく大きかったです。
一慶とはもともと面識はあったけど、しっかり話したり芝居をしたりするのは初めてで。稽古序盤からふたりでスムーズに役づくりをしていけたので、本当に良かったと思いました。
山本 (笑みを浮かべてピース)
橋本 小暮はこれまで一嶋晴海係長(演/内田裕也)との関係性くらいしかなかったけれど、誰かがいてくれるだけで人間形成が深まっていくというか、キャラクターとして厚みを増していく感覚があります。それがまた、雛森っていう小暮とは相反するような明るさを持ったキャラクターなので、小暮のこれまでなかった部分が引き出されてくるんじゃないかと思っていて。『悠久乃刻』ではまだふたりに絆が生まれるところまではいっていなかったから、雛森がいることによって小暮が大きく動きだすのは今回からだと思います。

もしかして天然? 公演中に「ドジしちゃった」事件の真相

『悠久乃刻』で、とくに印象に残っていることは何ですか?
山本 単純に、楽しかったですね。真一とは波長が合うのかな? ふたりともちょっとドジしてさ。
橋本 そうなんだよね、じつはけっこうね(笑)。
山本 これは前にも話したことがあるけど、ふたりで客席を通ってはけていく場面があって。最初に俺(雛森)が小暮を送り出し、それから客席をついていくんだけど、追っかけていったら壁を押しているんですよ。
橋本 客席のドアからはけることになっていたんですけど(苦笑)。東京公演では問題なかったけど大阪公演になって。
山本 暗かったんだよね。
橋本 そう、劇場が変わって場内の明るさや通路の位置が違ったから、ドアの位置がわからなくなって。ドアだと思ってずっと壁を押していた。
山本 あんなに勢いよく壁を押してる人、初めて(笑)。
▲山本一慶
橋本さんにはそんなお茶目な一面があったんですね。山本さんのほうがしっかりしている感じですか?
橋本 でも一慶も、客席を見ながら階段を降りていくときに低い手すりに気づかなくて。
山本 めっちゃ太ももに(当たって)。
橋本 しかも1回だけじゃなくて、2回やったんですよ。
山本 出っ張りが2カ所あったんですよね。あれは完璧に、お客さんも気がついてたな、っていう。
橋本 そういうお互いのドジを、待機中に笑い合っていた。
山本 でも、俺たちメサイアはやるときはやるチームです!
橋本 そういうこと! 芝居に関しては本当に信頼していて、芝居について話していても言っていることがよくわかるし、僕がわからないことの答えも持っていたりする。素直に、役者としてリスペクトできます。
山本 (無言で手を挙げて返事)
橋本 あははは。そこはメサイアとしてやりやすいし、自分ひとりでやらずに一慶を頼っていこうと思えることがありがたい。この関係をもっと深めていけたらいいと思いますね。
稽古場では、お互いにどんな印象を持っていましたか?
山本 真一は自分の意見もしっかり持っているし、それでいて柔軟で純粋。『悠久乃刻』で、お互いのイメージや芝居で見せたい部分を話し合うことによって、小暮と雛森の関係が良くなっていくと感じました。稽古場ではメサイアが隣同士に座るので、自分たちの出番ではない場面のときにふたりで台本を読みながら、気持ちの流れとかについてどう思うか話し合ったりして。
橋本 それがけっこう、難しいよね。
山本 そう。雛森は台本ではけっこうきつい感じがあるけど実際に演じるときは「きつくならないように」と言われていたりして、相反するものの両立が難しかった。性格も過去も、ほとんどわからないキャラクターだったし。真一に「どう思う?」と聞くと、素直な反応を返してくれるのがありがたかった。
橋本 逆に小暮についても、「どう思う?」って聞いたりして。
山本 そういうやりとりが、いい方向に働いたよね。
橋本 うん。
山本 『悠久乃刻』で出会ったふたりが、『月詠乃刻』でメサイアとしての関係性、気持ちの部分が動いていく。僕たちが話し合うことによって、お互いの仲をより良くしていきたいですね。

「暴走する小暮」公式サイトに爆弾のようなワードを発見

お互いの役柄と普段の人柄について、似ていると感じる部分やまったく違う部分はどういうところですか?
橋本 一慶は、けっこう雛森に近いところがありますね。みんなと楽しくもできるし、かといって迎合しているわけでもないし。ちゃんと自分を持った上でみんなを楽しませてくれる。ちょっと特殊なセンスを持っているな、というのは話していて感じますね。
山本 (うれしそうに)いいよ、いいよ。
橋本 すごく面白いセンスを持っているんだけど、斜め上を行っている感じ。
山本 (頷きながら)ちょっとね、鋭い感じのね。
橋本 こういう感じも含めて(笑)。でも、ふざけていてもきちんとするところはしているし、芝居のことはすごく真面目に考えているし信頼がおける。……この辺にしとく?
山本 いや、もっと言っちゃって!
(笑)。おふたりがいいコンビであることが、今の会話だけでも伝わってきます。
橋本 ボケとつっこみで言えば、こっち(山本)がボケですね。
山本 えっ、そう?
橋本 ボケまくっとるやん!
山本 そんなに深いボケはないんだけどね。
橋本 浅いのを常に、こまめに。
山本 質より量っす!(笑)
山本さんから見た橋本さんと小暮はいかがでしょう?
山本 真一と小暮の場合は、小暮ってしゃべらないけど、クールなわけではないんですよね。真一がよく言っていたけど、「やっと感情が湧いた」状態。俺は『悠久乃刻』から参加したから、そういう状態の小暮しか知らなくて。真一は明るいから似てはいないけど、かといって180度違うというわけでもない。どこか似ているところがあるんだろうなって感じました。
橋本 僕自身としては、小暮は自分と全然違う。『暁乃刻』のときはスイッチを入れて切り替えるような感覚でやっていたけど、どうしても気持ちが乗らないというか、人間味が出てこない部分があって。でも今回は、そこまで感情を抑えなくてもいいんじゃないかという気がするから、もう少しありのままの部分も出していきたいんです。
山本 雛森も、何か描かれなければ謎のキャラクターのまま。『月詠乃刻』でやっと雛森の何かをつかめると思うと、すごく楽しみです。またね、公式サイトのあらすじを読むとすごい爆弾が落とされていて。
橋本 「暴走する小暮に、雛森は何を思うのか」。この「暴走する小暮」っていうワードが、バーン! と入ってきまして。
「暴走する小暮」! それはいったい……?
山本 何があるのか気になりますよね。
橋本 小暮としては苦しいだろうけど、役者としては確実に楽しくなるだろうな。今まで感情を抑えてきたけど、それとは相反する「暴走」だから。
山本 小暮がどういうことになるのか、まったく想像がつかない。そのとき雛森は……たぶん傍観してますね。
橋本 何かしてくれ!(笑)でも、『悠久乃刻』でメサイアになったけど、ふたりで何かを乗り越えたわけでもないし、絆はまだ始まっていない。確かに、『悠久乃刻』の関係のままだと雛森は暴走する小暮を見ているだけになるかもしれないね。
『月詠乃刻』の雛森が、小暮にどう関わっていくのか、気になります。
山本 それが今回の大事なところだと思います。ここから始まる気がしますからね。小暮としては、やっぱり雛森と打ち解けたい?
橋本 うーん……難しいな。
山本 それは答えが出ないよね。俺、変な質問したわ!(苦笑) いいよ、答えなくて。まだ、お互いの理想像を口にするのもね。
橋本 あまりにも、小暮と雛森の関係が。
山本 どうなるのか見えてこないもんね。でも、どんな展開になろうとも、お互いに向き合って関係性をつくっていきたいね。
今の時点で、関係性づくりは順調にできそうですか?
橋本 たぶん、このふたり(橋本と山本)は向かうべきベクトルが見えたら速いと思うんですよね。
山本 それはもう「よーい、どん!」の体勢ができてるからね、ふたりとも。
橋本 波長が合うというか、橋本と山本の関係性の中にストレスがないからね。『悠久乃刻』の稽古が始まってすぐ、割と速いペースで役についていろいろなことを話せるようになったし。だから方向性がわかれば。
山本 うん、わかったときは強いかなって。
橋本 だと思う。
山本 こればっかりは、稽古が始まってからでないとどうなるかわからないけどね(笑)。
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