ダイキン工業会長 井上礼之氏

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時間はどんな人にも平等に与えられている。「名リーダー」と呼ばれる人たちは、その時間を最大限に有効活用することで、成果を残してきた。彼らはなにを優先して日々すごしているのか。三者三様の考え方を紹介しよう。第1回はダイキン工業の井上礼之会長だ――。(全3回)

※本稿は「プレジデント」(2018年1月29日号)の特集「24時間の使い方」の掲載記事を再編集したものです。

■「二流の戦略と一流の実行力」

「決断のタイミングを逸するな」といっても、大きなものを背負えば背負うほど、決断力は鈍るものです。そこに、わずかでもネガティブな情報や意見が並びはじめると、さらに決断に迷いが生まれてきます。

そこで、自分の決断に確信を得るために、他の人の意見に耳を傾けることになるかと思いますが、これがまた決断を鈍らせることになります。

私が決断の基準にしてきたのは、「六分四分の理」。どちらにも理があり、どちらとも正しいことのほうが多いものです。それでも一方に六分の理があれば実行に移し、必要であれば戦略を軌道修正するという考え方です。

欧州事業が急成長する基盤となった2000年代前半の販売計画の緊急練り直し、08年の中国の珠海格力電器との提携、12年の米グッドマン・グローバルの買収などは、すべて六分の理で決断したものでした。

なぜなら、自分の決断に賛成する人ばかりとは限らないからです。場合によっては、支持する人が半数以下ということもあります。

六分四分の理という考え方には、一定の割合の失敗は許容するという意味も含まれます。いささか決断に逃げ道をつくっているように聞こえるかもしれませんが、六分成功すれば四分は失敗してもいいくらいの気持ちの余裕は大切なことです。心理的に遊びをつくっておくことで、実行段階で起きる予期せぬことや変化の兆しに臨機応変に対応できるようになります。

■リーダーの一番の仕事は「決断すること」

そもそも、完璧な人間などいないのですから、最初から100点満点の戦略などあるわけがありません。そのことを頭に入れておくだけで、決断のスピードが上がります。

社長になってから20年以上が経ちますが、リーダーの一番の仕事は何かと問われたら、「決断すること」だと即答します。それだけ、リーダーの決断とは重要なものです。とくに、変化の激しいパラダイムシフトの時代といわれる今、勝負を決めるのはリーダーのタイミングのいい決断だといってもいいと思います。

それではベストタイミングを見極めるポイントはどこかといわれると、正直難しいものがあります。結果論では語れますが、ベストだったかどうかはわかりません。ただし、1つだけ確かなことは、決断の遅れは許されないということです。

どれほど素晴らしい戦略であっても、決断するまでに時間がかかっていては実行段階で手遅れになります。

私が常に心がけてきたことは、ある程度方向性が決まったら実行に移すことでした。そして、現場を注視し、変化の予兆を感じたら、いち早く戦略を変更する。これが、本当の戦略です。

「一流の戦略と二流の実行力」と「二流の戦略と一流の実行力」があるとしたら、私は後者を選びます。一流の実行力から生まれる戦略こそ、変化の激しい時代を生き抜くための本物の戦略だからです。

どれだけ精度の高い情報を集め、分析し、100%の確信を持って実行したとしても、必ずしも成功するとは限りません。先行きが読みにくい時代である以上、「やってみなければわからない」という要素はどこかにあるものです。それを理由に決断を遅らせては、自ら敵前逃亡するようなもの。コンペティター(競争相手)に負けても、言い訳にもなりません。

■30分経ったら、一切考えない

もちろん、先を急ぎすぎるとリスクは大きくなります。といって、コンペティターと肩を並べて走ろうと考えていては勝つことが難しくなります。

意識するのは、コンペティターより半歩先を行くこと。そのためにも、決断に時間をかけるより、実行に移すことが肝心なのです。決定した戦略を軌道修正したり、変更したりする柔軟性を持ち合わせていれば、新たに生まれる戦略は、間違いなく成功に近づくことになります。

ダイキン工業が空調事業のグローバルナンバーワン企業にまで成長できたのも、実行に次ぐ実行にあったと考えています。

決断には相当なパワーを要します。とくにリーダーと呼ばれるポジションでの決断は、部下や部署、さらには会社全体と責任の範囲が大きくなるほど重圧がかかってきます。私が心がけていることは、あまり考えすぎないようにすることです。具体的には、「悩むのは30分だけ」と決めています。そして、30分経ったら、そのことに関しては一切考えないようにしています。その代わり、その30分間は、そのことだけをとことん考えます。誤解を招かないように話しておきますが、30分間とは、最終決断をするときということです。

決断したら、スパッと頭を切り替えます。考えすぎると、なかなか実行に移せないからです。それに、考えないようにすると、心も楽になります。

超人的なメンタルタフネスに思われるかもしれませんが、もちろん若い頃から「30分間だけ悩む」ことができていたわけではありません。何度も何度も自分に言い聞かせながら習慣にしてきたことです。

1時間も2時間も悩み続けることもありました。入社当時などは、悩みすぎて、翌日無断欠勤したこともあります。「30分間だけ悩む」のは、何十年もかけて身につけた習慣でもあります。

決断力は、どんなポジションで仕事をしている人にも求められることです。そして今の時代は、そこにスピードも求められています。

大切なのは、頭で考えるより、体を動かすことを優先させることです。走りながら考えることを意識するだけで、スピード感を持って仕事ができるようになります。

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井上礼之(いのうえ・のりゆき)
ダイキン工業会長
1935年、京都府生まれ。同志社大学経済学部卒業後、57年大阪金属工業(現ダイキン工業)入社。人事部長などを経て、79年取締役。常務、専務を経て、94年代表取締役社長、2002年より代表取締役会長兼CEO。14年より現職。

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(ダイキン工業会長 井上 礼之 構成=洗川俊一 撮影=澁谷高晴)