宇宙ベンチャー育成のための新たな支援パッケージを発表する安倍晋三首相 Image Credit: 首相官邸ホームページ

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 安倍晋三首相は2018年3月20日、今後5年間に宇宙ビジネスに対して1000億円規模のリスクマネーを供給するといったことなどを定めた、宇宙ベンチャー育成のための新たな支援パッケージを発表した。

 日本は宇宙開発分野で、比較的高い技術力をもっているが、いっぽうで宇宙ビジネスにおいては欧米などに比べて遅れていた。とくに、宇宙ビジネスやベンチャーへの国や大企業による投資や支援が少なく、事業として起業・成立しにくい状況にあった。

 今回創設された支援パッケージでは、政府・関係機関が一丸となって宇宙ベンチャーを育成することが、具体的な支援策と共に定められており、まさに国が本腰を入れた形となっている。

◆5年間で宇宙ビジネスに1000億円を供給

 今回創設された支援策は、これまで日本の宇宙ビジネス、宇宙ベンチャーにおいて課題とされていたことを解決するため、いくつもの重要な要素が含まれている。

 まずは金銭面での支援である。これまで日本では、宇宙ベンチャーに流れる資金の額が少ないことが問題となっていたが、今回発表された支援策では、日本政策投資銀行(DBJ)や産業革新機構(INCJ)をはじめとする、官民一体となった宇宙ビジネス向けのリスクマネー供給を拡大することが含まれている。

 これは日本の国としての宇宙開発予算(約3000億円)の3分の1ほどに匹敵する。安倍首相は自ら「今後5年間で、官民併せて1000億円規模のリスクマネーを宇宙ビジネスに投入します」と宣言し、その気合いのほどは大きい。

 また、これまで宇宙ビジネスに関心のある投資家がいても、宇宙技術に精通していなければ、どこに投資すればいいのか判断できないことがあった。逆に投資を求めるベンチャー企業も、誰に話をもっていけばいいのかわからないこともあった。そこでスタートアップ段階に関心のある投資家など(エンジェル投資家、ベンチャー・キャピタルなど)を組織化し、アイディアを持った個人・ベンチャー企業とのマッチングを円滑化するための場として「宇宙ビジネス投資マッチング・プラットフォーム(S-Matching)」を発足させるという。

 さらに、宇宙ベンチャーの人材確保の支援として、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や企業などの職員が、宇宙ベンチャーでの勤務などを希望する場合に、宇宙ベンチャー側との人材マッチングを支援する施策を創設するという。

 この他にも、事業化までを見据えたベンチャーとJAXAなどとの技術協力・交流や、JAXAなどがもつ宇宙技術の民間企業が事業化することへの支援、さらに優れたアイディアに対する事業化までの必要な経費の支援、そして環境整備など、かなり手厚い体制が組まれている。

◆宇宙ビジネスに手厚い支援が必要なわけ

 宇宙ビジネスにこれほど手厚い支援が必要なわけは、他の分野に比べて、参入障壁がとても高いという事情がある。

 たとえばIT分野などであれば、数千万から数億円といった少ない額からスタートすることもできるが、宇宙業界ではロケットを1回打ち上げるのに約100億円もかかり、人工衛星の開発・製造も(規模にもよるが)それと同じくらいか、さらに多額の金額が必要になるなど、まず動き出すだけでも莫大な資金が必要になる。

 また、ロケットの打ち上げには失敗がつきものであり、失敗し、載せていた衛星が失われれば、数百億円が吹き飛ぶことになるなど、リスクが高い。つまり何回か失敗するという前提で、それでも事業を続けられる資金力が必要になる。

 さらに、事業として成立するまでには時間もかかる。たとえばイーロン・マスク氏の宇宙企業スペースXも、設立(2002年)からすでに16年が経って、ようやく当初の目標の道半ばといった場所にいる。ジェフ・ベゾス氏率いるブルー・オリジンも、設立(2001年)から17年経つが、まだビジネスという点では大きな成果は残せていない。

 つまり研究開発に必要な時間がとても長く、その間は基本的に商品やサービスの販売による利益は見込めない。マスク氏やベゾス氏はともに大富豪であり、私財を投じられるためやや例外的だが、他の企業であれば、その間は投資家や国による投資や支援が頼みの綱となる。

◆日本の宇宙ビジネスは世界と太刀打ちできるか

 とくに米国では、こうしたことへの理解が十分にあり、さまざまな投資家が宇宙ビジネスにお金を流し、中にはかつてのフェイスブックやUberなどと並ぶ、評価額10億ドルを超える“ユニコーン企業”も存在する。

 いっぽう日本でも、すでに20〜30社ほどの宇宙ベンチャーが立ち上がっており、米国企業に負けないユニークなアイディアをもつところも多い。しかし、資金面、人材面で苦労しているという声がよく聞かれる。今回の支援策によって、そうした問題が少しでも解決することが期待される。

 ひとつ大きな課題があるとすれば、大企業がこれにどこまで応えられるかということだろう。昨今、日本企業が莫大な金額の内部留保を溜め込んでいることが話題になっているが、その一部でも宇宙ビジネスに流れることになれば、大いに活性化することになる。

 また、現在の日本の宇宙ベンチャーの数は、米国などに比べるとはるかに少ない。だが、国や企業からの支援が増え、宇宙ビジネスに参入しやすくなれば、挑戦しようという人も大きく増えることになろう。

 そして国内で、そして海外との間でも競争を発生させ、切磋琢磨して成功と失敗を重ね、新しい産業として自立できるようにしなければならない。その過程で、いくつかのベンチャーはつぶれることになるかもしれないが、それが新しい産業が生まれるということである。そして競争によって、宇宙業界はさらに活性化する。

 そうした好循環をどのようにつくり出していくか、つまりこうした支援策という骨組みに対していかに血を通わせるかが、日本の宇宙ビジネス全体が成功する鍵になろう。

 その結果は、私たちの生活がより便利に、より豊かになるという形で還元されることになる。たとえば衛星からの情報はビッグデータのひとつとなり、衛星による通信はインフラとなり、ロケットによる宇宙輸送は人や物の流れを変える。宇宙旅行が実現すれば、宇宙が人類の新たな活動圏、経済圏となるのも夢物語ではない。それによる可能性は計り知れない。

<文/鳥嶋真也>
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行っている。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
Webサイト: http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info)

【参考】
・政府関連施策:宇宙政策 - 内閣府 - 宇宙ベンチャー育成のための新たな支援パッケージ(http://www8.cao.go.jp/space/policy/pdf/package.pdf)
・平成30年3月20日 第3回宇宙開発利用大賞表彰式 | 平成30年 | 総理の一日 | 総理大臣 | 首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201803/20uchuu.html)
・宇宙ビジネス投資等マッチング・プラットフォーム(S-Matching):宇宙政策 - 内閣府(http://www8.cao.go.jp/space/s-net/s-matching/index.html)
・宇宙産業ビジョン2030(http://www8.cao.go.jp/space/vision/mbrlistsitu.pdf)
・宇宙関係予算について : 宇宙政策 - 内閣府(http://www8.cao.go.jp/space/budget/yosan.html)