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 筆者は2018年中に日銀が出口戦略第一弾としてYCC(イールド・カーブ・コントロール)の微調整に着手する予想していますが、その予想は後ろ倒しリスクに晒されています。イールド・カーブ・コントロールとは、日銀が2016年9月から実施している金融政策で、短期金利を▲0.1%、長期金利を0%程度に誘導するというもの。ここでいう微調整とは10年金利の引き上げを想定しています。

YCC調整開始の条件とは?

 筆者が想定するYCC調整開始の条件は、1. 世界経済が安定成長の軌道を維持する下で、2. 金融市場が落ち着きを保ち、3. 消費者物価が1%超で6カ月程度推移する、主にこの3つです。このうち1. は最近になって景気拡大のモメンタム鈍化を示唆する兆候が散見されているものの、足元で世界経済は好調な成長軌道を維持しており、条件を満たしています。3. については2月に消費者物価は1%に乗せ、先行きについても同程度の推移が見込まれることから、条件を満たしつつあると言って良いと考えられます。

 問題は2. です。2月以降の株価下落はまだしも、足元で急速に進みつつあるUSD/JPYの円高は、日銀の懸念事項になっているに違いありません。USD/JPYが100円を大幅に下回れば、YCCの微調整といった引き締め方向への政策転換は難しくなります。そればかりか、円安方向への転換を促す“工夫”を日銀が検討してくる可能性すらあるでしょう。

 とはいえ、日銀の追加緩和手段は限られています。現在、日銀は「金利」「量」「質」という3本柱の政策パッケージを採用していますが、このうち「金利」はマイナス金利深掘りや、片岡委員が主張するように10年超の金利コントロールに触手を伸ばすことも考えられますが、金融仲介機能(金融機関の収益圧迫など)への副作用を考慮すると採用しづらい選択肢でしょう。金利低下による限界的効果は明らかに逓減しています。

 「量」は残存する国債の流通“量”に限界があり、すでに放棄した長期国債の買入れ“量”を増やすことは考えにくいです。

 そして「質」はETFの購入枠6兆円をさらに増やすことは技術的に可能ですが、日銀という公的機関が株式を購入することに対する世間のアレルギーは強いです。選挙で国民の支持を直接受けていない日銀メンバーがそこまで大胆な政策を決定するのはハードルが高いでしょう。

追加緩和が難しい場合の日銀の選択肢とは?

 このように「金利」「量」「質」のいずれも追加緩和が難しい以上、日銀が採れる選択肢は「ガイダンスの強化」に限られます。ガイダンスとは端的にいえば「約束」です。本来は経済環境によって柔軟に変化するはずの金融政策を“縛る”ことによって、「どんなに景気が良くなっても金融緩和を続けますよ」というシグナルを送り、金融緩和の効果を高める狙いがあります。

 そこで考えられるのは、YCC、すなわち長期金利の0%据え置きを約束することです。つまり「金利が上がらない安心感」を提供するわけです。約束の厳格度合いをどれほど強めるかなど難しい問題はありますが、こうしたコミットメントの強化は日銀が採用し得る数少ない(唯一の?)選択肢です。現時点で日銀の追加緩和が俎上に上がる可能性は限定的で、今後もそうした状況は基本的に想定していませんが、USD/JPYが100を大幅に割り込むなど日銀が最も避けたい事態に直面した場合は、事実上の追加緩和手段としてガイダンスの強化が浮上してくる可能性は否定できません。

(第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)

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