トランプ政権は「国家安全保障戦略」や「国防戦略概要」などによって、中国との対決姿勢すなわち「中国封じ込め」へと戦略を変針した。そしてトランプ大統領はティラーソン国務長官を解任し、強硬派といわれているポンペオCIA長官を新国務長官に据えた。引き続き陸軍中将マックマスター国家安全保障担当大統領補佐官を解任し、後任に対中強硬派かつ新台湾派のボルトン前国連大使を据えた。さらに、アメリカ政府高官による台湾訪問を解禁するための「台湾旅行法」を制定した。

 このような動きに対して中国人民解放軍首脳は、中国軍は3日間で台湾を占領することができると台湾と米国を恫喝している。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

全面攻撃による軍事占領は現実的ではない

 南京軍区副司令員、王洪光中将によると、中国軍は6種の戦い方(火力戦、目標戦、立体戦、情報戦、特殊戦、心理戦)を駆使することにより、台湾を3日で占領してしまうことができるという。

 王洪光の主張が掲載された「環球時報」は中国内外の一般向けプロパガンダ色が強い中国政府系メディアであるため、王洪光は「中国軍が台湾を占領する」という単純なシナリオをぶち上げたものと考えられる。

 しかしながら、王中将が豪語するように中国軍が3日で台湾を軍事的に制圧できる能力を保持しているとしても、そうした全面的な台湾侵攻作戦を実施するとは考えにくい。

 実際には、中国軍が侵攻占領部隊を台湾に送り込む「立体戦」の準備段階として、大量のミサイル攻撃や砲爆撃(「火力戦」)によって台湾側の軍事的・戦略的拠点を徹底的に破壊(「目標戦」)した段階で、台湾軍には組織的反撃能力がなくなってしまう。中国政府はこの機を捉えて台湾政府に降伏勧告を突きつけ、台湾島内での地上戦を回避しようとするだろう。

 中国政府にとっては、台湾を併合することが究極目的である。将来統治する土地で地上戦を繰り広げるのが得策でないことは、古今東西の歴史が物語っている。

「戦わずして勝つ」が中国の伝統

 現時点でも、中国軍は中国本土から台湾に打ち込める短距離弾道ミサイルを800〜1000発、長距離巡航ミサイルを1000発以上は保有している。また、それらに加えてミサイル爆撃機や駆逐艦、それに潜水艦などから発射する対地攻撃用ミサイルも数百発保有している。

 そのため、米軍関係戦略家たちの間で「短期激烈戦争」と呼ばれる、中国軍による敵(台湾や日本)に対する各種ミサイル集中連射攻撃により、3日といわず半日で敵の軍事拠点や戦略拠点は徹底的に破壊されてしまうだろう。

 台湾には、中国による短期激烈戦争を跳ね返すだけの軍事力は備わっていない。また、「台湾関係法」によって台湾が侵攻された場合に備えて軍事的対抗能力を用意することを公言している米国といえども、そして、対中封じ込め戦略に転じたトランプ政権といえども、米中戦争を前提とした対中国軍事行動を即座に発動することは考えにくい。したがって、現状では、中国が台湾に対して短期激烈戦争を発動した場合、台湾は数時間にわたるミサイル集中攻撃によって中国の軍門に降る確率が極めて高いといわざるを得ない。

 ということは、中国側にとっては、なにも実際にミサイルを発射する必要はない。「短期激烈戦争を発動する」と台湾政府を脅して、中国側の要求(とりあえずは「台湾の軍事外交権を中国共産党に明け渡せば、そのほかの自治的統治権と資本主義経済システムの維持は保証する」という要求)を台湾政府に呑ませることが可能になりつつあるのだ。「孫子」の伝統に立脚する中国軍事戦略にとって、「戦わずして勝つ」ことこそ最優先事項である。

台湾の危機は日本の危機

 中国政府にとっては、もちろん台湾を完全に併合してしまうことが理想である。だが、古今東西の数多くの事例から、軍事侵攻を経た後の占領統治が容易ではないことは明らかだ。

 そこで、「短期激烈戦争を発動する」という脅しによって台湾の軍事外交権を手中にし、香港マカオのような一国両制に持ち込めば、軍事的には「戦わずして勝つ」ことになる。

 なんといっても、台湾に中国人民解放軍の航空基地や海軍基地を設置するとともに各種ミサイル部隊を配備すれば、南西諸島とりわけ先島諸島は中国軍の各種ミサイルの射程圏内にすっぽり収まり、台湾から飛来する中国軍爆撃機や攻撃機のほうが沖縄から飛来する自衛隊機よりも「距離の優位」を手にすることになる。また、台湾東部に中国海軍基地を設置し、潜水艦や水上戦闘艦を直接太平洋に送り出せるようになれば、沖縄周辺海域の日米海軍艦艇を東シナ海側と西太平洋側から挟撃することも可能になる(下の図)。

中国海軍は直接太平洋に出動できるようになる


 日本の国防にとっては、台湾が中国人民解放軍に占領されて完全に中国に併合されてしまおうが、台湾政府が「短期激烈戦争」発動の脅しに屈して中国政府に軍事外交権を明け渡してしまおうが、いずれにしても極めて深刻な状況に直面することになる。王洪光中将のメッセージは、台湾とアメリカに対してだけではなく、日本にも向けられているのだ。

筆者:北村 淳