「GRスープラ レーシング コンセプト」が披露され話題をさらった(写真:筆者撮影)

トヨタ自動車がかつて2002年まで販売していたスポーツカー「スープラ」の復活が近づいている。3月にスイスで開かれたジュネーブモーターショーで、5代目に当たる次期スープラをベースにしたとみられるレーシングカー「GRスープラ レーシング コンセプト」が披露され、自動車業界の話題をさらった。

スープラの復活をその歴史とともに考察する

次期スープラ市販モデルのお披露目は今秋といわれている。そんなスープラの復活をその歴史とともに考察したい。


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1978年、2代目セリカのフロントノーズを延長し直列6気筒エンジンを搭載したモデルが初代スープラ(日本名:セリカXX)だった。北米市場の要望により開発されたモデルだが、初代(A40/50系)はスポーツカーというよりもラグジュアリーなGTカーという立ち位置のモデルだった。

1981年に登場した2代目(A60系)は、セリカの上級モデルという立ち位置は不変だが、初代のコンセプトはソアラに譲りスポーティ路線へと変更。エクステリアはリトラクタブルヘッドライトを採用し独自性を高め、サスペンション開発はロータスに委託するなど、走りの良さをアピールしていた。海外向け仕様は日本向けにはないオーバーフェンダーが特長だった。


歴代のスープラ(筆者撮影)

1986年に登場した3代目(A70系)はセリカから独立したモデルとなり、日本向けも海外向けと同じくスープラと名乗るようになった。基本コンポーネントはソアラと共用となりスポーツ色はさらに高められた。ツーリングカーレース用のホモロゲモデル「ターボA」も用意。最後期モデルでは上級モデルのパワートレインが、同じ直列6気筒ながらM型(3.0Lターボ)から最新のJZ型(2.5Lターボ)に刷新された。

1993年に登場した4代目(A80系)はトヨタスポーツカーのフラッグシップとして開発。基本性能に徹底してこだわり、ドイツ・ニュルブルクリンクで鍛えられたモデルとしても有名だ。ハイパワーのFRながらもコントロール性の高さは今でも通用するレベルで、現在もトヨタの社内訓練車として活用中である。モータースポーツの世界でも活躍し、全日本GT選手権/スーパーGTでは4度のチャンピオンに輝いている。

しかし、2002年平成12年度自動車排出ガス規制に対応できず生産終了。スープラの歴史はここで一旦幕を閉じる。その後、2006年に「セリカ」、2007年に「MR-S」が生産終了。トヨタのラインナップからスポーツカーが消えた。

絶滅の危機にあったスポーツカー市場を活性化させた

一方で、2012年、トヨタ×スバルの共同開発で「86」が登場。トヨタが1983〜1987年に販売していた「カローラ/スプリンター」のスポーツモデル「レビン/トレノ」の車両型式番号「AE86」を車名の由来とした。AE86の精神を受け継いだライトウェイトFR(後輪駆動)スポーツは世界中で大ヒット、絶滅の危機にあった日本のスポーツカー市場を活性化させた。


開発責任者の多田哲哉氏(写真:筆者撮影)

開発責任者の多田哲哉氏は日本での発売を皮切りに各国のローンチのために世界中を飛び回っていたが、ヨーロッパ向けの試乗会をスペインで開催している時、現会長の内山田竹志氏から「ドイツのミュンヘンに行ってこい、ただし誰にも気づかれずに」という秘密の指令を受けたという。

試乗会の真っただ中に開発責任者が忽然と姿を消したため、現地では大騒ぎとなったそうだが、この時の秘密のミッションがBMWとスポーツカー共同開発のプロジェクトへの第一歩だったのである。

元々は86の兄貴分となるピュアスポーツカーの企画が発端だったというが、86のイベントで世界各国に行くと「スープラは復活しないのか?」、「86の次はスープラでしょ!!」といったラブコールを受け、その気持ちに応えることになったという。


BMW「 Z4」(写真:筆者撮影)

すでに兄弟車となるBMW「 Z4」はコンセプトモデルが昨年のフランクフルトモーターショーで登場。スープラの動向が注目されていたが、前述のように今回のジュネーブモーターショーでコンセプトモデルがお披露目された。驚きなのは市販モデルではなくレーシングカーであったことだ。ちなみにゼッケンは「90」となっているが、これは5代目(A90系)を示している。

正真正銘のレーシングカー

「雰囲気だけ似せたイメージではなく、LM-GTE(レーシングカーの車両規則の一つ)規定に基づいてドイツのTMG(トヨタモータースポーツ有限会社)で開発を行った正真正銘のレーシングカーです。本来はコンセプトモデルなので見た目だけでいいのですが、スポット溶接やロールケージなどもシッカリと行っています。

これにもちゃんと理由があります。これまで量産車→レーシングカーに仕立てる際に『量産車の段階でこうしておけばよかった』と後悔することばかりでしたが、先にレーシングカーを仕立てることで、量産車にもいいフィードバックができるというわけです」

スープラの開発はレーシングカンパニーである「GRカンパニー」が担当するが、モータースポーツを通じてクルマを鍛える……という部分は、このような所にも表れている。

ただ、一つ気になるのは、なぜ世界のモータースポーツカテゴリーに参戦可能なFIA-GT3ではなく、LM-GTE仕様に仕立てたのかということだ。

多田氏は「改造範囲が広いため開発に役に立つ」と語るが、恐らくトヨタの「ル・マン24時間」へのこだわりの表れだ。今年もWEC参戦を発表しル・マン24時間制覇を目指すが、総合優勝を狙うトップカテゴリーではなく市販車をベースにしたカテゴリーへの参入も検討されているのだろう。そう、ポルシェと同じように。

エクステリアはロングノーズ&ショートデッキの伝統的なFRプロポーションを採用。幅広のフェンダーや大型ウイング、リアディフューザーなどレーシングモディファイが施されているが、フロントマスクやリアフェンダーなどは懐古的ではないものの4代目の流れを汲んだデザインで、BMW Z4コンセプトとはデザインの共通性はない。ボディサイズはパッと見るとコンパクトな印象を受けるが、全長4575×全幅2048×全高1230mm、ホイールベース2470mmと4代目とほぼ同等だ。

インテリアはレースに不必要なアイテムは取り外され、各種レース用アイテムが組み込まれている。インパネ上部とセンターのモニター(後方確認用)が見えるが、ここから市販モデルを予想するのは難しい。ただ、歴代スープラと異なるのは、後席がない2シーター仕様であることだ。

「スポーツカーは基本素性が重要です。これまでトヨタはスポーツカーでも色々な要件を盛り込みすぎて、結果的に中途半端なモデルなってしまっていた反省もありました。そこで今回はピュアスポーツとしてベストなホイールベース/トレッドを優先させてレイアウト。そのため2シーターに割り切りました」

歴代スープラから継承しているポイント

ちなみに歴代スープラから継承しているポイントは「FR駆動」と「直列6気筒エンジン」の2点。パワートレインに関しては具体的なスペックは公表されていないものの、BMWのエンジンラインアップから推測すると350〜400馬力前後の3Lターボエンジンを搭載するだろう。トランスミッションは2ペダル(DCTか!?)のみの設定という噂が強いが、3ペダルMTの可能性はゼロではないそうだ。

トヨタは2025年をメドに全車種に電動車両を展開することを発表済みだが、この次期スープラが純粋なエンジンのみを搭載する最後のトヨタ車かもしれない。車両重量はi8/i3で培ったカーボン技術を応用、かなり軽量に仕上がっているそうだ。

多田氏は86でトヨタ×スバル、パッソ(初代)でトヨタ×ダイハツと異なるメーカー同士の共同開発を経験しているが、今回のトヨタ×BMWの共同開発はどうだろうか?

「86をスバルと共同開発した時も『大変だったな』と思いましたが、今回はその比ではありませんね。文化はもちろんクルマ作りのアプローチも全然違います。なので、開発当初はギクシャクしていたこともありましたが、『どんなクルマにしたい』という本音をぶつけ合うことと密にコミュニケーションを取ることで、現在は非常にいい関係を築けています。そういう意味では、『居酒屋トーク』と『人』のつながりというのは世界共通ですね」

ベンチマークはポルシェ。芸術作品ではなく工業製品としてのスポーツカーを目指しているそうだ。トヨタスポーツのフラッグシップ、スープラ復活まであと少しの辛抱である。