米国のトイザラス店舗(「Wikipedia」より)

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 昨年9月、連邦破産法第11条(通称チャプターイレブン:日本の民事再生法に相当)の適用を申請した米玩具販売大手トイザラスは、米国での事業継続を断念した。経営陣は米国のすべての事業を売却する考えを表明している。これを受けて、3万3000人の雇用に影響が出る見通しだ。なお、日本国内で事業を展開する日本トイザらスの経営は独立しており、事業の継続に影響はないとみられる。

 米トイザラスの経営悪化は、すでに市場関係者の間では認識されてきた問題だった。2005年、同社はプライベート・エクイティ・ファンドに買収され、経営再建に取り組んできたからだ。同社にとって想定外だったのは、アマゾンの躍進によってオンラインでのショッピングが急増し、店舗での玩具消費が大きく落ち込んだことだ。その結果、財務内容の立て直しが思うように進まなかった。同時に、トイザラスは新しい分野への進出を進めて需要を生み出すことが、できなかった。

 今後、さらに小売業界を中心にネット企業との競争は激しさを増すだろう。小売業界が生き残っていくためには、モノを売ることだけでなく、これまでの経験やノウハウを生かして新しい収益源=需要を生み出していくことが求められる。それは、投資ファンドによる経営再建の手法ではなく、企業自らの知見に依存するところが大きいと考えられる。

●トイザラスをのみこんだ強敵アマゾン
 
 3月15日、トイザラスは、米国とプエルトリコ自治連邦区での事業を閉鎖(清算)すると発表した。同社は事業の売却を進める意向を示している。過去10数年間に及ぶ経営再建がうまくいかなかったことを踏まえると、売却先が短期間で見つかるとは考えづらい。特に、米国ではFRB(連邦準備制度理事会)が段階的な利上げを重視している。金利が上昇していく可能性があるなかで、借り入れを通して経営を続け、事業基盤を強化しようとしてきたトイザラスの再生に商機を見いだすのは難しいだろう。

 債務依存度の高い財務面での問題に加え、足許の競争環境も事業の再生を難しくする要因だ。トイザラスの再建が難しくなった最大の原因は、客足が遠のいたからだ。端的に言えば、トイザラスの顧客を、アマゾンがのみ込んだのである。

 昨年のクリスマス商戦ではアマゾン経由の販売が増加し、カード決済や宅配貨物の取扱量が増えた。その分、トイザラスは顧客からの支持を失ったといえる。特に昨年はトランプ政権による減税の成立などを受けて、消費への追い風が強まりやすかった。アマゾンがクリスマス商戦でのシェアを高めたことは、トイザラスの経営陣にとって経営の再建を断念する決定打となった可能性がある。

 アマゾンに対抗するために米国の小売企業は、販売価格の引き下げや特典の付与などを行っている。同時に、アマゾンはネットワーク技術を用いて他社の販売価格を調査している。小売業界が安値攻勢に出れば出るほど、アマゾンは販売価格を引き下げ、小売業界全体が価格競争に巻き込まれていく恐れがある。これは日用品や玩具に限らず、家電などの耐久財にも浸透していく可能性がある。これまでのような状況が続くのであれば、小売業界全体がECの波にのみこまれていくだろう。

●十分な成果を上げられなかった投資ファンド
 
 トイザラスの再建を考える上では、投資ファンド(ベインやコールバーグ・クラビス・ロバーツなどのプライベート・エクイティ・ファンド)が何を果たしたかも見逃せない。2005年、投資ファンド連合は、トイザラスの資産を担保に資金を借り入れて同社を買収した(レバレッジド・バイアウト、LBO)。投資ファンドはリストラを進めながら中国など消費の拡大が期待される地域への進出を強化して、収益基盤を強化することを目指した。

 ファンドによる買収後、世界の消費財市場ではウォルマートなどの大型ショッピングセンター運営企業が事業を拡大し、アマゾンも成長した。その間、トイザラスは玩具を専門に扱う小売業者としてのビジネスモデルを堅持した。より早い段階で、他社との経営統合を模索したり、アマゾンとの関係強化を目指してもよかったはずだ。

 本来であれば、投資ファンドには成長の触媒となる要素を見分け、それを投資先の企業に持ち込むことが求められる。それゆえ、プライベート・エクイティ・ファンドのリスクは相対的に高く、流動性も低い(現金化するためにかかるコストが高いということ)。トイザラスが再建を断念したことは、そうした本来求められる役割が果たされなかったことを示唆する。事業環境と同様、あるいはそれ以上に投資ファンドが何をしようとしたか、なぜそれが効果を発揮しなかったかは注目されてよいはずだ。

 ハイテク企業の成長性が注目を集めてきたこととは対照的に、世界全体で投資ファンドの生み出してきたリターンは低下基調にある。数年単位でみるとリターンの上下動はあるが、趨勢は右肩下がりだ。本来、相応のリスクを取って事業の再生などを実現すべき役割が果たせていないことは、企業成長のメカニズムそのものが投資ファンドの重視してきた発想から変化しつつあることの表れのように見える。

●小売業界が迎える試練の時代
 
 その変化とは、特定のビジネスモデルを念頭に置いた経営戦略がワークしづらくなっていることといえる。トイザラスの創業者である故チャールズ・ラザラス氏は、顧客の願望が何か、それをどう叶えるかを重視した。トイザラスにとって、玩具はそれを実現する手段だった。

 経営が行き詰まるとともに、同社は目先の利益の確保を重視せざるを得なくなった。顧客とのかかわりから得られた知見を、別の分野に応用する余裕はなくなっていったと考えられる。アマゾンの成長とともに、小売業界ではこうしたケースが増える可能性がある。

 トイザラスの事業清算からいえることは、特定のモノを販売して成長することが難しくなったということだ。小売業のかなりの部分がネットによって代替され、消費者の利便性が向上している。価格面で勝負をすればするほど、低価格競争の激化と収益性の悪化が連鎖反応のように進む恐れもある。

 その展開に巻き込まれることは避けなければならない。中国のアリババや、アマゾンが手がける無人店舗のように、店舗の運営を省人化することでコストは削減できる。問題は、浮き出た労働力を活用して新しい需要確保につなげることができるか否かだ。それができないと、雇用機会が失われて経済が縮小する恐れも出てくるだろう。

 小売業界に求められるのは、ネットワーク技術を活用して既存のビジネス運営の費用を減らしながら、人にしかできないビジネスを創出することだ。確かに、ネットワーク技術の応用は、私たちの生活環境の向上につながる。同時に、ウーバーの自動運転車の事故にみられるように、生活にかかわるどこまでを機械に任せるかは判断が難しい。

 そうした問題を議論するよりも、介護や医療、子育てなどの分野に労働力をシフトさせていったほうが、社会全体での満足度を高めることはできるだろう。接客など小売業のノウハウを生かすことのできる範囲は多いはずだ。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)