安倍昭恵氏(写真:ロイター/アフロ)

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 本連載前回記事で、森友学園問題をめぐる財務省の本音と焦りについてお伝えしました。当時の財務省が省を挙げて「消費税増税の再延期を食い止めたい」と思っていたことは、先述した通りです。そして、もうひとつの焦点が安倍昭恵首相夫人の存在です。

 森友学園前理事長の籠池泰典被告が言うように、昭恵夫人が「いい土地ですから、前に進めてください」と言ったかどうかはわかりませんが、財務省が公文書の中に昭恵夫人の名前を出していたのは、「これはくれぐれも慎重に扱わなくてはいけない、特別な案件だ」という意思表示でしょう。

 さらに、昭恵夫人付きの官僚の谷査恵子さんから問い合わせが来たとなれば、財務省としては「これはおろそかにできない」ということになるでしょう。そういう意味では、佐川宣寿前国税庁長官が断言したように、安倍晋三首相が直接関与したわけではないと思います。ただ、首相からの直接的な指示はなかったとしても、昭恵夫人の関与は否定できません。

 昭恵夫人の扱いをめぐっては、政府も異例の対応をしています。17年3月14日、政府は「昭恵夫人は公人ではなく私人であると認識している」との答弁書を閣議決定しました。そもそも、閣議決定とは重要事項の政府としての統一見解を決定するもので、反対する閣僚がいれば罷免しなくてはならないほど重いものです。そして、閣議決定された閣議書には花押が押され、皇居・御座所に送られます。

 そんな重要な決定をしなくてはならないということは、逆にいえば、公人と受け取られても仕方ない要素があるからではないでしょうか。

 実際、昭恵夫人は公人としての役割も果たしています。第1次安倍政権で松岡利勝農林水産大臣が自殺したとき、昭恵夫人は密葬で首相の代理として「内閣総理大臣の弔辞」を読んでいます。官房長官や官房副長官が首相の公務を代行することはあっても、選挙も経ていない夫人が「首相の代理」として参列し弔辞を読むというのは前代未聞でしょう。これは、「医師が忙しいので、代わりに医師免許のない夫人が患者を診る」ようなものです。

 また、私人なのに、なぜ国が給料を払っている国家公務員が5人も秘書につくのかも疑問です。16年の参議院議員選挙では、その官僚たちを随行して、自民党の候補者の選挙応援を繰り返し行っています。これについては、国会で「国家公務員法第102条の『国家公務員の政治的行為の制限』に違反するのでは」との指摘を受けています。

●「破棄」ではなく「改ざん」を選んだ財務省

 百歩譲って昭恵夫人が私人だとしても、首相の妻であることには変わりありません。首相夫人というだけで、一目置く人は多いはずです。しかも、安倍首相はことあるごとに昭恵夫人をかばってきました。昭恵夫人が名誉校長として深くかかわっている案件に対して、財務省の官僚が昭恵夫人の影響力の大きさに鑑みて忖度したとしても、不思議ではないでしょう。

 安倍首相は、17年2月に国会で「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と発言しました。この言葉が財務省に与えたインパクトは、かなり大きかったと思います。

 その1週間後に、佐川氏は国会で「記録は破棄した」と答弁しています。世間的には、「この佐川氏の答弁に合わせて改ざんが行われたのではないか」といわれていますが、佐川氏の答弁に合わせるのであれば、本当に記録を破棄してしまえばいいはずです。

 しかし、財務省は記録を破棄ではなく改ざんしました。これは、役人としてやってはならないことであり、そのため改ざんにかかわった職員が自殺する悲劇まで起きています。

 なぜ、それほど重い罪を犯してしまったのか。やはり、佐川氏の発言の前に出た、安倍首相の「首相も国会議員も辞める」という言葉が引き金になっていると見るほうが自然です。そして、佐川氏は安倍首相と財務省を守るために「記録は破棄した」と言ったのではないでしょうか。

 そこから財務省内での改ざんが始まるわけですが、その内容を見ると、昭恵夫人や複数の政治家の名前が消されています。それは、「昭恵夫人の名前が出てきたら、安倍政権が危機的状況になる」「そうなれば、消費税増税の芽は完全に消えてしまう」と考えたからではないでしょうか。

 消費税を5%から8%に上げるまで、財務省は17年の歳月を費やしています。少しうがった見方かもしれませんが、その間ずっと涙ぐましいロビー活動を続けてきたわけですから、「また白紙に戻したくない」という考えが働いたとしても不思議ではないでしょう。

 政治家ではなく財務省という視点から、森友学園をめぐる問題を見てきました。結論は、「改ざんは財務省の独自の判断だが、昭恵夫人が与えた影響を見ると、関与は否定できないのではないか」というものです。

 まだまだ謎の多い問題なので、早急に真相を解明していただきたいと思います。
(文=荻原博子/経済ジャーナリスト)